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警部過去編2

 不意に肩を揺らされる。

薄らと目を開けると目の前にはガラスを挟んで見知った小屋があった。

「おい、着いたぞ。」

隣には彼の姿があった。

頭の中を整理するーーーああ、そうだ。

わたしは彼の手伝いをする約束をしていたんだった。

軽く欠伸をしてのびをする。

時間はーー車内の時計で午後8時4分だった。

分かった、ありがとう。とだけ返答すると助手席のドアを開け外に出る。


ーー途端、顔に冷たい風が当たり身震いする。

手も悴むので扉を閉め一旦ポケットに手を入れる。

寒いのは少し苦手だ。

運転席側の扉が閉まる音が聞こえ、彼が姿を表した。

煙草を咥え、火をつけている。

それを見ながら、わたしは取り敢えず後部座席に置いてあった大量の食料品を運ぶためにドアを開いた。

取り敢えず、一つ引き摺り出して小屋の扉の横に置く。

次の分を取るために後ろを振り向くと段ボール箱を持った彼、シス警部がいた。


「…なんだ?」

恐らくわたしは意外な顔をしていたのだろう。

わたしが買い込んでいたものを彼が持ってくるとは思えなかったから少しぼーっとしてしまった。

「まだ寝ぼけてるのか?」

そう言いながら大量の食料品が入った段ボール箱をわたしが置いた箱の横に置いた。

「…そうかもしれんのぅ。」

彼の横を通り過ぎもう一つの段ボール箱を引き摺り出し、小屋の扉の横に置いた後家の鍵を開ける。

ドタドタと家の中から玄関に走ってくる音。

隣を見ると彼がギョッとした顔で玄関を見ていた。

ーーそういえば、伝えていなかった気がする。


 内開きの扉が開き中から少女が飛び出してきた。

「おかえりぃ!シガレット!務所の飯は冷たかったか?」

…どこでそんな言葉を覚えてきたんだろうかこの子は。

「ネル、ワシは捜査に協力していただけで刑務所には放り込まれておらんよ。」

ズボンにしがみつきながら此方を見上げて瞳を輝かせている。

「お土産はそれ?」

「お土産?」

ネルが指を指した先には彼の姿があった。

餌を求める稚魚の様に口をパクパクさせながらわたしとネルを交互に見ている。

「み…」

数秒ほど経ちようやく彼が口を開く。

「み?」

「未成年者略取…」

ーー思わず吹き出した。

「略取誘拐罪だぞ!?」

「りゃくしゅゆーかいざい?」

ネルが意味も分からず返す。

まぁ、わたしを迎えにきた時にいなかった少女が出てきたらびっくりはするか。

一応説明だけはしておこう。


「あー、シス君。」

呼ぶと興奮した様子で彼が此方を見る。

「なんだ、この子に何をするつもりだった?今日の晩飯にでもするつもりか?それとも薬の材料か?遂に尻尾を表したな!?」

もう少し彼の答弁を聞いてみたい気がするが、流石に可哀想なのでやめておこう。

「この子の名前はネル、ネル・ヒィツィ。(あかり)の魔女じゃよ。」

ネルの頭を撫でながらそう答える。

だが、彼の頭の上にはあからさまにクエスチョンマークが浮かんでいるのが目に見える。

先程と同じで何を言葉にすればいいのか分からず、口を開け、閉じわたしとネルを見て、はとか、ほとか言っている。

「百聞は一見にしかず、じゃ。ネル、朝お願いしたのをもう一回やってくれるかのう。」

「はいはーい!お安いごよー!」

そう言いながらわたしは指を弾く。

と同時に彼の足元から光の玉が現れ飛び弾け周囲を薄明るく照らした。


「ーーーーあぁ!?」

また数秒の時間を開けその言葉しか出ないのはある意味当然だったのかもしれない。

