25「鈍痛と思い出と」
「――妖帝ウテナ、ここに在り!!!」
そう啖呵を切ったウテナは、羽衣をひらりと翻しては金棒を床に向かって振り下ろした。
途端、衝撃波のようなものが地上を伝ってエルマーの体躯を襲った。
「なに!? ぐおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
白棒が全て圧し折られ、彼は軽々と飛ばされていく。
遠くにあった壁と衝突し、骨肉が砕け散る音を盛大に喚き散らしながら、血の緞帳がその景色を隔たった。
ウテナは自身の両手へと目を落とし、驚いた表情をした。
「凄い……前と比べ者にならないくらい強くなってる」
華奢な両腕だけでこれほどまでの絶大な威力を叩き出せるとは、彼女自身も思ってはいなかった。そもそも、左手に握っている金棒自体、前のウテナであれば持ち上げることすらままならなかっただろう。
両手から目を離し、動かなくなったエルマーを見やり、ウテナはふぅと一息吐いた。
「倒せたのかな……早くトウマ君のところに行かないと」
ウテナはそう言い、この場を後にしようと――
「――!?」
ウテナは目を見開きながら後ろを振り返った。
すると次の瞬間、凄まじい轟音と共に壁が砕け散った。
「――っ、なに……?」
突然と破壊された壁から、一人の少女が飛び出してきた。
少女は藍色の髪をしており、意識がないのか、目を瞑っていた。おまけに、全身が血の色に塗りたくられ、まさに瀕死と呼ぶべきであった。
ウテナは、この少女を知っていた。それが、自分の唯一無二の双子の姉妹であるレイラだということを。
「レイラ!!!!!!」
ウテナは一心不乱に駆けだした。今は状況の確認よりも、レイラの安否確認が先であった。
倒れたレイラに駆け寄ると、ウテナはレイラの体を抱き寄せ、
「レイラ、しっかりして……!!! レイラ!!!!!!」
「――テ、ナ……ウテナ、なの?」
「そうだよ、私だよ!!」
弱々しく震える手で、レイラはウテナの頬に触れた。
ウテナはその手を優しく握り返し、
「レイラ、やだよ……まだ私、レイラに何もできてない」
「大丈夫……アタシにはレイラがいてくれただけで、それだけで幸せだったから……」
ウテナの頬を雫が伝い、それを見てはレイラが力なく笑った。
「ウテナ、気を付けて……アタシを殺しに、敵が来てる」
「――なんかここにまた一人いるじゃん」
「――!?」
突如、この場にいた者ではない声がした。
それは高く澄んだ声色で、そして、レイラと自身を殺害しようと企む輩であると、ウテナは悟った。
それと同時に、レイラを惨い目に遭わせた怒りと憎しみが、胸の裡から止めどなく溢れ出してくる。
ウテナはゆっくりとレイラを寝かせると、後ろを振り返った。
そこには、闇色のドレスに身を包んだ銀色の髪の少女がいた。
「へぇ……すんごい派手な格好してるわね、アンタ」
「黙れ――!!!!!」
ウテナは床を強く蹴り、風をも切り裂く勢いで声の主へと迫った。
少女は銀色の髪を指で華麗に払うと、艶やかに笑った。
「――ねぇ、アンタ知ってる?」
ウテナへ静かに語りかけ、少女は異様にも立ち尽くしたまま、構える動作の一つすら取っていない。
「――この世界とは違う、別の世界がどこかにあることを」
「それがなに!!」
少女の言葉を斬り捨てるように、ウテナは金棒を彼女へ叩きつけた。
しかし、少女の前に魔法障壁が現れ、金棒の一撃を容易に防いでしまった。
「ぐっ……!」
どれだけ強く押し込もうとも、魔法障壁はびくともしない。
歯を食いしばって力を振り絞るウテナに対し、少女は再び、泰然自若と言わんばかりの態度で語りかけてきた。
「アタシ、そこから来たの」
「何が言いたいの!!!」
「――つまり、アンタをさっさと殺してトウマ君と一緒に故郷へ帰るってことよ!!」
「トウマ、君……」
