第二章 第七話「金髪のチャラ男」
勇人には魔力が多分魔力がないと言われてショックを受ける。
俺ってどんな力があるんだ?もしかして無いのか?
そんな胸中、天が男に囲まれていると聞いて医療民家を飛び出した。
残った二人、ヴィランダは涙を流して。
「くっそ!天の奴ぅッ⋯⋯」
俺はなんとも言えぬ怒りに駆られてひたすらに天を探し走る。
どうしてそんなに俺は焦っているんだ?
ちょっと見た目が可愛いだけでべ、別に好きってわけでも何でもないんだけど!
それでも気になってしまうのはどうしてだろうか。
あ、そうだ!きっと心配なんだろう。
だって俺たち二人しか転生していないんだ。互いに寂しいはず⋯⋯だよな?
「男を囲ってるって、どういう事だよ!」
確かに転生する前も男を囲ってたけども!
なーんかむず痒いというか、じっとしていられないというか。
とにかく天に一度会わなければならないとボロい家屋が建ち並ぶ道をひた走る。
すると言われていた所なのか、人がガヤガヤと集まっている場所を発見。商店街とも呼ぼうか色んな露店を開いて売ったり買ったりしている。
街アサガナに規模は遠く及ばないが、誰しも元気にしている姿は向こうにも引けを取らない。
そんな中、俺はあるものを捉えて片眉がピクリと動く。
それは天の姿だった。しかし嬉しいはずなのに更に何かによって額に筋が浮かんでいくのが分かる。
理由は明白。隣には金髪のチャラそうな男が至近距離で話し掛けていたからだ。
本っ当に近い位置。もう耳に口が触れそうな位置でずーっと話し掛けている。
それだけでもムカついたが、更にムカつくのは天も返すように談笑していた事だ。
ボロ布によって顔は見えない。だが相槌やボディタッチが天の方から出ているのは心中穏やかではない。
天はこの半年クラスメイトだったから分かる。
教室で男もそうだが女の子にも人気があり囲まれていた。もちろん一軍ではあったが、彼女の分け隔てなく(一軍の人たちにだけ)接する姿は誰しも惹かれてしまうのは仕方の無いことだろう。
彼女はそういう性格であり、元々から陽キャなのだ。あれが普通だと言うことも理解している。-のだが。
「いやあれはナンパされているに決まってる!」
俺の心の中はどうやらあの男を天から引き剥がしたくて仕方がないらしい。絶対違うけど勝手にそう結論づけてしまった。
目の前からイチャイチャ(普通に話してる)二人が迫ってくるので、俺は鼻息荒くズカズカと正面に立つ。
天は俺に気付くと「あっ、勇人」と声のトーンが明るくなってこちらに手を振る。多分これは一軍の人達に見せる反応だ。
隣の男はそこで始めて天から視線を外すと俺の方を向く。
「ん?お前-ッ」
俺を見た瞬間、一瞬だけ金髪の男は目を丸くさせて狼狽した。
だがすぐに平常に戻り、「へぇ⋯⋯」と小さくもらしてねっとりとした瞳をこちらにぶつける。
「あれがさっき話してた勇人。阿呆だけど」
俺の心配をよそに天は俺を軽く二回ほど侮辱する。
「なるほどな⋯⋯あれが君の言ってた男か」
男はまるで自分に復唱するように唱えてこちらから視線を外さない。
「よぉ兄弟!久しぶりだなぁ!」
男はパッと明るい笑顔を見せてこちらに歩いてくる。
身なりは黒で統一された肩まで見えるノースリーブに、ズボンは黒のカーゴパンツ。そこに幾つかのチェーンが巻かれていてチャラさを全身で物語っている。
短めの金髪は手入れがされているのかくるっと毛先が巻いており、まるでホストのよう。
それでもたまに口元から覗く奥歯は獣のようにギラついて鋭く光る。
身構える俺に悠々と歩いてくる男は「元気にしてたかよお前ッ!」とハイタッチを求めてくる。
もしかしてそういう街なんだろうか?
「当然だろっ!」と調子を合わせてハイタッチしようと手を出すも、男はそれを無視して俺の首元に食らいつく。傍から見たら肩を抱く友人のような構図となる。
「⋯⋯よぉ。まさか生きていたなんてな」
その声はゾッとするほど冷たく、俺は耳から全身が総毛立つのが分かった。
振り返れば眼前に男の顔がある。チャラい雰囲気の中に何かの真意を探るような瞳が俺の瞳とかち合う。
しかしすぐに顔をパッと明るくさせてニカッと笑う。
「良かったぜ兄弟ッ!魔物に襲われたって聞いたから心配になったんだぜ?」
あぁ。そこでようやく合点がいった。
こいつは襲われたグリムの事を天から聞いたのだ。
そしてこのノリはこの街特有のものなのだと。
「まぁな。当然、俺の強さが幸いしてな!」
機嫌良くなった俺は鼻を鳴らして性懲りも無く自分は強いのだと鼻を高くしてしまった。だが隣の男はうんうんと頷いてくれるので気持ちがいい。
「ところで君-あの子とはどういう関係?」
男の雰囲気が少しだけ変わった気がした。だが俺はそんな事気付くわけもなく調子良く話す。
「天の事か?そりゃあ切っても切れぬ関け-」
言い終えぬうちに何かの衝撃-頭で星が散ったと思えば、気付いた時には地面が迫っていて訳も分からず地面を転がる。
「勇人ッ!」
天の悲痛な叫びにも似た声。
何とかふらつく足取りで体勢を立て直すと、痛みだす顔にようやく顔面を殴られたのだと理解した。
俺はまだ荒れる動悸のまま前を向くと、目を丸くして困惑する天と、その斜め前に強く歯ぎしりを鳴らす男。
「お前みたいな奴が-⋯⋯」
ぷるぷると震える正面の男は俺の顔面目掛けて拳を振り抜いたのだと気付く。つまり殴ったのはこいつ。
そしてそいつは溜め込んだものが爆ぜたようにカッと目を見開いて慟哭する。
「あんな可愛い子と付き合ってるだなんておかしいだろうがぁぁああああああああああッ!」
「⋯⋯は?」
ただの醜い嫉妬にまみれた発言だった。
「いや、別に付き合ってるわけじゃ-」
「うるせぇ!言い訳は聞かねぇ!」
どうやら半狂乱の男はもう話を聞く気は無いようだ。
獣のような唸り声をあげて猛獣のように鋭い眼光で俺を突き刺す。まるで本物の猛獣の如く覇気を纏う。
「お?まーたライドが難癖つけてやがる」
「またライドがねぇちゃん欲しさに彼氏をぶん殴ったぞ!」
「やれやれー!」
-何だこの空間は。
まるでいつもの日常と言わんばかりに他の人達が男を囃し立てて焚きつける。なんなんだよ一体⋯⋯。
「絶対許さねぇッ!」
もはや何に怒っているのか分からない男に呆れつつも、俺の中にあるふつふつとした感情が湧き上がる。
なんでこんな見ず知らずの初対面野郎にいきなり殴られなくちゃならねぇんだよ。
俺はしたやかに拳を前へ突き出して構える。
「やるってのならやってやるぞ?かかってこいよてめぇ」
俺だって男だ。やられたままやり返さないなんて事はありえないんだよ。
視界の端-映る天にやられっぱなしの所で終わったら、まだダサいやら情けないやら思われるのも癪だしな。
「あぁ!?」
男は汚い罵声を吠え散らかしてそちらも構える。
「やるならとことんやってやるからな!」
こっちは半分は不可抗力ってこと忘れんな!