朝の出来事、わたしの口から出ていた言動、その他もろもろの話を加味してひとまとめにしようとして顔がコロコロと変わっている。

眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げ、腕を組みーーー

「そうか、俺がきた時のそれは確かに煙草の魔法じゃなかった...つまり他にも魔女がいたのは当然というわけか。」

ーーそう言う彼の顔は少し苦い顔をしていたが心の中の霧が晴れたかのようにすっきりとしていた。

何かしら自分の中で整合性が取れたのだろうが、ようやく出てきたのがその言葉だったのだろう。

他にも話したいことはあるのだろうが、まとめて出て来たのがそれくらいだったということだろう。

だが、自信満々にそう言う彼の顔が何故か徐々に曇り色に変わる

「…待て、一見小学生低学年程度に見えるがーーまさか。」

あぁ、実年齢が何歳かと言う話か。

「安心せい、この子は実年齢でまだ9歳か10歳程度じゃ。まぁ今後も見た目は変わらんがな。」

本当の年齢はわたしも知らない。

わたしがこの子を見つけた時の年齢を知らないからだ。

ここにきてからは二、三年程度のはずだ。

教えているにも関わらず語彙力があまりにも少ないから少し心配ではあるが。

「先に言っておくがこの子の異能は光を奪い、別の所へ放つというモノじゃから今回の犯人とは別じゃよ。」

釘を刺す必要もないとは思うが、先に釘を刺しておく。

いくら彼でもこの子は恨みの対象外のはずだ。

「はん人?」

「ネルは気にせんでも大丈夫じゃよ。」

ふーんとつまらなさそうに言うとネルはわたしの足から離れ、扉の奥へと消えて行く。


 扉に支えを差し込み、横に置いておいた段ボール箱の上に被りっぱなしだったシルクハットを乗せて持ち上げ、私は振り向きながら彼に言葉をかける。

「改めて、ようこそ我が家へ」

そういいながら片手で箱を支えながら電気をつける。

靴を脱ぎ、もう一枚目の前にある扉を開き、そのままキッチンのある地下への階段を今日彼が踏み入って来た部屋の揺り椅子の横を通りすぎ降りる。

ネルが揺り椅子に座ってたのは後で叱っておかないと。

アレは揺り椅子を玩具だと思っている節がある、遊具感覚だと危ないのだが。

降りきり、ふと思い立ち彼に声をかける。

「ああ、荷物はそこら辺に置いておいてくれると助かる。後でワシが下に持って降りるからーー」

...既に遅かった。

二つの段ボールをすこし辛そうな顔をしながら彼が持って降りてくる。

矢張り心根は優しいのだろう。

魔女を恨んでいるだけで。

「わざわざ有難うシス君、晩飯を作るから少し上で待っていておくれ。」

「...何か話すことがあるんじゃなかったのか」


成程、出来れば早く話を聞きたい、と言ったところだろう。

今まで魔女を毛嫌いしつつもわたしに出会った所為で少し気持ちがーーーー

否、彼の目は未だに瞳の奥に暗い感情を湛えている。

怨み、苛立ち、そこはかと無い悪意。

全て魔女に対するーーーその感情を感じる。

説明し忘れていたネルの事、そしてもう一度魔女の胎の中の様な家に入らざるを得なくなってしまったこと。

表面上は問題が無いように接してくれてはいるが、彼の奥底には朝と変わらず恨みの塊が根強くある。

...ああ、それでこそ、だ。

「何で出来ているか分からない魔女の作る飯を食う暇があるならとっとと自分のアパートに帰ってクソみてぇな番組見て眠りたいんだ、用事があるならとっととしてくれ。」

枕が変わると眠れないタイプだろうかなどと余計な事が頭をかすめる、違うのは分かっているのだが。


「なるほど、ではワシは飯の用意をしながらになるがーー」

