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「やっぱ、違う方法で……」
「何故だ?」
「いやあ、それは、だな……」
正直に言いたくはない。しかしそうなるとティーガーⅡに説明出来る理由はない。
つまるところ、どうしようもないのである。
「何でもない。忘れてくれ」
「そうか」
ティーガーⅡはそう素っ気なく応えただけであった。
それと同時に戦車は動き出す。
外にいると、問題なのは騒音だ。車内はどういう訳か駆動音などが殆ど遮断され、まあ少し声を張るくらいで会話が出来るのだが、車外はかなりうるさい。
やはり何も撃たなくても走行しているだけで周囲には存在が知れてしまう。隠れるのに向いていないのは明らかだ。
などと考えていると、急に背中が押され、息が苦しくなった。ティーガーⅡが体を一回転させてきたのである。
こんな狭いところで体を動かすもんじゃないんだろう……
「うっ…… 何だ?」
「なあ、ライ。お前は本当に、私といるのが嫌じゃないのか?」
「嫌じゃないかって、急に言われてもな……」
唐突にそんなことを言われても、どう反応しようか迷う。と言うか、今更聞くことか? それ?
そこで俺はティーガーⅡの顔色でも窺おうと振り返ってみた訳だが、するとティーガーⅡの顔がすぐ下にあった。
そう、この至近距離、いやもうくっついて、ティーガーⅡがこちらに体を向けている。
その事実を認識すると、頬が少し熱を帯びてしまった。まあ俺がどんな顔をしていようと奴には見えないが。
「取り敢えず、この至近距離は嫌だ」
「な、そうなのか?」
「近い。近過ぎる」
あれ、これは上手い具合に今の状況を打破出来る好機なのでは?
「な、何故だ?」
「ああ、人間誰しもこれ以上近寄られたくない距離というのが存在するんだ。例えその相手が近しい人間でもな」
「なるほど。面白いな……」
面白くはないと思うが。それともアイギスにはそういう概念すらないのだろうか。
あと、それに加えて、こっちを向いているのも気になる。
「それと、何で急にこっちを向いたんだ?」
「こうした方が声が届き易いだろう?」
「ああ、確かに」
意外と普通の回答だった。何だか拍子抜けしてしまった。
「い、いや、そうじゃないんだ」
ティーガーⅡは早口に言った。
「何だ?」
「つまりだな……」
その時、正面から軽快な金属音が聞こえた。装甲を撃った時の音である。
「ライ、気付かれた!」
「ああ! そんくらい分かる!」
奴らは意外に目が良いらしい。方角から考えると例の橋からの攻撃。なかなかの距離から撃ってきやがった。
だが、俺の九九式は狙擊銃だ。遠距離は得意である。
「クソッ。どこだ……」
敵が見つからない。何事もなかったかのように歩いているアイギスはあるが、狙撃をしてくるような奴は見当たらないのだ。
そうこうしている間にも、ティーガーⅡの車体は銃弾を弾いた。
幸いなのは敵の腕が大したことないことか。
「ライ、敵を見つけるのは諦めろ。このまま橋を突っ切るぞ」
ティーガーⅡは言った。
「だ、だがな……」
このまま一方的に撃たれっぱなしというのは納得がいかん。
「狙撃手がいるのならそいつを直接殴りに行けばいいだろう」
「そ、そうだな。悪い」
俺としたことが、狙撃には狙撃で対抗してやろうと向きになっていたようだ。俺もティーガーⅡに文句は言えんな。
「全速力で突っ走ろう」
「ああ。行くぞ」
ティーガーⅡはどんどん加速していく。
「掃射を行う」
「了解だ」
まずはティーガーⅡの機銃で橋の入り口の敵を凪ぎ払う。この時点で敵には気付かれる。
また俺も九九式狙擊銃で加勢する。
「敵戦車、破壊する」
「おう」
恐らく入り口を守っていたと思われるアイギスの四足戦車も、ティーガーⅡの主砲の一撃で吹き飛んだ。
「このまま橋に入る」
「ここからが本番だな」
「ああ。皆殺しにしてくれる」
「お、おう」
ティーガーⅡは大きな弧を描きながら橋への一直線に進路を定めた。そして躊躇なく突撃していく。
「撃つぞ!」
「ああ!」
橋に入るやティーガーⅡの主砲が轟き、奥にいた戦車を橋から叩き落とした。
同時に俺と少女の方のティーガーⅡは眼下の歩兵に狙いを定める。
ティーガーⅡの突撃銃は、やはりこういう時には便利である。
引き金を引けば勝手に弾をばらまけるのは羨ましい。
しかもその一発一発がアイギスを破壊出来るのだ。人類が皆あれを持っていたら戦争には容易に勝てるだろう。
他方、俺は一発一発手動で装填だ。すぐそこのアイギスに外すことはないが、こう、何と言うか、爽快感が欲しいのだ。
「次弾、撃つ」
「了解」
主砲はそう連発出来ないようだ。だがその一撃はあらゆるものを破壊する死の一撃である。
「うっ」
耳のすぐ横を弾が掠めた。
直ちにそれを撃ったと思われる奴を撃ち殺す。
「大丈夫か?」
「ああ。何ともないさ」
「それと、私も機銃掃射に移行する」
「おう。頼んだ」
気付いたら敵の戦車は悉く破壊されていた。
俺達に機関銃が加われば、もう歩兵など恐るるに足らずである。




