幕間 フォスファ=アルヴィベリトの回想
唐突ですが幕間です!
――貴女と初めて顔を合わせた際の記憶は、私の中でも特別鮮烈に残っている。
あれはそう、家同士の婚約者ということでの初顔合わせ。
風になびく、立藤色をした波のように緩やかな曲線の髪は毛先まで整っていて。
ピジョンブラッドよりも上等な、見事なまでのルビー色の双眸はいついかなる時も知性を湛えている。真白いシルクのごとき肌。
いかほどの豪奢なドレスであっても見事なまでに着こなしてしまう少女の範疇を超越した美貌は成人を迎えた今もなお眩しいほどまでに輝いている。
よって、社交界の華であるのは出会いの場でも今現在でも変わらない。
周囲の前評判では冷酷な話し方をすると噂を聞かされていたが、実際の私の耳に届いたのは穏やかで冷静沈着な音色。貴族令嬢の鑑だ。
「フォスファ家のアルヴィベリトかしら。よろしくお願いするわ。貴方とは永い付き合いになりそうね。どうぞよろしくお願いするわ」
そう流麗に挨拶をされてしまって、本当は会話に応じるだけで精一杯の場面が今でも時たまある。それが、とても悔しい。もう少しでいいから貴女と長い時間会話をして過ごしたいだけだというのに。
隠してはいるが、聡明な貴女ならば露見されているかもしれない。
そして何より驚愕したのは、誰よりも魔術の才能に溢れていること。初等学院の教育課程を入学前に修了した空前絶後の逸材は後にも先にも存在していない。
私が初等学院に入学する頃には剣術の師である騎士団長の父上ですら、貴女には決して敵わないし絶対に術で戦闘の相手にしては勝てないと悟っていた。
かの高名なべレイクス卿の弟子どころかもはや高弟になっているだけのことはあると賞賛するほかない。その地位は血族だからと易々弟子を迎えないべレイクス卿の篩にかける厳しさを物語っている。
それから婚約者として全うしようと私なりに努力を積み重ねてきた。
貴女と一緒に味わうのが楽しみだからと、お茶会や食事会をはじめとしたそれぞれの場に相応しい子息としての振る舞い方。
貴女と布衣の友となったシェフィの仕立てるドレスを身にまとう貴女と並んでも見劣りしない礼服の用意。自動筆記に頼らず、貴女への想いを一文字ずつ綴る練習。
私が送ると貴女はいつも、ありがとうと返してくれる。それが読みたくて封書をやり取りしていた。
パーティーの催しにしても、ヴェルクローデン家で開催されることが決まればまず一番先に招待状をくれる。
今度会場で会ったなら、何を話せば喜んでくれるだろうかと思考を廻らせながら。どのような礼服を着ていけば褒めてくれるだろうと。
褒めてほしかったのだ。メイド達使用人より、両親より、リーザベル嬢に。
だから。
――あの日以来、誕生パーティーだけは主催しなくなってしまってとても寂しいんだ。
あの贈ったペンダントトップをドレスと共に身に着けてくれる華やかな姿を見る機会が減ってしまったのは。
その理由くらい察せられるけれど、理性で解答が出ないんだ。感情を抑えきれないんだ。
その答えをリーザベル嬢に求めるのはいくら何でも酷すぎると想って過ごしている。
私は貴女と挙げるいつかの婚姻式を待っている。
二千年間待った。それならばもう二千年でも待てる気がするんだ。
こんな私のことを臆病者だと思ってくれても構わない。
貴女が大悪魔に列せられたとき、少しも嬉しそうにしていなかったのも覚えている。
ただただ光栄だとだけ話していた貴女の表情は寂しそうにしていた。
レンカという元魔女を転化させ、眷属として迎え入れたときは嬉々と紹介してくれた。
光景を目にしたどころではなくその場にいた私は思った。人界観察が趣味から公務となってからのリーザベル嬢は、直接人界で魔女や術師と交流したくなったのだと。
私に出来ることは非常に少ないが、可能な限り協力しよう。
――貴女が当主となり婚姻式を挙げた際には、ぜひとも好みの魂を食べ合いたい。
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