キッチン台の後ろにある作業机の腰掛け椅子を引き摺り出し、彼に座るように促す。

「ーー今後の事に関して話そうと思う。」

そんなことは分かっていると言った顔で彼が椅子に座る。

わたしは普段おやつに用意している揚げたパスタと灰皿を彼の横に置いた。

後お茶も出すべきだろうか。

「シス君は珈琲と紅茶どっち派かのぅ。」

と聞いてやると頭をかきながら眠いから珈琲だと言ってくれた。

ミルを出して珈琲豆を挽き始める。

「さて、まず何から話したものかのぅ…」

なんだ、何も決めていなかったのか。などと彼が悪態を吐く、可愛いものだ。

「ふむ、では今後の犯人を捕まえる為の作戦についてからでいいかのぅ。」

彼は揚げパスタに手を伸ばしながら頷いた。

「結論から説明するなら、シス君を囮にした囮捜査じゃな。」


彼は咽せた。

「俺を囮にぃ!?別に誰でもいいだろお前でも!」

か弱い婦女子に囮役を頼むと言う事だろうか、否魔女になった時点でわたしはか弱く無いといえばか弱く無いか。


「理由は二つ。」

喚くシス君を見ながらゆっくりと諭すように声をかけてやる。


「一つ目は、ワシらは顔を見られた。どれがクラリス本人かは分からんが恐らく修道院の人間全員に一度は顔を見せておるじゃろう。」

「だが、それは無辜の一般人として見られたって事だろ?」

彼がすぐさま反論してくる。


「相手はその無辜の一般人を無差別に殺す相手じゃぞ?」

言葉に詰まっているのが見てわかる。

意外と脊髄反射で喋っているのが彼なのかもしれない。


「本人がワシらのことを見ていたのであれば次のターゲットはワシらにしておる可能性は高いじゃろうな。」

豆を挽き終えたのでフィルターを机の上から取り、ドリッパーとサーバーを棚から取り出しセットする。


「今お前が言ったみたいに無差別の可能性も十分にあるんじゃないか。」

挽いた粉を取り出すと引き立ての豆の香りが部屋に充満する。

その香りを堪能しながら彼の質問に答える為わたしは口を開いた。


「修道院は閉鎖的な空間じゃろう?故に外界とは隔たれている為無差別に襲っているに過ぎないとワシは仮定した。それにーー」

粉をいれ湯を注ぐわたしに、それに?と彼が聞き返す。

「もしワシの知っているクラリスと同一人物なのであれば今回の一件でワシらを襲うじゃろう、優しいし真面目じゃが少々ズボラな所がある子じゃったからのぅ。」

「優しい...ねぇ...」

オルガナで孤児院の経営の一端を担っていた彼女のままであればだが。

あの厄災の所為で運命を狂わされた魔女は少なくないーーどころか多すぎる。

あのノートの様子を見れば何かがあったのは聞かなくても分かる、だがそれでも人の根底は変わらない、と思う。


かく言うわたしだってその一人なのだから。


ーーーおっと、表情が暗くなっていたらしい。

顔を上げると彼が目をわたしから離していた。

…彼も優しい人間なのだろう。

「それでもう一つの理由なのじゃが、お主が探偵で圧殺事件を追っていると言う話をしておいた。」


一瞬口を半開きにした彼の顔色が赤く変わっていく。

何か、「お」とか「あ」とか母音ばかり喋っているのが非常に気になるが。

怒らせただろうか、怒らせただろうなぁ。

ワナワナと肩を震わせた彼の怒声が響くのに時間はかからなかった。


「お前なぁっ!!!」

机を叩きつけ、ブチ切れている彼を見る。

おぉ、怖い怖い。

まさに鬼の形相といったところだ。

「まぁまぁ、落ち着けシス君。よく考えるんじゃ、今回は別に捜査に押し入っていたわけじゃ無い訳じゃろ?ただの世間話程度じゃよ。今日は休日という事にしておいたしのぅ。」

