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第五十二話「旅をしようか」

フウカや民兵隊は皆して二階堂を狙う。

追われる中、勇人が目をつけていた”ジェットソード”を手に取り空を飛び出して-何とか逃走を図ったのだ。

暫くして。

数人の民兵隊を連れてフウカが飛び立った場に姿を現す。


「街の人達を安全な所に逃がしてたら遅くなった」


開口一番謝罪するフウカに数人の民兵隊が集まる。先ほど勇人たちに攻撃をした者達だ。


「すみません、逃がしてしまいまして⋯⋯」


こちらもフウカに申し訳なさそうに頭を下げる。


「仕方ない、飛んでいく姿はこちらからも見えてたから。あそこまで飛ばれたら私だって届かない」


そう零すとフウカは「それよりも」と言葉を続ける。


「復興が先だ。街は殆ど壊滅状態。インフラ整備など立ち上がるのに時間が掛かるだろう。まずは周囲にまだ人が残っていないか探し出してきてくれ」


「「ハッ-!」」


フウカは毅然とした態度で命令を下すと、そこに居た殆どの民兵隊が街へと散って動きだした。


「ふぅ⋯⋯」


民兵隊の姿が見えなくなってから、フウカは緊張の糸が切れたようにその場にへたり込む。


「副団長ッ!」


倒れそうになったところを、間一髪脇を抱えるのは七三の男-副団長補佐を務めるエンブリッツ・ジェラ。


「えへへ⋯⋯やっぱり怖いなぁ」


いつものように笑ってみせるが明らかに余裕がなく、身体を震わせていた。


「副隊長⋯⋯」


ジェラはフウカの気持ちを察してかそれ以上言葉を発せず噤む。

変わりとフウカの小さな身体をゆっくりと抱き寄せる。


「-ジェラ?えっ、そこまでしなくていいよッ!」


恥ずかしく頬を赤く染めるフウカは何とかして離れると「もうッ!」と頬を膨らませる。


「私に気遣ってくれるのは嬉しいけどッ!その⋯⋯恥ずかしいよぉ」


「私はそれでも構いませんよ」


そう優しく微笑み手を差しだすジェラに「そういう問題じゃないのッ!」とフウカは地面を踏み鳴らして反発する。


「⋯⋯やはり”あれ”は?」


話を戻すジェラにフウカはまた副団長の顔に切り替えて、嫌そうに視線を巡らせると、確信にその重い首を縦に振って応える。


「間違いなく魔の者だよ。それも”魔族クラス”のね」


その重く、低く放たれた言葉にジェラも思わずゴクリと生唾を呑み込んだ。


「魔族クラス⋯⋯ですか。いや、あの魔力量や数十体のグリムをいっぺんに全て葬ったのなら納得か。⋯⋯でしたら人命救助よりも先に倒すべきだったのでは?」


「バカ言わないで。目下優先すべきはどんな時であろうと人命救助。それが民兵隊としてのあるべき姿であり規律だよ。それが例え怨敵だったとしても、ね」


フウカは煮えたぎる怨嗟を私情とぐっと押さえ込んで空を見上げると、暫く思案して-言葉を告げる。


「今回の一件。王都に報告するよ」




-時を同じくして何処かの暗い闇が広がる空間。

それ以外に何も見えないそこは、ふわふわと浮かぶ水晶だけが異様に煌めき目立つ。

その水晶に照らし出されて近くに立っていた人がいた。

その人は広がる闇よりも深い漆黒のローブに身を包み、水晶に映り込むこれまた同じローブの男を見ていた。


「⋯⋯グリムの管轄を任せていたはずだが?」


その声は陽気に明るげな雰囲気だが、聞いた者を惑わせる何処か危うい鋭利な刃物のような鋭さを同時に持ち合わせていた。


「申し訳ありません⋯⋯まさかグリムが”勝手に動きだす”とは」


声に気付いて、水晶に映り込むローブの男は少し大袈裟と言ってもいいほど深々と頭を下げる。


「勝手に⋯⋯だと?」


陽気な声とは一変、苛立ちが隠し切れていない。


「お前が操っていたグリムだっただろう?それになんだ?森からは一体のゴブリンが出ていったと聞いたぞ?どうなっている」


その人は水晶に向かって何も無い空間を握る。するとローブの男からは呻き声と共に膝から崩れ落ち、首に手を当てて藻掻きながら涎を垂らす


「ぐっ⋯⋯ず、ずみまぜん⋯⋯ッ!」


その反応が面白かったようで「まぁいいや」とその人はパッと陽気な声に戻る。それと同時に手を広げるとローブの男は解放されたように地面に転がると必死に酸素を掻き込んだ。


