7-8 帰還
まとめ回?です
<さて、そちらの首尾はどうなっているのかしら?>
<問題ないってものですよ、お嬢様。聖女はこちらで捕えました。今は眠っています。眠らせようかと思ったけど勝手に寝てそのままです>
<眠り、ね。ともかく、私の代わりに生存時間延長の術を特別に授けるからお前が使うのよ。これを使いこなせるようになれば面白いわよ、色々と>
<面白い……? いいや何でもない、それはありがたい。至高なる大悪魔たるお嬢様が凡人にも劣るようなただの使い魔である俺にそうしてくれるとは。感激です>
<お前はそこそこ使える私の使い魔なのだから少しは誇りを持ちなさい。術にかかったら私のメイドであるシトニに引き渡して。人間の食事量などたかが知れている。それはお前の方が熟知しているはずだわ……今、聖女に残飯を与えるのだろうとでも考えたでしょう? 残飯なんて冥界には存在しない概念だわ。どうやらお前には教育が必要のようね>
<ひっ、教育!? いくら何でも名家のお嬢様が捕虜に残飯なんて与えるわけないじゃないですか。メイドのシトニさん、ね。了承しました>
…
……
………
「ただいま戻りました!」
「戻ったわ」
「ただいまー」
「お帰りなさいませ皆さん!」
「お帰り」
「お、戻ったか。貴女達が戻ってくるまでにシトニの紅茶5杯は飲んでしまったぜ!」
シェフィに採寸をしてもらい注文をし終えたところで、レンカ達は寄り道せずに本邸へと帰還した。
極上の紅茶を飲みたければシトニに淹れてもらえればいいというリーザベルの判断故にだった。
それは正解であって、すぐに全員分の紅茶と茶菓子が給仕された。勿論マノンの分まで。
「マノン、と言ったか。私はフォスファ=アルヴィベリト。リーザベル嬢の婚約者だ。ついでにそこのリオクとはそこそこ長い付き合いでもある」
「ついでかよぉ、まあいいや――お、貴女がレンカの友人だという少女か。俺はバスティカ=リオク。よろしくな!」
「よろしくお願い、アルヴィベリト様、リオク様」
「俺なんてまだ若い……この中じゃ年下だしさん付けでいいぜ」
「そうなんだ……みんな大体同い年に見えるだけなんだ。わかったよ、リオクさん。ところでわたし、平民だよね? ここに座っていいのかな?」
「構わないわ。レンカの友人だもの、それくらい柔軟に対応しなければね」
「そ、そうなんだ」
「ご主人様は、こういう方だから。新規のドレス、ありがとうございます!」
「あっ、言い忘れてた。ごめんなさい。お嬢様、同じくありがとうございます!」
「これも富の分配だから気にしなくていいのよ。あと平民ではなくて市民だから」
マノンは特別リーザベルに敬意を払いつつ、警戒しているらしい。確かにすごい存在なのは解るが、どうしてそこまで警戒するのかレンカには分からない。
<マノン。ご主人様の婚約者であるアルヴィベリト様とリオク様は貴族なんだけど、すっごく優しいんだ>
<わわっ、レンカが話しかけてくるからびっくりした。貴族の人たちってもっと怖い印象があったけどなんだか違うね。お嬢様だってわたしに着替えの服とかドレスまで用意してくれるし>
<私のご主人様はすごいんだから! 私はご主人様の眷属であると同時に魔術の弟子でもあるよ。こうやって会話するのも魔術の一つだし>
<そうなんだ、まさかわたしがレンカとこうして魔術で会話する日が来るなんて思わなかったなぁ>
「それで、アルヴィの案で……」
「あぁ、それがいい。これは遊戯でもある宴だからね。少しは向こうが耐えてくれないと面白くなくなる」
「あら、それでは私に歯向かわせるということになるのね? いいじゃない、どこまで生意気で半端な度胸なのか見ものだわ。因みに私は自分が一方的に勝利する方が好きよ。人間共相手の矮小な誇りとやらを徹底的にぶっ壊して残りカスを踏み躙るのが特に、ね」
「ははは、実にリーザベル嬢らしい。先日問い詰めたという幹部も大したものではないと見た」
「幹部なんて前座に過ぎなかったわ。本当に、茶番に付き合わせる位で丁度良かった。幹部はそうね、茶殻がいいところかしら。あの聖女がどのような茶殻を残すのかそうでもないのか今から楽しみで仕方ないわ」
おっと。暢気に魔力念話で会話している場合ではなかった。リーザベルとアルヴィベリトで今回の宴に関する作戦を立てているようである。
「とすると、肝心の聖者改め聖女が本番ということか。どうするのかここで訊いてもいいのかな?」
「えぇ。貴方は共催者だもの。私、結構お喋りな方だから手の内なんて明かすこと程度何でもないのよ。特に貴方が相手ならば。ところでレンカ、貴女は自分の手でマノンに転化の術をかけたわね?」
「っ、はい。転化……聖女……。まさかご主人様、それって!?」
「えっ、なに? 聖女? んんー? レンカ、何かわかったの?」
レンカは早々に気付いた。マノンはいまいち掴みきれていないようだ。
「レンカ、マノンに説明してあげて。思考を読むのが上手いだなんて、流石私の第一眷属」
「だからね、マノン。つまりこれはご主人様方が常に優位であってね――」
「ふーん、ん?」
「それで、聖女がね――」
「せ、聖女?」
レンカはかいつまんで説明した。聖清教団というものが村を狙っていたこと。ゼグの潜入調査により、その教団の頭領である聖者が実は聖女という事実が判明したこと。
そしてこの度、アルヴィベリトが発案した遊戯の規則とその抜け道。人間側が人間でいるままでは永久に勝ち目がないということ。
…
……
………
「これもお嬢様のお仕事のひとつ、なんだね」
「アルヴィが発案してくれたからできたことでもある。私だけでは村人丸ごとを転化させその後、教団のある都をまとめて焦土にする予定でいたから嬉しい誤算ってやつよ」
「そんじゃ、俺は家に帰るぜ。着替えなきゃいけないしよ。リーザベル卿、いいお邸だった。シトニも美味しい紅茶良かったぜ」
「いえいえリオク様、こちらこそご滞在いただきありがとうございました!」
何もこの場に飽きた訳ではないようで、リオクは帰宅して着替えを取りに行かねばならなくなった。
「それなら私が瞬間転移の術で送るわ。アルヴィはどうするの?」
「折角なのでリーザベル嬢の術でバスティカ邸に送ってもらうとするよ。新規の礼服ならリオクの家に置きっぱなしのがあるということで」
「アルヴィ、新規の礼服があるってどれ位リオクの家にあるのかしら?」
「アルヴィベリトが俺ん家に滞在するたび、毎回のように注文しているのを見てるぜ。専用のタンスもちゃんとある。別に毎度毎度パーティー開くわけじゃないのになぁー」
「リーザベル嬢、これは我がフォスファ家とバスティカ家の繋がりがあるという立派な証拠だ。当主同士だけではないという、ね」
「そーそー。父さんも母さんも互いに知ってるぜ」
「その情報、初耳なのだけれど……リオクが貴族の振る舞いを身に着けているならそれでいいわ」
代わりに応えたのはリオクだった。リーザベルは少しだけだが明白に頭を抱えていた。
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