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1-8.5-1

「例のアインザッツグルッペンですが、μύθος(ミュトス)を3体も率いているなど、余りに危険です」


 Guderian(グデーリアン)参謀総長は言った。


 ここは参謀本部。普段皇帝たる私が参加することはないが、政治的な判断も必要とのことで、ここに招聘されている。


「月並みですが、即刻、これらを別の場所に分けることを提案します」


「或いは排除するしか……」


「少しは落ち着きたまえ、諸君。参謀ともあろう者がこれでは、帝國は滅ぶぞ」


 確かにミュトスを一ヶ所に集中させるのは好ましくない。いや、それどころではなく、帝國にとって火急の脅威だ。


 帝國はこれまでミュトスが同じ場所に固まることを許してこなかった。しかし今正にそれが起こってしまっている。


 だが、それであわてふためいているようでは、軍人は務まらん。


「はっ。失礼を致しました、陛下」


「うむ。まずは状況を整理しようか」


 すると参謀総長は直々に説明をしてくれた。


「はっ。現下、氷室中佐の下にあるミュトスは3体。TigerⅡ(ティーガーⅡ)Panther(パンター)Maus(マウス)と識別される個体です。これらは全て、全てのミュトスの中でも高い戦闘能力を持っている部類に入ります」


 いずれも第二次世界大戦で連合国の馬鹿共を震撼させた戦車だ。単独であってすら、人類の兵器では太刀打ち出来ない。


「管理状況としましては、マウスはその内部に爆弾を設置し、いつでも破壊出来る措置をしているとのことですが、他は野放しの状況です」


「つまりは、少なくとも2体が同時に反旗を翻す可能性はあるのだな」


「はっ。その通りです」


「山本少将では、抑えられないだろうな」


 山本少将、大アジアクライスのミュトスを管理している最高責任者である。


 とは言え、その旗下にあるミュトスは3体。それも直轄であって即座に動かせるのは1体のみ。しかもその能力はことごとくドイツの戦車に負けている。


「はい。陛下の仰せの通り、大アジアの兵力ではどうしようも……」


「困ったことだ」


「この際は、核で全て殺すと言うのは……」


「馬鹿を言え。大日本帝國の本土で核を使うなど、許される訳がないだろう」


 大日本帝國は帝國の中でも高い立場にある。


 帝國成立の経緯と、世界で唯一皇帝に比肩する権威を持った天皇の存在が、主な要因だ。


 まあ北アメリカだったら検討しないこともなかったが、日本でそれは断じて許されない。


「しかし、やはり皆は、奴らを排除しておきたいのか?」


「それが、大半の意見かと」


「ふむ……」


 グデーリアン参謀総長が言うのなら、そうなのだろう。


 しかし通常戦力で彼女らを排除するのは不可能に近い。


 では発想を転回させてみよう。何も人類が手を下す必要はどこにもないと。


「確か、九州にはΑιγίς(アイギス)の大きめの前線基地があったな?」


「はい。Doolittle(ドーリットル)Nest(ネスト)があります」


 九州と本州の繋ぎ目、下関海峡の九州側に、本州侵攻に備えた物資の集積地がある。それが人類の呼称するところのドーリットル・ネストだ。


 因みに、世界には他にも複数のネストがあり、人類に大罪を犯した罪人の名が付けられている。


 ネストなどという名前をつけたのは、アイギスが高度な知的生命体と認めたくない人類のエゴである。


 最大級のものでは、モスクワのルーズベルト・ネスト、南京のトルーマン・ネストなどがある。


「ええと、それが、どうかなされましたか?」


「簡単なことだ。氷室中佐の部隊に、ドーリットル・ネストを叩かせればよい」


「しかし、ネストを破壊したとしてもアイギスはすぐに勢いを盛り返すと言うのは、とうに知られたことでありますが……」


「違うぞ、参謀総長。目的は、ティーガーⅡかパンターかマウスに死んでもらうことだ。それが諸君の目的なのだろう?」


「なるほど。しかし、失敗すれば、いかが致しましょうか」


「それはそれで、防衛線の建て直しの余裕が生まれるのだから、喜ばしいことだ」


「ミュトス達については……」


「まず、彼女らがそれを為した時点で、人類への忠誠心はある程度は信用出来る。それが続いているうちに、彼女らを分割すればよかろう」


「な、なるほど。陛下の慧眼には恐れ入ります」


 失敗しようが成功しようが、人類にとっては得しかない。我ながらよい策を思い付いたものだ。


「へ、陛下、恐れながら、氷室中佐ら人間の命が、余りにも危険ではありませんか?」


「人間の命?」


 何を言うかと思えば、実に下らない質問だ。


「今更、たかが数百の兵士の命がどうしたと言うのだ? 我々は独立不羈の人類を守らんが為、最後の一兵になるまで戦うと誓ったものだ。違うか?」


「ち、違いません。失礼しました」


「宜しい」


 氷室中佐には、まあ死んでもらうこととなるだろう。だが悲しむことはない。アインザッツグルッペンなら代わりはいる。


 大義の為だ。臣民の命など、その前には銃弾よりも軽い。


「ああ、それと、一応は3体のミュトスの来訪に対しての備えも忘れないでおけ」


「はっ」


 氷室中佐やアインザッツグルッペンの隊員が死んでも、ミュトスだけが生き残る公算はまあまあ高い。


 備えておくのは悪いことではなかろう。

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