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1-8.5-2

「と、こんな感じのことがあったんだが、君はどう思う?」


 会議を終わらせた後、私は、無口な少女、M26パーシングに尋ねた。


「マウスと言いましたが、それは本当ですか? 本当に、あれが確認されたのですか?」


 M26は酷く焦っているようだった。これはただ事ではない。


「ああ。そのように報告を受けている」


「もし本当ならば、人間が御せる兵器ではないかと。そして恐らくは、ドーリットル基地の破壊もなしとげるでしょう」


「つまりは、どうするべきと?」


「本州に渡るのに、船を使う筈です。それを撃沈するのはいかがでしょうか」


 確かに、アイギスは泳げない。海に沈めてしまえば永遠に無力化出来る。


 しかしそれは、それと同時にティーガーⅡとパンターを失うことを意味している。


「ティーガーⅡとパンターなら、処分も可能だし、人類にとって有益な戦力たり得るのだろう?」


「はい」


「それごと沈めてしまうのは、割に合わない気がするが」


「それは……」


 M26は明確な答えを導けなかった。つまり、その両者はおおよそ同程度の価値と言う訳か。


「ティーガーⅡとパンターは取り込みつつ、マウスだけを排除する方法。それを考えればよいのだろう?」


「はい。その通りです」


「ならば、仕方ない……」


 ため息を吐いて、私は、私の持つ最強の手札を切ることを決めた。


 M26の目、欠落した左目と右目を見つめた。


「君を、日本に送ることとしよう。君ならば、何とか出来るのだろう?」


「私とて、あれには至近距離にまで接近しないとどうにもなりません。しかし、実際に戦闘となったら、接近など出来るか……」


 この子が自信を失っている。そんなにも危険な相手なのか。


 だが、手をこまねいている訳にはいかない。


「Waffen-SS(武裝親衞隊)から人を出そう。有事の際には、彼らと協力し、事態に対処してくれ」


「囮にして、ではなく?」


「さあな」


 まあ、その通りだ。親衞隊を囮とすればM26にも勝機はある筈。事実、その戦術で氷室中佐は勝利を得たのだ。


「それと、他からの増援は頼めないのですか? SOMUA(ソミュア)や三式などは、動けないのですか?」


「ソミュアは廣島で手一杯で無理だ。三式は、鈴木大将に掛け合ってはみるが……」


「掛け合う? 陛下は全人類で唯一の主権者ではなかったのですか?」


「まあ、それはそうなのだが、そのようなことは断じて出来ない」


 どうして人類が民主政を永遠に放棄し、皇帝に全ての権限を預けたのか。


 それは、最大多数の最大幸福を実行出来るのが独裁しかなかったからである。つまり、あくまで皇帝は、全ての臣民の利益の為の公僕でなくてはならない。


 よって、皇帝が古代の暴君のように振る舞い、善良な臣民の利益を損ねるようなことはあってはならないのである。


「これは帝國の利益の為で、その為には日本軍の利益を損ねることは許されるのではないのですか?」


「割に合わない。加えて、必ずしもマウスが敵であると決まった訳ではない」


 M26はマウスをどうしても排除したいようだが、こちらにはマウスを味方として引き入れると言う選択肢もある。


「分かりました。私の見当違いであったようです」


「それでいい。だが、君に日本に行ってもらうのは決まりだ」


「最悪の場合、私は死にますが」


「君が死ぬなどあり得るのか?」


「ふふ。いいえ。私は死にませんよ」


 M26は不気味な笑みを浮かべた。実際私も、まさか彼女が死ぬとは思っていない。


「そうそう、ところで、例の民主主義団体について、新しい報告があったのだが、聞いているか?」


「いいえ。得には」


「どうも、奴らはアイギスと連絡を取り合っているらしい。人類に対する重大な背信行為だ」


「アイギスと? 一体何が目的なのですか?」


「そこまでは分からん。ただ、そう言う事実があるだけだ」


 現下の秩序を破壊し、自分たちだけに都合のよい民主主義政権の樹立を本当に狙っているのなら、アイギスもまた妥当すべき敵の筈だ。


 実際、内地でのテロは多々あれど、前線では全くない。それは、アイギスとの戦争での敗北自体は彼らも望んでいないと、そう解釈されてきた。


 故に、アイギスと連絡を取る意味などない筈なのだ。


「一つ、考えられるとすれば、奴らは本当は、人類の敗北を望んでいるのではないでしょうか?」


「そう考えた理由は?」


「アイギスに内通し、人類が敗戦した後、人類の自治を預かり、権力を握る。それが狙いではないかと」


「私もそうは考えた。だが、奴らの指導者がそこまでろくでもない奴だとは、思いたくないのだ」


 それはつまり、民主主義団体の指導者が実は民主主義などには興味がなく、自らが権力を握る為に浮浪者の群れを操っていると言うことになる。


 そこまで悪魔的な人間は、嫌いだ。


「しかし、古今東西の民主主義者など、大抵はそのようなものです。民主主義の名の下に自分が権力を握りたいだけですよ」


「政治的信条もないのにその名を騙る人間が、私は嫌いなのだ。まあ、いずれにせよ、奴らを壊滅することに変わりはないがな」


 奴らの正体など考えないようにしよう。ただ、皆殺しにすればよい。

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