9-4 御前会合(後) 主上の話は長い?
改稿前提の短い更新です!
「あぁ、そなたがリーザベル卿の眷属だったな」
「はい、じゃなくてさようです、私がレンカと申しますです、よろしくお願いいたします! 今回お呼びいただきありがとうございます。この場にいることを名誉と実感し魂に刻みます」
ぎらりとした鋭い視線が一点、レンカにだけ向けられた。それに怯んでしまい、挨拶というか自己紹介というか、そういったものを目上の存在相手に自分から先にしなかったのは非常によろしくなかった。
しかし、今のレンカにとってそれが精一杯な丁寧な口上であって。受け入れてもらえるかはともかく。
「余こそレリウーディロス=ヴァルセアス。ごくごく一般的な、冥界の支配者だ。ふむ、それにしても活発な少女の挨拶、か。成程、悪くない。その名、覚えておこうぞ。あぁ、我が娘ルーノとかつてのリーザベル卿を思い出させるな。そう、あれは確か数千年前のこと。まだまだあどけなさの残る二人であってあの日は丁度曇り一つない空の下、エディフィスの中庭で紅茶を楽しんでいた時の話だが――」
「お父様、それはやめて。今の会合にぜんぜんっ関係ないでしょ!」
……え? ルーノディアナの声がこの場に響き、全ての視線が音の発信元に向けられた。御前会合のさなか、皇女でもある姫君とはいえいくら何でも主上の言葉をこうも遮る瞬間があるとはだれも予想できなかったのだろう。
確かにその指摘は会合には一切関係ないけれどそこはこうなんというか――
公私問わずはっきりと物申せる姫君なんだなぁとしかレンカは思えず、黙って見守るしかなかった。それはリーザベルも同じようで、黙して紅茶を優雅に口へ運んでいる。
この場ではほぼ最年長だというべレイクス卿も、それよりそこそこ若いはずのゼブタイト卿も黙り込んでいる。
「なんだ、ルーノディアナ。斯様なことでそう感情を発露させるでない。これも些細な雑談の内に入るであろう? 堅苦しい会合もこう余が自ら話をすることで漏れなくこの場の緊張感が和らぐというものよ」
「あのね、本題は全然終わっていないし。そもそも途中で関係ない過去の話をしないでっていう話なの! あぁ折角出席してくれた皆さんすみません、我が父ながらこのような状況を作り出してしまって――」
「……いえ姫君、お構いなく……」
三域大魔公一同の発した返礼がこの場に儚く消えていった。そもそもの本題って何でしたっけ、と思い返すレンカ。
(……あれ、思い出せない。ご主人様がルーノ様から代理で呼ばれたんだっけ)
「こほん……それでは恐れ入りますが我らが主上、本題に移りたく存じます。このように口を挟んだこと、どうかご寛恕願います」
これだ。流石令嬢の身で司会を任されているだけのことはあるイレーユ嬢だ。前に出過ぎずかといって下がり過ぎず、丁度よく流れを変えてくれた。
「……あぁ、そうであったな。では今年度の収穫祭についてだが、貴公らに述べるべきは少ない。単なる貴族に収まらない権限を付与した我が同胞よ、故に身分相応の振る舞いをし実行し、前回より豊かな生活を送らせていると実感し市民達を目一杯楽しませよ! それと使用人達には適度な休息を付与せよ。問いかけはないな、であればこの場は余の権限で解散とする」
「承諾した、我が主上」
「了解したわ、主上……ヴァルセアス卿」
「了承いたしました、我らが主上」
<今回のお呼び立ては帝都と中心とした収穫祭に関連する話題よ。主上……ヴァルセアス卿が主催者で冥界の政に大きく関わるので一度お触れが出たら絶対に断れない。こういう立場を、民間では中間管理職と呼ぶんだったかしら。……本当に、困った方。ルーノを惑わせて父君でありながら説教されているのはいつもの風景。この三域大魔公って呼称を付けたのも、そもそもの大悪魔っていう称号を制定したのも主上なのだから。そもそも主上は冥界に関することなら何とでもできる。私達の権限を制限しようが何人たりとも咎められないわ>
<確かに絶対君主なだけあって尊大ですが、思ったより寛容な方なんですね主上って。ルーノ様とご主人様のお話をするとは思ってませんでしたが……かの方、いつもこうなんですか?>
<ああしてでもルーノが止めなくば、こういう御前会合であろうと幾らでも関係ない話を延々としてしまうのがちょっと困った癖よ。勿論私達の主上として統治能力は文句なしなのだけれど、身内の自慢話をするのは困りものね>
<ご主人様がここまで困惑しているなんて……>
これは主上に直接物申せるルーノディアナと司会のイレーユ嬢に任せるほかない。
(……はぁ。貴重な会合に参加できたのは嬉しいけど、これはいつものことなんだろうなぁ)
レンカはこっそりと、魔力念話でも伝わらないようにため息をついた。
会合が一息つくと次は食事会。
サキナを筆頭としたエディフィス勤務の侍女が運んでくる料理の品々。それらは誰から見ても一流の食材を使ったものだと分かる。
アペリティフ(レンカだけ未成年なのでリンゴジュース)、アミューズ・ブーシュ、オードブル、スープ、パン。
その次はポワソン(マグロのポワレ)、ソルベ(レモンのアイス)、ヴィアンド(カモ肉を赤ワインで煮込んだもの)、新鮮なサラダ、フロマージュ、デザートはラズベリーのタルトケーキ、 カフェ・ブティフールは紅茶と焼き菓子。
人間のままであったらとても食べきれないであろう量の料理は、どれもこれも絶品だった。
特にヴィアンドなるカモ肉の肉料理の焼き具合とデザートの甘さ加減がちょうど良かった。
ふとリーザベルを見ると、そこまで飲むのかと言いたくなるくらいにはワインを頻繁にお替りしていた。美味ならば、成人になった際にはぜひ一口でも構わないので飲みたいとレンカは感じた。
シトニは調理に参加したのち、笑顔で給仕に徹していたという。
食後の紅茶を飲み終えた頃——
「ねぇリーザ、レンカ、ウチに泊まらない?」
「いつものね。よろしく頼むわ」
「それは嬉しいですが……」
「決まりよ。ね、いいでしょお父様! レンカはここに来たのも過ごすのも初めてなのよ」
「あぁ、構わぬぞルーノディアナ。レンカよ、ルーノとリーザベル卿の思うがままに従えばそれで良い」
「は、はぁ……初訪問ながらお邪魔しますね、主上」
――なんて本当に軽いくだりで、エディフィスへの滞在及び宿泊が決まったわけで。
別に疲れてはいない。しかし、ことあるごとに会合が開かれるのだからご主人様も思ったよりずっと多忙なのだとレンカは思った。
ご一読いただきありがとうございました!
追記:改稿しました




