48 商品価値が大暴騰
「そうなるとハマーム様へのご対応は、本当に頭が痛そうですね」
「それだけではありません。ユーリ様には、他にもご縁を望まれるお相手が増えるでしょうから」
「サフィール様の影響力は本当にすごいですね」
「ええ。かつてサフィルネと同じくザーブ帝国領であった西のソフィアやレンツァは、何代かごとに御当家から力のあるうちに退位をされたサフィール様をお迎えして、宝石の産地として栄えてきました。向こうも間違いなく食指を伸ばしてくるでしょう」
「ユーリ様は引く手あまたと言うことてすか」
「他人事のように言ってますが、それもすべてケントさんのお蔭ですよ?」
「僕は何もしてません」
ユーリお嬢様のモテ期到来か、なんて茶化しそうになるけど、俺的には褒められられる理由もないし困っちゃうよね。
ロッドの件は、お二人の御息女様に涙交じりでえらく怒られた記憶の方が強いし、思いつきと気まぐれでやっただけだ。
そんな俺の気も知らず、侍女さんはしみじみと仰った。
「やはり似ています」
「何がですか?」
「ケントさんが伝説のユージーンにです。彼の口癖は、何も出来ていない何もしていない、だったそうです」
「いやいや、その方は人間離れしたことをしまくってるでしょう!? 僕と一緒にしてもらっては困りますっ」
「でもマルセルやユーリ様の方が、私などよりもきっとそう思っていますよ? 剣のことになると目が異常に輝くヘラヘラ男と、かつて陥落しかけたこの塔の今の主ですから」
「あははは、そ、それはないです!!」
・・・・・・勘弁してくれ。
大きな声では言えないが、イリスお嬢様を利用してこのお屋敷から逃げ出そうとした俺だぞ?
国の危難を救った英雄様と似ているなんて言ったら、間違いなくそのお方が怒ってくるだろう。
まだ変態ロッド使いと呼ばれる方が俺には向いている・・・・・・なりたいと言ってるわけじゃないぞ?
この世界では、命を大切にして生きいこうと考えている、それだけだ。
「ケントさんがどのように思われようと、ハマーム様も意識されているようですし、ご領主様もケントさんもこれからが大変ですね」
「今度は若様? 何で?」
「ユーリ様の商品価値を暴騰させて、縁談条件を白紙へ戻したのが誰なのか忘れたのですか?」
「ああ、だからさっき睨まれていたのですね」
「気づかれていましたか?」
「それはまあ。パン屋で応対した時はすこぶる上機嫌だったのに、急にあれではね」
「ソフィアやレンツァに負けない条件を、出さなくてはならなくなったので仕方ないでしょう」
それは相当高くつくんだろうな。
ならその暴騰への寄与分として、一割ほどもらえないかな。
それを退職金代わりにお屋敷を去って、新たな俺だけの店を持つ。
なかなかいい計画の気がするぞ。
どうせなら、お嬢様の商品価値を更に暴騰させてやろうか。
幸か不幸か、誰のせいかは言わないけど、大切なロッドがこんなにもひん曲がってしまっているので、新しく作ってみるのも面白そうだ。
こんなことなら小百合をバカにせず、俺もあのダウジング番組をもっと真剣に見ておけばよかった。
あやふやな記憶だけど、この針金型ではなくてペンダント型の振り子のようなものもあったはずだ。
あれの作り方が分かれば、お嬢様の付加価値を上げられるんじゃないか?
常時身に着けていても不自然ではないし、何と言ってもダウジングをする姿に女性らしい気品が漂いそうだ―――多分。
この針金型の暴走ぶりも、ある特定部分の女性らしさ非常に強調してくれるが、利用されるご本人には毛嫌いされているし、俺の評判もここだけは大暴落だ。
・・・・・・野郎共の人気は間違いなく大暴騰だろうけど。
「ハマーム様は、ちょくちょくお顔を出されるでしょうから、あまり角を付き合わさずに、上手にあしらってください。根はとてもいい方ですから」
「それはよく分かっていますよ」
なんたってパン全種類、丸ごと大人買いだからな。
店としてはお嬢様より上客だから大切にしたいが、相手が俺を警戒していては何ともならない。
まずはお友達から始めてみるか。
どこかのお嬢様みたいにパンで釣れればいいけど、それはないな。
そしてミネバさんは、用事があると言ってお嬢様の帰りを待たずに部屋を去って行かれた。
・・・・・・本当に侍女の仕事をしなくていいんだ。
その雄姿に力を得た俺も、指南役なんてよく分からない役目だから、大手を振って家へと帰ってやった。
その数日後、ユーリお嬢様のご縁談と再発掘がほぼ同時に中止となった。
縁談の方はミネバさんに聞いた通り、他領主からも強力な横槍が入ったらしい。
再発掘の方は、サフィールロッドが使い物にならないとどうしようもないことと、少し時間が経ったせいで煽られて話に乗った欲深さん達が、少し冷静に判断ができるようになったからとのことだ。
逃げることを考えたり、さっさと帰るだけの俺と違ってほんと頼りになるな、侍女さんも執事さんも。




