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第四十四話「かかって来いよ悪夢」

グリムの再来によりまた動けない二階堂。

だがユキさんに連れられ何とか勇気を振り絞る。

しかし、地下室に逃げ込むあと一歩のところで宿が半壊-奴が現れるのだった。

「-くっそぉ⋯⋯ここもいっぱいか」


俺-勇人は苦虫を噛み潰したように顔を歪ませる。

俺はやっとの思いで大通りまで抜けてくる事が出来た。それもそのはず、あの後すぐに街の人達は一斉に何処から迫ってくるかも判らないグリムから逃げ惑うようにあちこち走りだして辺りは人でごった返した。

そんな中さらに不幸は続き、グリムの破壊活動によって飛来した瓦礫が辺りの建物を連鎖的に破壊していき、上から数千にもなる土塊や瓦礫の破片が礫となって降りそそいだ。

そんな事になればもうどうすればいいか分からない。

あっという間に人波が出来て呑み込まれてしまっていた。

ようやく抜け出して辿り着いた大通りだが、目の前は先程の場所よりも更に混沌としていた。

露店は軒並み倒されその付近の建物は半壊していた。

そのせいで辺りに散らばった瓦礫の破片が道を塞ぐ。

街の人達はそんな事もお構い無しに押し合い、我先にとそれから逃げるように必死だ。

いつもなら活気溢れるここはもう恐怖と不安が充満していた。

それを起こした元凶はヌっと建物の間から現れる。

グリムは人々の反応が楽しいのか不気味に口角を吊り上げてニタニタと笑っていた。


「グリムッ⋯⋯」


俺は怨敵を強く睨みつけて歯噛みしながらも即座にネックレスに手を掛ける。

しかし行動とは裏腹に金縛りに掛かったように身体が動かない。

クソッ⋯⋯やはり俺は奴に恐怖しているのか。

全く歯が立たなかった光景がいやでも頭に浮かぶ。

全力だった-それでも薄皮一枚斬るのが精一杯だった相手だ。

いくら奢っていた自分がいたとは言え適わなかったのは事実。それが今の俺の身体を無理やりグリムから遠ざけようとしていた。


-逃げるか?


聞こえるのはグリムの雄たけび。

だがそれは目の前のこいつからじゃない。

それも複数体の凶声が被り悪魔の宴のようにも聴こえる。

きっと他に何体も暴れ回っているに違いない。

だがその遠くから聴こえる雄たけびは次々と中断されて、変わりに断末魔が辺りに響き渡る。

フウカ達民兵隊がグリムを倒していっているのだろう。なら俺の出る幕では無いはずだ。

俺は目の前の敵に背を向けて二階堂の居る宿へと足を向ける。


「-嫌ですッ!嫌ですッてばぁッ!」


阿鼻叫喚が渦巻くこの中、ふとある叫び声を耳が捉える。振り返ると露店の奥の建物-半壊した所に誰かを抱き起こそうとするミアナさんの姿が見えた。


「ぐぅッ⋯⋯お、俺は置いていけ⋯⋯」


その放つのは抱き起こされようとしていた男。あのガタイは間違いなくゴウマンさんだ。

あれ程大きな声を放った時とはうってかわり弱っているようで掠れた声でミアナさんを引き離そうとその大きな腕で押し返している。


「嫌だぁッ!一緒に生きたいッ!一緒に生きてよぉおおおおおッ!」


ミアナさんはその腕を掻い潜りゴウマンさんの胸に抱きつくと必死に身体を持ち上げようとしていた。


「んッ⋯⋯」


しかし殆ど包帯でぐるぐる巻きのゴウマンさんは自分では動くことができないようで、残酷な事にミアナさんでは担ぐ事はおろか上体を起こす事すら叶わない。

そして更に不幸は続く。

グリムがその声に反応すると、ぐるりと辺りを見渡してミアナさんを見つけてしまう。その瞬間、まるで獲物を見つけたかのように涎を垂らしてボトボトと地面に落とす。


「あっ⋯⋯」


それが視界に入ったミアナさんはハッとして顔を上げると、大きな口を開けたグリムを見つけて絶望の表情を浮かべる。


「あっ⋯⋯あ⋯⋯」


ミアナさんは身体を強ばらせてどうすれば良いか分からずに涙を流す。


「ミアナッ、頼む⋯⋯逃げてくれッ!」


「嫌だッ!貴方が居ない世界なんて-意味無いッ!」


ゴウマンさんは突き飛ばそうと力を込めるが、ミアナさんはすぐに気が付いて離されいよう必死にしがみつき訴え吼える。

グリムはその様子を嘲笑うようにヌルリと距離を詰める。ゆっくりと地面を鳴らし、さながら人の命を自分で握っているのが愉しいように。


「クソぉ、俺が動ければ⋯⋯こんなやつ⋯⋯」


男気溢れたゴウマンさんもついには涙を浮かべて悔しみの雫を流す。

だが無情にもグリムはもう彼等のすぐ隣にまで迫っていた。


-こんなの、見過ごせるわけがないだろ。


「馬鹿野郎ッ⋯⋯」


なに弱気になってんだ!勝つんだろッ!?

俺はさっきまでの自分に喝を入れるように太ももを叩いてキッ!と鋭い眼光をグリムに叩きつけた。


「-おい」


俺は自分でも分かるほどひどく低い声を放つ。

慌てふためく街の人々で溢れ返り、周りのグリムによる破壊活動で蹂躙されている中、目の前のグリムはその声を聞き逃さなかったようだ。

ジロりと紫色に光るその魔障の瞳をミアナさん達から俺へと向ける。

上がっていた口角は垂れ下がり、せっかくの獲物をと、食事を邪魔された憎悪をこちらにぶつける。


「ユウト⋯⋯さん」


そう呟くミアナさんの表情は今にも消え入りそうなほど儚く淡い期待が俺に寄せられる。ただそれも一瞬の話、グリムがけたたましい咆哮により掻き消される。

グリムはもうミアナさん達からぐるりとこちらに方向転換、俺を標的とみなしたようだ。


「⋯⋯うるせぇよ」


俺は未だ震える手でネックレスを引っ掴む。

いくら虚勢を張っても怖いものは怖い。

あの時の圧倒的暴力が、圧倒的な差が声をも震わせてしまう。

だけど-。


二階堂を助けられない、そんな情けない自分をここで断ち切らなくてはいけない。

でないと永遠と消える事ない悪夢に苛まれてしまう。


-俺はネックレスを掴む手を強める。


俺はこいつに立ち向かわなくちゃならない。

それは二階堂の為でもあり、強いては自分の為。

気付けば恐怖に震えていた手は止み、怖気づいていた俺は消えた。

真っ直ぐにグリムを見据えて俺はネックレスを振り払い-剣解放。

俺はそれを真っ直ぐ目の前のグリムの喉元目掛けて掲げて大きく声を放つ。


「-かかって来いよッ!」

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