「そういう問題じゃねぇだろうが!」

怒り心頭と言ったところだろう。落ち着きそうには見えそうにない。


「改めて落ち着けシス君、最後まで話を聞くんじゃ。」

怒りは治らないようだが、一応口は噤む。

話を聞いてくれる気はあるらしい。

「いいか、此れはお主に対するチャンスでもあるわけじゃがーーー」

「チャンス?俺は別に昇進したいわけじゃないーーー」

そう言ったところで彼がしまったと言う風な表情になる。

矢張りそうか、これで合点が行った。

彼が警察になった理由、矢張りあの夜の事を引き摺り続けているのだろう。



 「…ふむ、昇進以外の理由そして修道院での態度やワシを目の前にした時の態度ーー」

署長がわたしが彼を連れ出す前に話した、現在の彼の状況。

解っていた事を口にする。


「ーー矢張りお主、魔女を憎み、恨んでおるな。」


小狡いことだ、わたしも。

彼の拳が強く握られているのが見える。

恐らく、爪の跡が残るほどに強く。

「ああ、そうだ…バレてねぇとは思ってねぇよ。」

そう吐き出し始めた。

「なぁ、お前は100歳を超えるって自称してたな、それにボケてないとも。」

「…あぁ、確かにそう言ったのう。」

肯定する。

彼はわたしから、できる限り情報を聞き出したいのだろう。


「廃棄区画になっている旧ウェストサイド地区にあった孤児院を知っているか。」

わたしは頷く事で返答した。

当然知っている。

彼のいた孤児院だ。

「そうかーーお前は知ってるんだな。…俺に声をかける前に署長から俺のことでも聞いてたのか?」

そう言いながら彼は苦虫を噛み潰したかのような顔をする。

わたしは頷きも、首を横にも降らなかった。

彼の言っていた内容は正解でもあり、間違いでもあるからだ。

署長から話は聞いている。

だが、彼のことは19年前のあの夜から知っている。

何故なら、彼の事を救けるために窓ガラスから何から何までが鉄の塊になっていた孤児院を入れるようにしたのも、生存者である彼を見つけたのもわたしだからだ。

きっと彼はその事を話すと苦悩するだろう。

そして、苦悩に苦悩を重ねて最終的にわたしに協力を頼んでくるだろう。

最終的には、魔女に対する偏見を無くすのかもしれない。


ーーーーそれはとても、とても喜ばしい事だ。

魔女は人間と同じで、良い者も悪い者も存在する。

人を殺すような魔女はいわゆる犯罪者で有り、聖女と呼ばれるような弱者のために力を使ったアーシアのような存在もいる。

なんだったら昔居たという奇跡を起こしたとまことしやかに囁かれる聖人達もみんな魔女だったのかもしれない。

魔女は異能を使える事以外、考え方も、生活の仕方も、食事の内容も、普通の人間となんら変わらないのだから。


だが、わたしは言葉を紡がない。

これはーーーーわたしのエゴイズムだ。

「まぁ良い、お前のおかげで一つ整理できた。」

彼は勝手に納得した風だった。

そして、意を決したようにわたしを睨みつける。

「じゃぁ、19年前、俺が14歳の頃にそこで何があったのか知っているか。」

彼の目とその言葉の端々には憎悪が籠っていた。

19年煮詰めていたであろう魔女に対する純粋な憎悪が。

否ーー少し安堵が入っている…?

いや、そもそも何故そんな事を聞くのだろう。

何かを探っているーー?