「フウカも遠征に行ってなかったけど、それでもアサガナの街は壊滅的だろう。持ち直すのに時間は掛かるし王都にも大分負荷になると思うんだ♪とりあえずは良しとしよう!」


「ありがとう⋯⋯ございます」


しかしその人は「ただ⋯⋯」とまた低く声をして続ける。


「今度またしくったら、君じゃなく妹を殺すから。覚悟しておいてね♪」


「なッ、それだけは待っ-」


その人は会話を遮って水晶の映像を落とす。

空中に浮かんでいたその人は胡座をかいて「ふふ⋯⋯」と笑いを堪えきれずに漏らした。


「さっきの魔力⋯⋯やっぱり生きておられましたか」


その人は仰々しく両手を空に掲げて悦に浸ったように顔を歪ませる。


「おかえりなさいませ、魔王様」


それが嬉しかったのだろう。堪えることをやめて爆発したように口角を吊り上げた。


「クククッ⋯⋯ハハハハハハハハハハッ!」


まるで悪魔の凶宴のその声は尽きること無く永遠のように真っ暗な空間に響き渡った。




「くそ、これ⋯⋯何とかコントロール出来ないか?」


あれからしばらくジェット噴射の要領で空を飛び続ける剣に引っ張られて勇人たちは、降り方が判らず奮闘し、気付けば遙か上空を飛び続けて雲付近-もう突っ切りそうだ。

何処まで来たのかと思わず下を向いて後悔したのはもはや何度目か。それは二階堂も同じようで顔を引き攣らせていた。

とにかく俺は両手に握る剣と二階堂を絶対に離さないように万力の力を込める事だけに集中した。

そのせいか上を向いていた剣は容易に雲へ突入し突破していく。

ボフッと突っ切るとそこには煌々と照らす太陽のようなものが姿を現していた。


「おぉ⋯⋯」


俺はその光景に感嘆の声を漏らす。

たとえまぐれでここまで来たとしても感動モノだ。

普通じゃ絶対にこんな所来れないからな。


「⋯⋯ごめん」


剣により切り裂かれた空気の中、ふと今にも消え入りそうな声が僅かに聞こえた。下を向くと、二階堂は不安を堪えきれずに今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「私のせいで⋯⋯ユキさんも、フウカちゃんも」


二階堂は後悔を漏らして声は震えていた。


「またッ⋯⋯⋯⋯一人に⋯⋯もうっ、誰もッ⋯⋯味方⋯⋯居なくなっちゃった」


嗚咽により顔からは隠しきれなくなった涙が空を舞う。

俺はどう応えたらいいか分からずに空を向いた。


「⋯⋯⋯⋯俺がいる」


「-えっ?」


いつの間にか俺は、独りでに口が勝手に動いていた。

あれだけ守れ無かったのに?

何も出来なかったのに?

そんな事はどうだっていい。


「前にも言ったろ?俺がいるって」


いや違う。一人だと怖いって言った気がする。


「⋯⋯あんた、一人だと怖いって言ってなかった?」


-バレてた。


「はぁーあ」と盛大に声を漏らしてもうどうにでもなれと言葉を続ける。


「そうだよ。こんな世界に来て俺を一人にしないでくれ。⋯⋯寂しいし」


「はぁ?」


二階堂は呆れを通り越して「何言ってんだこいつ」といった表情が見えた。


「何それ⋯⋯キッモ」


「うっ、うるせぇよ!?」


どうして素直に心配だからと言えないのだろうか。

前に突っぱねられたからかな?

それともそれが俺の本心なのだろうか?


「フッ⋯⋯⋯⋯ほんっと何それ」


二階堂の声が少しだけ優しく棘が無くなったような気がした。


「ほんっと⋯⋯キモい」


「なッ、お前-」


せっかく人が宥めてやろうとしているのに!

流石に言い過ぎだろうと言い返そうと下を向いた時だった。

二階堂は呆れを通り越してにこやかに笑っていた。

それは人を小馬鹿にしたような感じはなく、何処か安心したような笑みのような-。

二階堂の目に溜まった涙が零れ、空を舞う。

それは太陽のようなものに照らし出されてきらきらと輝いていた。


-美しい。


ふとそんな事が頭に浮かんだ。


「-ありがとう」


二階堂の口が僅かに動いた。


「えっ?なんて?」


なんか今”ありがとう”って言われた気が-。


「ううん。何でもない」


そう首を振る二階堂はさっきの笑みは消え、キッと目つきをまた鋭くさせてこちらを睨みつける。


「それよりもさっさと降りるよう考えなさいよッ!」


「はぁ!?いきなりなんだよッ!?俺達二人で考えるって話じゃ-」


「-あーもうッうるっさいッ!ちょっと貸しなよ!」


「あっ、おい!」


二階堂は無理やり剣を掴むと強引に下へと向ける。

そのせいか二階堂の身体が俺に密着する形となり、柔らかな感触に思わず鼻が伸びる-不可抗力だ!


「やっぱり気持ち悪い」


それを見逃す二階堂ではなく、小馬鹿にしたように笑った。


「あっ、二階堂って長いし呼び辛いだろうから”(みか)”って呼んでいいから」


「は?本当にいきなりだな」


「まぁこれから?よろしく勇人」


「二かっ⋯⋯天はそもそも呼び捨てだったけどな」


フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向く二階堂-天。

ふとその後頭部からスっと黒いモヤが一瞬現れる。

俺は目を見開いて怖気が身体中を襲った。


「?どしたの?」


振り返った天は俺の表情に小首を傾げる。

この世界の事なんて知らないし、魔の者なんて言われてたって全然分からない。


-ただ、天に巣食う何かの存在は”魔の者”なんて程度のものじゃ無いって事は確信していた。


-魔王


全てはこの言葉がしっくりくる。

彼女はきっとそんな存在なのかもしれない。


でも-。


「⋯⋯いや、これからどーすっかなって」


俺は疑問を掻き消すように首を振って払い除ける。


もしそうだったとしても。

その可愛らしい瞳が、その美しい顔立ちが。

今、目の前にいる天はそうじゃないと語っている。


「あっ、そ」


そう言って天は楽しそうに笑った。

この笑顔を守っていきたいと思う。


-そしていつか二人で元いた世界へ帰れるように。


-この魔王と旅を続けよう。




「⋯⋯って、雲抜けてもう地面近いんですけど-ッ!?」




まずはこの現状を打破しないとな。

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