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第二章 第十三話「私の魅力」

大きな魔力で放った攻撃は、数キロ離れた森にいた民兵隊の一人、副団長のフウカにまで届いていた。

シークリフはもう殆ど機能していないとされる街。

しかし街を襲ったのはその街の住人とされていた。

ただ断定するのは早計。グラディウスのサンライズ・アクアシアを待ってからとなった。

「あ~あ⋯⋯今日もとくに収穫なく終わったなぁ~」


とある夜。俺はボロい宿の一室にて愚痴をこぼす。


「本っ当になんにもないじゃん⋯⋯」


俺に続くように盛大にため息をつくのは天。

彼女はボロボロのベッドに腰掛けて、偉そうに足を組み、「あんたも使えないし」とさらっと暴言を吐く。

本来なら「聞き捨てならないな?」とか返すが、今はそんな気力がない。


あれから数日、俺たちはこの街で帰る方法を探していた。

しかし街アサガナを出る時に金貨を置いてきたせいで一文無し。

ヴィランダさん達に縋ったが、「だったら働けっ!」と追い出されてしまった。まぁこの街の人たちはそうやって生活しているのだから、俺たちが甘え過ぎていたのだろう。

それでも今晩だけはと縋ろうものなら、俺の怪我の事を持ち出して、古びた紙をチラつかせてきたのであえなく退散。

かといって武器も無しに容易に街から出られない。かといって武器を買う金も今はなく⋯⋯。

そうしていきなり天とその日暮らしの生活が始まった。

やれる仕事といえば漁師の手伝いが毎日余っていたので手伝わせてもらったが、そもそも魚を引き揚げるのも大変で、さらに船に上がってくる魔物とも闘うので帰ってくる頃にはへとへとですぐに爆睡。

残っていた天が調べていたが、俺がいないのを良いことにライドが付きまとっているらしく、上手く動けないでいた。


「で?今日はいくら貰ったの?」


俺は手のひらにある銅貨を五枚見せる。天から「は?」と驚きの声が上がった。


「え?たったのこれだけ?」


俺はもう出ない声を無視してコクリとだけ頷いて返す。天は天井を仰いで虚ろな目をして絶望する。


「これじゃあ銅貨一枚しか残らないじゃん⋯⋯」


この宿は一部屋銅貨四枚する。つまり一枚のみ。

さらに食事もお金が掛かるので実質マイナス。

ここ数日、コツコツ貯めた分を合わせても五枚も残らない。

天はポケットからとある紙切れを取りだして確認し、落胆する。それは簡単に言えば債務書である。


「やっぱり何度数えても銀貨五枚⋯⋯あんたが最初に酒場なんて行くから」


キッと睨まれた俺は口を開いて抗議する。


「仕方ないじゃん。あの時はライドっていう親友が出来た最高の日だったしな」


「はぁ⋯⋯だとしても考え無しに飲み食いしないでよ。あんたのせいで今私たち借金もあるんだよ?」


ぐっ⋯⋯天め、痛い所をついてきやがる。


「あの時はテンション上がってというかなんと言うか。でもライドが立て替えてくれたじゃん」


「あんた今そのライド君に脅されてるんじゃなかったっけ?」


「ギクッ!?」


そう。俺はライドに全額立て替えてもらった。

しかしそれには条件があった。


一週間で銀貨二枚の返済だ。たとえ銅貨一枚滞ったとしても許されない。

もし破ったら、天に好き勝手できるという条件。それ以外では貸してくれないと言うのであえなく呑んだ。


「もし出来なかったらあんた十発無抵抗でぶん殴られるんでしょ?まぁいざとなったら働いてあげるから何とかしなよ」


残念ながら天に好き勝手できるなんて事を条件にしたのは本人に言っていない。⋯⋯傷付くかもだし。


「お、おう。⋯⋯何とかするよ」


だとしても俺が撒いた種だ。出来る限り俺だけで返済したいところ。

ライドはこの街では稼ぎが悪い事を知っていて言わなかったに違いない。

全く、抜かりのない奴だ。⋯⋯それだけ天は魅力的に映ってるという事か?


「ん?なに?」


俺の視線に気付いてこちらを見やる天と視線が絡み合う。思わず息を呑んだ。

大きな瞳。

ぱっと見開かれた茶色の瞳は、タイガーアイのように綺麗で、吸い込まれてしまいそうなほど魅力的だ。きめ細やかな白い肌に栄える絹糸のようなブロンドヘアー。

さすが学校一の美人と言われるだけのことはある。しかしその顔はフッ、と笑い厭らしく歪めたかと思うと悪態をこぼす。


「ま、十発くらいあんたが受けるのを見るのも楽しいかもね」


前言撤回。

少しでも美人と思った数秒前の自分を殴りたい。中身が伴っておらず壊滅的だ。


「あ~あ、あんたの稼ぎが悪いせいでこんなぼろ宿に二人で寝泊まりするなんて最悪」


天の毒舌は止まらない。

うざったらしく脚を組みかえてぺらぺらと悪態が出るわ出るわでまるでマシンガン如く俺に突き刺さる。

最初こそ傷付いていたが、それは耐えかねて苛立ちへと変わる。


「は?俺だって毎日くたくたになるまで働いているんだぞ?お前の方こそなんも調べられてないくせに、ポンコツはどっちだよ」


カチンときたのか、天の額にピキッと筋が走る。

言い過ぎたなんて思わない。こっちも言いたい放題言われてんだ。


「はぁ?私だって!まだ怖いけど、人に話したりして探してるんですけど!?」


天は勢い任せに立ち上がり吠えるも、俺はそれを鼻を鳴らしてあざけ笑う。


「はっ、どうだかな!本当は毎日ライドと遊んでるだけじゃないの?」


「あ”!?」


怒りが頂点に達した天が俺の胸ぐらを掴む。

いつ殴りかかってきてもおかしくない状況。

俺はそれをも鼻で笑ってみせる。


-やれるもんならやってみろ!


