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7-5 お嬢様のやりとりあれこれ

今回はいつもより場面の切り替えが若干多めです


「……というわけで俺は人間の魂を対象とした狩人で、現在ではその腕を買われてお嬢様の命令に従って動いているってこと」

「う、うん。なんとか理解できた」


わたしはいつものように夜となったら外に出て、ゼグから詳しい話を聞いた。

びっくりしたとかそういうのは感じたけど、まるで自分の周りがそうなっているなんて考えもしなかった。

ゼグの話を大まかにまとめると今私が住んでいるのとは別にもう一つの、太陽のない世界があるということ。

その世界は冥界と呼ばれており、人間とは別個の生命体が住んでいる。そして基本的に人間の生存が認められていなくて数分も生きていられないこと。

もし冥界に入ってしまったら、ゼグのような狩人の標的にされてそこでおしまい。

逆に言えば、人間じゃなくなればその冥界でも生きられるという意味だ。


「人間の世界……俺たちは人界と呼んでいる。真に人界を統治しているのは人間の貴族なんかじゃない。あいつらは自分達が最も優れている支配者だって自惚れているだけの傀儡。お嬢様を含む御三方によって支配されているんだ。お嬢様の計画ではこの村人全員を転化させるつもりでいる。マノン、お前さんに訊きたいんだけど、人間じゃなくなることに対して抵抗感があるんじゃないか?」

「人間じゃなくなると、具体的にどうなるの?」

「あー、それか」


人間じゃなくなったらおいしい食事がとれなくなったりするのはちょっとどころじゃなくてすごく、いやだ。

パンやスープ、サラダもまだ食べて味わっていたいし、たまに食べたくなるような町で売っているお菓子もそうかな。

あとは何だろう、見た目が動物みたいに大きく変わって話せなくなるのもいやだ。

ゼグの方を見たら、眉根を寄せて割と真剣そうな顔をしていた。

ゼグって、もしかしてわたしが思っているよりずっと真面目だったりする?

そりゃそうだよね。気難しいお嬢様に雇われて命令でこうして動いているんだし。


「まず、食事はとってもとらなくても良くなる。空腹感を感じなくなるから飢えることもない。なのに味覚を始めとした五感はあるから心配しなくていい。睡眠だってそんなに毎晩寝なくて済むようになるから、気が向けば眠ればいい。見た目も大方は変わらない。あと風邪とかみたいな人間のかかるような病気にとも無関係でいられる。肉体ではなく、魔力で構成された体になるときも痛苦を感じない」


わたしが気になっているところについて細かく親切に説明してくれた。

なぁんだそれなら……ちょっと待って。いやいやすごくない?

そんな人間とは別の種族になって、ご飯も睡眠もいらなくなって病気にもかからなくなるなんて。


「人間の貴族なんかより税金の無駄遣いもしないし、統治機構は俺の知る限りよく機能している。冥界の各第一都市なんて見たらこっちの都なんて発展度が小規模だと思えるくらいだ――っと、お嬢様から連絡だ」

「わかった」

……

………

「レンカ。人界へ移動した私が貴女を眷属召喚で呼ぶからそれに応じてマノンの所へ向かい転化させればいい。他の村人転化は私がして、まとめて冥界に瞬間移動させるわ。召喚されるまでここで待機よ。シトニ、貴女も眷属召喚で呼び出すからメイドらしい挨拶を頼むわ」

「かしこまりました、お嬢様!」

「はい! ここで待機ですね!」


レンカはあの夜、あの森でリーザベルを召喚した。しかしここに来て主人に呼び出される日が来るなんて、全く思いもしなかった。もうあれから半月あまりの時間が過ぎたのかと思うと……。

 

「つまり私達もレンカと共に待機というわけか」

「リーザベル卿、父から連絡があって宴の会場を借りるのを快く承諾してくれたんだ。何だか張り切っていたような気がするぜ」

「分かった、助かるわリオク。ゼブタイト卿もそのような感じで私としても嬉しいわ。私はこれからシェフィと魔力念話をするから」

「あぁ、彼女か。了解した」

「分かったぜ」


<シェフィ、聞こえるかしら?>

<勿論ですリーザベル卿。お客様、仕立てのご依頼ですか? それとも雑談?>

<そうね、今回も仕立てよ。宴をアルヴィとで共催することになったわ。そこで私とレンカの新しいドレスが1着ずつ欲しいのよ。寸法は何も変わっていないからそこは前と同じでいいわ。貴女の店に直接寄らず、魔力念話で注文しても構わないかしら?>

<もちろん、形式として正しいので承っています! お客様からの発注とあらば一日一時間でも早く、そして素晴らしい服を届けるのが私の使命なので。それに、店は作業場ですし。それにしてもまさか自分が高等学院でリーザベル卿と布衣の仲になるなんて思いませんでした>

<そんなこと今更じゃない。それはそれとしていつも貴女の腕前に助かっているわね、シェフィ。ちなみに宴の会場はバスティカ家だから、これを貴女への招待状代わりだと思って>