少女の口から飛び出した名前に、ウテナは大きく動揺した。
その所為で金棒に込めていた力が抜けてしまい、激しく体制を崩してしまった。
「まずいっ……」
「残念だったわね」
少女は凄まじい速度で、ウテナの腹部へと蹴りを入れ、天井へと叩きつけた。
「がああっ……!!!」
ウテナは吐血し、そのまま体制を立て直せずに落下する。
ウテナの目の前には、いつの間にか微笑を湛えた少女がいて、
「これで終わりよ」
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
少女は白銀の剣でウテナの体を切り裂いた。
ウテナは体を切り離され、そのまま床へと叩きつけられた。
大量の血が床に広がっていき、ウテナは重い痛みのあまり呼吸が上手くできず、喉をひゅうひゅうと鳴らすばかり。
『レイラ……』
赤く染まる視界に、薄らと映るレイラの姿。
彼女の体へと手を伸ばし、ウテナは必死に藻掻く。
しかし、
「さっさと死ねよ」
「ああああああああっっ!!!!!」
ウテナの手が、少女の剣によって切断された。
「ぁ……」
ウテナは痛みのあまり意識が遠退いていき、
『まだ、やだよ……』
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「――君の名前は?」
「ウテナ……」
「ウテナ、いい名前だね」
優しげな声をした、一人の青年がいた。
その青年はとても笑顔で、とても大勢の人を殺したようには見えなかった。
「僕はトウマ。よろしく」
「トウマ……覚えとく」
ウテナは静かに警戒しながらも、トウマの手を取った。
すると、
「トウマっ!! アタシはレイラだよ、よろしくね~」
「うん、よろしく」
テンションの高いレイラが両手を上げて言い、とても穏やかな笑みを浮かべていた。
自分もそうなれたらなと、ウテナは思った。
そして、全員で集まって夜食を摂っている時。
「ウテナ、食欲ないのか?」
「ごめん……」
リキアにそう返すと、ウテナは項垂れた。
申し訳ないとも思ったが、どうしても食欲が起きなかった。
「なんでだろう……」
思えば、訳が分からなかった。
ウテナ自身、食欲がなくなることなど普段はなかったのだ。
もしや、
「レイラに、嫉妬……?」
明るくて社交的な彼女に、ウテナはいつしか嫉妬していたのかもしれない。
月日は流れる。
「ウテナ、おはよう」
「う、うん……おはよ」
ウテナは少し慌てながらも、トウマに挨拶を返した。
そして、優しく微笑むトウマを見て、少しだけ鼓動が速くなるのを感じた。
もしや、自分はトウマ君に惹かれてるのかと思った。
思い返せば、トウマはずっとウテナに優しくしてくれた。
毎日、こうやって挨拶もしてくれる。
「ウテナ、どうかしたの?」
「い、いやっ、別に。なんでも……ない」
「――?」
戸惑うトウマを残し、ウテナは逃げるようにして走っていった。
そして、その日の夜。
「ウテナ、さては恋してますなぁ」
「し、してないってば……」
「嘘吐くなっての。顔に出てますぞ」
悪戯な笑みを浮かべ、揶揄ってくるレイラに、ウテナは顔を赤くしてぶんぶんと顔を横に振る。
しかし、ウテナがトウマに恋をしているというのは本当だ。
ウテナは羞恥心のあまり顔を真っ赤にしては、ぷいっと横を向いた。
「ウテナ、アタシ応援するよ」
すると、真剣な表情のレイラがそう言った。
「え、でも……」
「大丈夫、大丈夫! お姉ちゃんのアタシに任せときなって!!」
「う、うん……!」
そして優しく微笑んだレイラ。
彼女の姿が、脳裡に焼き付いて離れない。
どうも、焼き鮭です。
もし
「面白い!」「ウテナとレイラがやばい!!」「ウテナかわぇえ」
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