俺は天に強引に立たされベットに押し倒される。

ボロいベットが軋み、今にも壊れそうに音を鳴らす。

後ろは壁。さらに逃げられないように俺の股の間に容赦なく膝を入れる。


「んなわけ-」


振り被られた拳は俺の顔面目掛けて飛んでくる-とそう思った。

その拳は俺の顔を横を抜けて素早く後頭部に回されると、ぐいっと天の顔へと引き寄せられる。


「-ッ!!?」


唇に重ねられた生暖かく柔らかい感触。

俺の見開かれた目には、視界いっぱいに映る天の顔。

ドキッ、と今にも破裂しそうなほど心臓が高鳴る。

反射的に押しのけようとするも天の力はさらに込められて離れることが出来ない。


「⋯⋯ちよっ、やめ⋯⋯」


間に抵抗を挟むも天は意に返さない。

そこでようやく頭が事態に追いつく。


「ンッ、んぐっ⋯⋯」


口の中になにかが無理やりねじ込まれてくる。

こいつ、⋯⋯舌とか入れてくるなよっ!?


刹那、脳が蕩けるような感覚に頭の中が真っ白に飛ぶ。

混乱、感触と、初めての感覚に圧倒的情報過多が起こり何も考えていられない。


「ぷはっ」とようやく離れたと思えば、天は欲情したように息を切らして目にはハートを浮かべていた。

ペロッと絡み合った涎を舐め取り、天は恍惚な表情をみせる。


「ゆうとぉ⋯⋯好きぃ」


「はぁ!?」


急にこいつ何言ってんだ!?

なおも襲いかかって来ようとする天から転がるように躱すと、「なんでぇ~?」と猫のように甘く絡む声を漏らす。


⋯⋯一体、どうなってんだ-?


「⋯⋯はっ!?」


ふと天から表情が消えたかと思うと、自身を確認するように弄る。

見れば乱れた服からはインナーがチラりと覗き、触れた唇には先程まで重ねられた熱を帯びている。


「なっ、なっ⋯⋯」


天は顔を真っ赤にさせて、耐えられずに鋭い眼光をこちらに突き刺す。


「あんたっ、さっき私に何したッ!?」


「はぁっ!?お前からやってきたんじゃん!!」


さっきから言動がおかしい。


「えっ-」


天は少しの間、時が止まったように身体を硬直させる。

そして思い出したかのように顔を真っ赤にさせた。もう湯気でも出てきそうな勢いだ。


「はぁぁあああああああ~~~~~~ッ」


天は布団に顔を埋めて、声にならない声を上げて叫ぶ。

俺は火照った身体を涼める為に肌着を緩め、熱くなった顔を冷ますように手うちわで扇ぐ。


いきなり、なんだったんだよ⋯⋯ッ。


胸に手を当てれば、未だにドラムのように鳴り響く鼓動が五月蝿くて仕方ない。

肩で息をするのをどうにか平常に戻そうと必死になる。


もしかして⋯⋯天は、俺の事⋯⋯。


「お、お前⋯⋯俺の事⋯⋯その、⋯⋯すっ、好きなのかよ?」


俺はドギマギする気持ちのまま天に指さし問う。

正直自分でも、今なにを言ってるのか分からない。


「はっ⋯⋯はぁ!?」


天はガバっと布団から起き上がると、こちらに顔を向ける。その顔はまだ熱を帯びて頬が赤く染っていた。


「なんであんたなんかをっ!?」


「いや、じゃねぇと、説明つかないって言うか⋯⋯」


もしかしてビッチだから、ふとした瞬間に突発的な行動を取ってしまうのか?

まだ何か言いたそうにわなわなと震える天。しかしフンッと鼻を鳴らしたかと思うと偉そうに脚を組む。


「フンッ、ちょ、ちょっとキスしてあげたくらいで欲情してるなんてほんっと変態ッ!」


「なっ-」


「あーやだわだ。少し煽っただけでこれなんだもの。だから童貞は気持ち悪い!」


こいつッ⋯⋯言わせておけばっ!


「どう?学校一美人と言われてる私とのキス。童貞には刺激が強かったかしら?まぁそんなに鼻息荒そうにしてるなら、聞くまでもないけど」


「てめぇだってさっきまで犬みたいにはぁはぁと-」


「あー、聞きたくない聞きたくない!聞こえない聞こえないっ!」


天は耳を塞いで「あっー!」と声を上げながら強引に扉を蹴破って出ていく。

残ったのはギィ⋯⋯と無理やり開かれた扉が反復して戻ってくる音。その扉の錠はさっきの一撃でひしゃげて壊れていた。


「なっ⋯⋯なんだったんだよまじで」


そう漏らす俺の視界-扉のところにヒョコっと顔を覗かせる男。この宿の主だ。

宿の主は困ったように眉を寄せて告げる。


「ハッスルしても良いとは言ったけど、扉を壊しでもいいとまでは言ってないからね?」



俺たちの借金が銀貨五枚から銅五枚追加された瞬間だった。

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