<あれ? パーティーではなくてわざわざ宴って表現するって事は……あぁ、そういう意味ですか。せっかくなので私も参加させてもらいます>

<えぇ、それからレンカの友人を呼んで追加注文をするからそちらの店に寄るわ>

<新規のお客様……! いえ、当店のご利用ありがとうございます。またいつでもどうぞー>


本当はシェフィともう少し長く話していたかったが、向こうに注文をした以上そうも言っていられない。だから必要最低限のやり取りをして辞した。

薄紅の唇からため息が洩れる。

続いてリーザベルが魔力念話を送るのはあの使い魔ゼグだ。未だ完全に許すことの出来ない、したくもないがどこまでも便利な存在だ。存分にこき使ってしまえばいい。

……接触させたマノンと良好な関係を築いていればいいのだが。


<ゼグ、私の眷属達がようやく覚悟を決めてくれたわ。ところで教団の動きは? まさか村に来ていないでしょうね?>

<覚悟、か。どのように説得したのか……ゴホン。それがですねお嬢様、なーんにもないんです。村に教団の関係者各位すら一人も来ないんですよ。町にも出かけたんですが見張すらいなくて、官公庁も個人の商店も関係なく寄付の募金箱が置かれているだけ。都に行けば募金箱なんてもっといくらでも見かけたって話です>

<喜捨の心得を振り翳してはどれだけ集めれば気が済むのかしら? 人間共の貴族連中がいかほどまでに浅ましいかってだけね。何だか利己主義的過ぎて苛々して来たわ。使い魔たるお前はマノンの保護と転化を最優先すること。彼女の様子はどう?>

<確かに承知しました、お嬢様。様子って訊かれてもメシ……食事も睡眠も普段通り。お嬢様や俺の正体を話しても平然としてます。肝の据わった人間がまだいるとは思いませんでした…… お嬢様、マノンを転化させるのってまさか>

<マノンだけではなく、村人全てを転化させる。いいわ、私のお願いを聞いてくれるお前になら話してもいいでしょう。いずれ人界に住む全ての魔女あるいは術師を全て私の術で転化させ、条件付きで冥界に永久に移住してもらう。そろそろ私も自ら人界に降り立つわ。時機を見て私がこうして話すから、残党狩りもよろしく。これも私の眷属、そしてその友人の為よ>

<お嬢様が選定してそこまでするとは、それは随分と規模の広い話ですね。本当に俺が聞いて良かった話なのか分かりませんがね。ところでお嬢様、人界に来るのは嫌じゃないんですね>

<べレイクス卿みたいに召喚拒否権を行使しているのもいるけれど、人界そのものはそこまで嫌いではない。ただこの世界は人間共がいなければもっといい、綺麗な世界だと言うのに生物として全滅させられないのがもどかしくて仕方ないわ。人間共が勝手に増えてくれるから魂が食べられる。私達はただ管理するしかないのよ。尤も、街一つくらいなら消す自由はあるけれどね>

<あーはいそうですか。ちなみに、こっちに来られるのは街も滅ぼす目的も含まれています?>

<私は、冥界にいても人界の都市を滅ぼすことくらい何でもないのよ>

<…………えっ?>

<お前はマノンを最優先で全力で守ること。良・い・わ・ね?>

<……はい>

……

………

「ふぃー。お嬢様からの連絡も終わったぜ。俺はマノン、お前さんを守るから安心しな」

「わたしを、ゼグが守る? でもゼグのほかに狩人はいないんだっけ?」

「あぁ、俺はそこそこ腕が立つ。人間じゃどうあがいでも敵わないくらいに。狩人は上位の存在の許可なくして活動はできない。横槍を入れる……ことはないと思うぜ。それから、そのお嬢様がこっちにいらっしゃることになった」

「えっ、こっちにお嬢様が来るの!? 早く良い服に着替えなきゃ!」


 なにそれ。ぜんぜん聞いていないんだけど。別の世界……冥界からお嬢様が直接こっちに来られる?

 そういうことになるならもっと身綺麗に準備しておけばよかった。

  

「お嬢様は人界の服の縫製の度合いがどんなもんか知っているだろうし服よりも態度だな。ま、こっちで言う村長なんかよりずっと上の存在だと思って接するといい。そうすれば波風も立たないだろうよ」

「そういうのに会ったことないんだけどそれはいいの? 村長とだってあまり会うの苦手なのに……」

「お前さんは安心していい。いざとなったらお嬢様との交渉は俺がする」

「あれ、ゼグってお嬢様の怒りを買ったんだよね? いまいち信用できないなー」

「……そこは俺がひたすら平伏してでもなんとかします」

 

 ゼグが平伏……そーなんだ。ふーん、へーえ。こういうの、頭が上がらないっていうんだっけ?

 従者って辛そうなんだなー。それでもご飯も食べられているみたいだし良かった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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