第二章 第九話「友人と過ごす忘れられない夜」
チャラ男と殴り合い最終的に互いを認めあった俺たち。
「男子って単純」と天には飽きられたけど、その夜酒場に向かうこととなった。
その夜、俺とチャラ男-ライドは飲み屋街のとある一角、酒場にいた。
全体として古びた木で構築された簡易的な酒場だが、それなりに人が出入りしており、各々の卓からは怒号や歓喜混じりの騒ぎ声が後を絶たない。
本来こういった場所に出入りする事自体億劫と感じるタチなのだが、転生し、その先で気の合う奴と出逢えば話は別。楽しみが勝る。まぁ流されやすいといえばそうなのかもしれないが、せっかくなので野暮な考えは無しだ。
「じゃあ、感動の再会を祝して-乾杯ッ!」
「乾杯ッ!」
音頭に合わせて俺とライドはジョッキを空中であてがい親友と感じたこの男と盃を交わす。
それを二人とも一気に飲み干して店員に「おかわり!」 と同時に叫び卓に座る。
「ってかなんで再開?会ったの今日初めてじゃねぇか」
「はっ!馬鹿だなぁお前。気の合う奴とは前世でも親友だったって話だよ!」
気前よく放つライドはジョッキを揺らして残った泡を取るとそれも全て飲み干した。
俺は勿論オレンジジュース(ゴロゴロ)だったが、果たして奴のはどうだろうか。
ライドの頬は少し赤みを帯びた気がした。
「あーぁ、せっかくならあの子も来て欲しかったなぁ⋯⋯」
ライドはもう酔いが回ったのか、机に突っ伏して少し寂しそうに呟く。
「仕方ねぇよ。お前が悪いし」
あのあと俺達は、またすぐに医療民家へと足を運んだ。と言うよりもアドレナリンが切れて意識が消えかけていた俺たちを周りにいた人達が運んでくれた。
親切と言うよりかは、商売の邪魔とのことで。
そうして放り込まれたわけなのだが、意識が遠のいていた俺と違い、まだ動けたライドはマフィンさんの治療中に部屋にいた天に死ぬほど話し掛けていたらしい。
天も最初は足蹴にするのも悪いと思い調子を合わせていたのだが、あまりに執拗だった為に「うるさい」とついには一蹴されてしまった。
治ってから部屋にいた天に話し掛けに行くも門前払い。終いには蹴りを入れられて完全拒絶。もう俺と同じような扱いしか受けないだろう。ざまぁ。
という事で仕方なく二人で飲みに来たってことだ。
「俺はお前と二人の方が楽だけどな」
寂しそうにジョッキを揺らすライドに俺はそう声を投げかける。
「はぁ?どうして?」
ライドは眉を寄せて怒り口調になって言葉を吐き出す。
「俺はこうやって誰かと⋯⋯友達と一緒に何かするって事が無かったからさ。ちょっと嬉しいんだ」
俺は少し恥ずかしくも率直に思った言葉を放った。
実際俺は子供の頃から誰も寄せ付ける事がなかった。
一人だけ違う次元に生きているような-そんな感覚。
他の人と話しても合わないし、やっぱり脳内では永遠と誰かと戦っているしで周りからは関わらないようにと遠ざけられていた。
思春期に見られがちな一種の厨二病?と思っていたけど、それとも違うんだよなぁ。
まるでこの世界に来ることが運命付けられていたような、そんな感じ。⋯⋯やっぱり度を超えただけの厨二病かな?分からない。
「⋯⋯そっかぁ」
その言葉を聞いたライドは会ってからフッと笑う。俺はそこで初めて自然な笑顔を見せてくれた気がした。
その時ちょうどおかわりの飲み物が届く。
「ならっ!今回はユートの祝杯でもあるな!みんなぁ!」
それを手に取ってガタッと勢いよく立ち上がったライドは叫んだ。
その声は騒がしい店内よりも大きく、その声を聞いた違う卓の人が全員こちらに注目した。
ライドはそれを見てテーブルに立ち上がった。そうして俺を指さして続けて叫ぶ。
「ここにいる奴は俺が初めての友人らしい!そしてこれが初めて友人とする事だってよ!拍手をッ!」
ライドの声に周りの卓から歓声と口笛、そしてそれを圧倒的に上回る拍手が飛び交う。
他の卓もいい感じに酔っているからか、盛大に、大げさに起こるが俺はそれが小っ恥ずかしくも嬉しく思った。
ガチャン!とテーブルから物音がして見やると、他の店員よりも幾ばくか恰幅のいいおばさんが現れる。
テーブルに乗っているライドを注意するのかと思いきや、料理を何個も置いていく。
「あれ?俺たちこんなの頼んでないですよ?」
しかし店員は聞く耳を持たず、背を向けるとこちらに顔をぐるりと向けて一言。
「祝いだよ。あんたの」
グッと親指を立てて、ゴツめのウインクを残して去っていく店員。女性で初めてウインクがかっこいいと思える人に出会った気がした。
「おらぁー!食うぞー!」
まだテーブルの上に登ったままのライドは叫び散らす。頬を見るに真っ赤に染っていた。
あれ?手にしたジョッキ⋯⋯もう無い!?
「こりゃあ完全に酔っ払ってるな」
こいつ俺と同い年って言ってたけど、この世界では良いのか。
「まぁそんなこと思ったってしょうがないよな」
普段なら俺は陰の者-にもなれているか分からない。
極力人と関わり合いを持たなかった者だ。
「おっしゃぁああああ!ユート!どっちが早く食べ切れるか勝負だっ!」
もう真っ赤になったライドの顔は理性とはどこえやら、スタートも言わずに目の前の料理に喰らいつく。
店内は変わらず騒がしいし、酒臭い。
そんな光景さえ俺は、どこか嬉しさを感じていた。
「フッ⋯⋯仕方ねぇなぁ!」
俺はライドに負けじと目の前の料理に喰らいついた。
「ほがっ!?ほけねぇ!(なっ、負けねぇ!)」
咥えたままのライドは俺の速度に焦ってスピードを上げる。
そのあと机に料理をこぼすわ、ライドは戻すわで散々だったけど、俺の心は、今まで味わったことのない幸福感にどこか満たされていた。




