7-3 続いての来客
もう2章も中盤です
――どうして、血液を飲もうとしている主人とそれを何でもないことのように話している婚約者に違和感を覚えているのだろう。
自分は魂を食べるとき、最初から何の抵抗感がなかったというのに。
血肉って言うくらいだし、人肉に近いから?
レンカはその違いについて解き明かせないでいた。
「リーザベル嬢、レンカ。実はこの機会にと思って友人を客として呼んだんだけど……この場に参加してもいいかな? 実はレンカに会いたがっているんだが」
「構わないわ。貴方の友人でこの機会に動ける者と言ったら予想がつくもの。良いわね、レンカ?」
「……えっ、私に来客ですか? は、はい、もちろんです! ぜひ来て欲しいです」
ここに一人でいる訳ではないのだから会話に参加しなければ。
そのタイミングで首肯したアルヴィベリトが魔力念話をすぎに行ったのが感じ取れた。これを感じ取っていいのか疑問ではあるが。
「よっす。あなたがレンカだなー? 初めまして。俺はバスティカ=リオク。父とはもう会ったみたいだっけな。リーザベル卿の眷属、あらためておめでとう。てな訳でよろしくー。そうそう、これ手土産だからなー」
「はい、私がレンカです。よろしくお願いしますー! 手土産どうもありがとうございます!」
明るいアルヴィベリトの友人が来て、菓子を渡された。あの厳格ほどでもないにしても真面目なゼブタイトの実子とは思えないほど何も似ていない明朗快活な声での挨拶。
緩い。あまりにも緩い。どちらかと言えば人間寄りの性格と立ち居振る舞いだ。
(……でも角あるしちゃんと耳も尖ってるし、生粋の冥界の住人だよね。自由そうでゼブタイト卿が苦労してそうだなぁ……)
朱に若干の茶が入り混じった色合いの髪色。髪色とよく似ている朱色の双眸は光が良く差し込み、ころころと良く動く。
体つきは中肉中背で大まかな背丈だけで言えば……レンカ、シトニ、リーザベルより上で、アルヴィベリトより下だろうか。
しかし手土産をきちんと用意する上、服装もきちんとした仕立て屋のものだと分かる紳士用のそれで。髪型にしてもきちんと手入れされている。新参貴族の子息としては十分すぎる。
そしめ軽くはあったものの頭を下げてくれたことが、レンカには少し嬉しかった。
<レンカ聞こえる? アルヴィとは友人のリオクだけれど、リオクの方が年下だから。アルヴィと私とルーノは同い年よ>
<そうだったんですか! 年の近い関係があっていいですね>
<そうね。数年程度はほぼ実質同い年と言っても過言ではないわ。ついでに言うと前に会ったイレーユは私達より年下よ。彼女はまだ1000年も生きていないわ>
<1000年……>
リーザベルから魔力念話が飛んできた。
イレーユが1000年も生きていないというのはしっくりくる。学院を卒業して間もないといった感覚がするのだ。
「リオクは私の友人であってね、付き合いもそれなりに長いんだ。リーザベル嬢とレンカとシトニとでリオクの本家に訪問したそうだね?」
「アルヴィベリ、俺の家なんてどうでもいいだろー。今会えたことが重要なんじゃないのー?」
「そうとも言える。あとその呼び方は中途半端すぎないか? 拒否まではしないが、他者の名前はきちんと呼んだ方がいい」
「アドバイスありがとう、アルヴィベリト先輩。あぁえーとリーザベル卿、俺まで呼び出すなんてどういうこと? 助けになるならそこそこ程度はやるぜ!」
「君のそういうところ、変わらないな」
……なんだろう。主人やアルヴィベリトからは熱気というものが微弱だが、こちらのリオクはまるで正反対だ。他者に対する情熱が明確に感じられる。
そしてついでに観察してみるとアルヴィベリトがリオクを制している辺り、年季というものが違うのだろう。人間で例えるならばアルヴィベリトが兄で、リオクが弟といったところか。
静かに紅茶を飲んでいたリーザベルが口を開いた。
「貴方は特別することなんてないわ。こうして来てくれるだけで助かっているのよ。けれどそうね、貴方の邸宅で宴をしようかと思っているわ。邸宅、いつでも綺麗なんでしょう?」
「宴ぇ? それは俺が決めることじゃないかもなぁ……だとしても父がリーザベル卿からの提案なら吞むと思うぜ。すんなりとな。つまり、俺は使者でもあるってわけか」
「使者とは思ってなかったけれど、それもあり得るわね。良いわ、貴方を使者と見なしましょう」
「任されたぜ!」
びしっと、礼儀正しく敬礼をするリオク。聞く限り話し方は砕けているが、貴族の子息としての教養はあるのだ。
「敬礼があるってことは、冥界に軍があるんですか? そうでなければそういう仕草しませんよね」
「そりゃ、あるぜ」
「厳密には騎士団だけれどね。何と言ってもアルヴィは現騎士団長の子息で、次期騎士団長の候補だもの。戦い方を日々学んで鍛錬しているのよ。アルヴィの剣術は冥界随一」
「おや? リーザベル嬢はレンカにほとんど説明していなかったのか……私の身の上話はその辺にしてくれ。父上が騎士団長なのは確かだが、次期の騎士団長候補というのはただの噂でしかないはずだ」
「はいはい、謙遜もそこまでで。ねぇレンカ、冥界に内乱なんてないのに何故騎士団なんてものがあると思う? これは私からの宿題よ」
「え? それはですねー……? 何ででしょう」
レンカはハッとした。内乱がないのであれば戦闘技術など不要な世界のはずだ。
魔術が使われているのは主に生活環境の向上が多い。あの空中飛行は厳密には魔術ではないようであって。中でも長距離移動に用いる転移が顕著だ。料理をするにしても火を熾す魔術が主流のようだし。
閑話休題。
内乱がない世界で戦闘技術、か。そう問われてもすぐに答えることができない。
力試しと称して戦闘を楽しむ文化があるからとか? 意思がある生命体である以上、どうあれ闘争心は少なからずあるはずだが。
――ダメ。まるで思いつかない。
「ふふ、その様子だと悩んでいるようねレンカ。答えは、人間共を狩るためよ。数の調整とも言うけれど」
「……あぁ、それがありましたね。技術として発達させたのはべレイクス卿ですか?」
「その通り。最近になって私も少し手伝ったわ。向上させた魔術で人間を一方的に蹂躙するのは結構楽しいわよ? 私の家で雇っている狩人達も同じ気持ちのはずだわ」
本当に結構で済んでいるのだろうか。実際のところかなり愉しげだ。そうやって楽し気に微笑むご主人様はいつもそうだ。
そういう思考をする辺り、本当に人間に対する慈悲などない。こうなっては人間など、ただ玩弄するために消費されるだけの生物だ。
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