「…知っている。」

「何をだ?」

間髪入れずに質問してくる。


「まどろっこしい事は抜きにしよう、シス君。何を聞きたいんじゃ。」

聞き漏らすか漏らさないか程度の小さな金属音がした。

カキキッと、鍋に沸かしているコンソメを入れた水の沸騰音のせいでほぼ聞こえないその音は恐らく銃の安全装置を外す音なのだろう。


「19年前に起こった事件の話だ、お前は何をどこまで知っている。」

そうか、彼に当時の記憶があるのだとすればわたしが犯人かもしれないと言う話に行き着くわけか。

クラリスのことに関しても嘘をつく、もしくは顔を変えることのできる魔女がいてもおかしくないと言う結論に達するのはおかしくない。

なんだったらわたし自身がクラリスや顔を変えられる魔女であるという可能性を捨て切れるものではない。

「動くな!」

煙草を取り出し口に咥えようとしたわたしの行動を彼は止める。

「お前がそのタバコで何をするのかわかったもんじゃないからな、そのタバコは捨ててもらおう。」

その右手には今日何度か見た警察支給の拳銃が握られている。

抜く手を見せぬ早技だった。

彼は相当優秀なのだろう、油断は微塵もありはしないようだ。

わたしは首を横に振りながら手からポトリと煙草を落とした。

「ふむ、そうじゃなぁ。答えてやってもいいが、お主まだ何かを隠しておるじゃろう。」

一瞬彼が歯を食いしばる。

「良いから、答えるのか答えないのかハッキリしろ。」

トリガーにかかる指に力が入るのが見える。

別に撃たれてやってもいいが、彼が何かに葛藤しているのは見ればわかる。

流石にこの調子の彼を嘲る趣味はない。

それに、わたしは構わないがネルがこれを見るといささか面倒なことになる。

わたしは一つ溜息をこぼす。

「孤児院とその中で起こった悲惨な事件に関してなら知っておるよ。

 で、何を聞きたいんじゃ?」

彼が口角をあげたが、すぐに一瞬ハッとした顔になり、左手で口元を隠しながら何かをぶつくさと呟いた。

聞き取る事はできないが、何か思い当たる節があるのだろう。




 「ーーーなんで知っている。」

なんで、と来たか。

さて、どう答えたものか。

彼はてっきり例の事件の犯人を探しているのだと思っていたが、これまでの質問の内容からそれと同時に何かを確かめたがっている節がある。

「ワシが、頼まれて内部の調査をしたからじゃよ。」

「違う!そうじゃねぇ!」

違う?

何が違う。


「なんでお前はその事件のことを覚えていられたんだ?」


…?

当然覚えているに決まっている。

この街でも殺人事件の一つや二つは起こるが、それを抜きにしてもあれは猟奇殺人の枠を超えた狂気の塊のような事件だった。

魔女が絡んでいることが間違いないのはあの惨状を見たことがあればわかる。

何が起きたのかは彼と当事者しか知らないだろう、それでもあの状況を見ればどのようなことが行われていたのかは想像に難く無い。

壁に花のように咲いた血、蕩けた鉄についた血、首が無くなっていたにも関わらず体に穴の空いた死体や腕が千切れかけた死体や、内臓が吐き出された死体が手を繋いで、見える顔は全て笑顔で輪になりながら倒れていたのだから。

見たことがあるなら、あんなものを忘れられる者がいる筈がない

「答えろ!なんでお前はその時のことを覚えている!」

ーーー複数の予想が頭の中で展開される。

可能性は無限にあるが、恐らく近いのは記憶がどうにかなっている。だろう。

あの事件の後、人格を守るために脳が記憶を消して、いつからか思い出してフラッシュバックで苦しんでいるとかだろうか。

…何はともあれ彼から話を聞かなくてはいけないが、落ち着かせないといけない。

興奮している今のままでは何を言っても聞かないだろう。

目を見ればわかる、あれは決めつけている者の目だ。

わたしがどう言い訳をしようと、例え本当のことを言おうとわたしを犯人として既に見ているのだろうから話を聞く気はないーーー故に仕方ない。

「ーーーシス君。」

わたしは出来る限りの笑顔をつくり、彼に笑いかける。

「すまんなーーー。」

まだ来ていたフロックコートの裾から取調室で蓄えておいた白煙を噴出する。一瞬で濃霧より濃い煙が地下室を満たした。

「ーーーな!?」

そのまま、煙の濃度を弄る。

「ーーーぁっーーーガァッ!」

何かがーー恐らく彼が崩れ落ちる音。

その音を聞き届けて2秒ーーもう一度フロックコートの中に煙を戻す。

煉瓦造りの床の上に彼が倒れている。

酸素の濃度を下げ一息で意識を混濁させた。

近づき、脈をとるーー。

目が虚ろだが、脈拍は動いている、後遺症にはならない程度に濃度はいじっていおいたはずだ。数分も経てばしっかりと覚醒するだろう。

その前に彼を取り敢えず縛っておかなくてはなるまい。

彼も警官なのだから恐らくはーーやはり持っていたか。

手錠と手錠の鍵、これを使ってとりあえずガス管にくっつけてしまおう。

強硬手段には出てしまったが、仕方ない…と言うことにしておこう。

わたしにとっては何かと好都合だ。

さて、彼が起きるまでは食事の準備と洒落込むとしよう。


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