第四十二話「狂乱」
朝目覚めた勇人は誘われるようにあの噴水の広場に。
そしてまた黒いローブを着た男と出会う。
ゴウマンを倒し、この街を襲うと宣言する男と剣を交える直前、グリムの雄叫びが街を侵食する-。
なんだ!?どうしてここに居るッ!?
俺は見えないグリムに怯えて忙しなく辺りを見渡す。
だが朝霧のせいで視界はあまり効かず、さらに入り組んだ街並みで声が反響してどこから聴こえたのかすら判らない。
「クソッ、何処なんだよッ!」
この街に魔物は現れた事無いんじゃ無かったのか!?
俺は焦りに頭を掻きむしって状況を判断しようと必死になるが見つからない。
そのせいか俺の心の中でグリムの存在が膨れ上がって恐怖を育てていき次第に大きくなっていく。
一刻も早くグリムを見つけないとと焦燥に駆られた俺は気付かないうちに全身から汗をびっしゃりと滲ませる。
「⋯⋯おかしいな。どうしてここに居るんだ?」
手前の男も剣を持つ手を下ろして不思議そうに辺りに視界を巡らせていた。まるで自分は無関係と言わんばかりのとぼけように俺の頭の中の血管がブチッと切れた気がした。
「お前が仕掛けたんじゃないのかッ!?」
疑いようのない。こいつがやったんだ!
勢いのままに襟首を掴んで詰め寄る俺の迫力に押されたのか男は「おいおい⋯⋯」と声を漏らして口角を下げる。
フードを深く被っているせいで顔は見えないが、男も戸惑っているのか口をまごつかせて要領を得ない。
「俺もよく分からないんだよ!」
「あぁ!?」
さっきお前が言ってた事じゃねぇか!
いっその事フードを取り払ってやろうと剣を置こうとした時、再度グリムの雄叫びが街全体を響かせて震わせる。
「-ッ!?」
俺はその凶声にビビって思わず襟首を離してしまう。
すると視界の効かない霧の中、ぼんやりとした光がいくつも浮かび始める。
気付けば明かりはもう数え切れないほど溢れ、まだ朝日も昇らないうちから街の人達が目覚め始める。
そして辺りを確認する為に一斉にガチャガチャと扉や窓を開け放っていく。
「なんだなんだ?」
「何が起こっているんだ?」
街の人達は状況を把握しようと隣人や辺りの人と顔を合わせては外に出てくる。
俺は慌てて武器をネックレスに戻すとまた男を睨みつけようと前を向く。しかしもうそこにローブの男の姿は無かった。
そして三度グリムの咆哮が辺りを震わせる。
それにより街の人達の顔が困惑から真実を知った恐怖に変わっていく。
「魔物だああああああああッ!」
「魔物が現れたぞおおおおッ!」
まだ見えないグリムの咆哮はもはや怪獣が攻めてきたような破壊力で阿鼻叫喚を引き起こす。それはこれまでに魔物が一度も現れた事の無い街の人達の恐怖心を煽るには十分過ぎる効果があった。
怯えた街の人々の行動は焦りどう行動したら良いか分からず”集団狂乱”となって電波して波紋のように広がっていく。
「どうして魔物がこの街にッ!?」
「そんなッ!魔物なんてどうしたら!?」
人々は何処に魔物がいるのか解らない恐怖と何故魔物がこの街にといった疑問に苛まれて動けない。
さらに恐怖を助長する破壊的な音が遠くから聞こえてくる。
それは何度も辺りに轟き、ゴゴゴと崩れるような破砕音はグリムがやたらめったらに街を破壊し暴れ回っているのが容易に想像できた。
俺は音のした方角を耳で捉えて、惹き付けられるように顔を向けた。
あっちの方向は戻り木の宿の方角-。
「二階堂ッ!」
俺は弾かれるように宿へと駆け出した。




