45 相棒って
「実はケントさんに用があって来たのに、先にイリス様がおられて邪魔だったので、追い払ういい方法がないかと考えたのですが、思ったより上手く行きました」
イリスお嬢様は、今後絶対俺には近寄って来ないだろう。
サフィールロッドに食指を伸ばすことも暫くはないだろう。
完全にマルセルさんの目論見通りだろうが、ロッド磨きの変態下男と烙印を押された俺へのフォローはないのか?
「バッチリ磨いた甲斐がありましたね」
「・・・・・・全然目的とは違いますが」
「いいえ、イリス様でさえあれだけの力を引き出せたのです。ユーリお嬢様だとどれほどになるか、今から試すのがとても楽しみです」
・・・・・・この人、見に行ってたのか。
羨ましい―――じゃない、相変わらず抜け目ないな。
「しかし喜んでばかりはいられません。それに関係しそうなところで気になることがあったので、わざわざケントさんが一人になるのを見計らって来たのですから」
マルセルさんは、俺の隣に腰を下ろしてゆっくりと話し出された。
少し前に裏山で発見したサファイアには、やはり裏があったらしい。
あれは鉱夫のへそくりなんかじゃなくて、別の穴で掘られたものがこっそり置かれていたらしいのだ。
どうして分かったかと言えば、入れられていた袋が、他の穴で今でも採取に使われているものと同じだったらしい。
そしてあれだけ袋が汚れていると言うことは、何度も同じ様にされてきた証拠に他ならない。
つまり日常的に横領がなされていて、指示をした者が悪事から目を逸らせようとして、あたかもお嬢様が見つけたところはまだサファイアが出ることに仕立て、再発掘を企図したとのことだ。
もし出なくても、お嬢様が見つけたのが最後だった、やはり廃穴だったとすれば済むと打算の上の行動だ。
逆に言えばお嬢様があんなものを見つけなければ、廃穴の再発掘なんて余計なことをしなかったとさえ話を持って行く二段構えを築いてるらしい。
「何て卑劣な!!」
「本当に困ったことです」
「再発掘を止められないのですか? 誰ですか!! そんなことを企んでいるのは!?」
あの場所でサファイアを見つけて喜んでいたユーリお嬢様とマルセルさんを見ていた俺は、心底怒りを覚えた。
「それはまだ何とも―――こんな時は衛兵隊でなくなったことを少しだけ後悔しますね」
「マルセルさん・・・・・・」
「いや、ユーリお嬢様のお側にいるからそう思えるのであって、衛兵隊を辞めなければお嬢様の側に来ることも無かった。お嬢様も衛兵隊の権限もとは、私も欲深くなったものです。しかし再発掘には人手も物資も準備をしていますし、余程のことがなければ今更とても止めるのは無理でしょう」
そこで俺はふと思った。
「―――どんな場合でもユーリお嬢様がおられなければ、鉱脈探索は無理ですよね?」
「そうなりますが、何か?」
「だったらロッドが今は使い物にならないって言えばどうですか?」
「それは―――」
「こう言うことです」
マルセルさんが言葉を終える前に、俺は手元の針金を思いっきり曲げてやった。
「ケ、ケントさん!?」
「イリスお嬢様が使って返した物が、こうなっていたことにすればどうでしょう?」
「・・・・・・結構性悪ですね、ケントさん。ふふふ、だからあなたは私の相棒なのですよ」
あなたの根性の悪さには絶対負けます。
しかし相棒?
何時の間に?
嬉しそうなマルセルさんと、全然嬉しくない俺。
でもさっきのイリスお嬢様と取り巻きには結構カチンときていたので、今回は遠慮なく利用させてもらう。
そこで俺はこの計画の根本に関わる点を確認した。
「一つ気になるのは、ご領主様が本気になれば、ロッドを鍛冶屋に出そうとしませんか?」
「それはないでしょう」
「どうしてですか?」
「鍛冶屋も自分が直したロッドが、これまでより反応が悪くなってしまったなんてのは困ると言う話ですよ。これは完全な一点もので、他に例がないせいで扱い方が分からないのです」
図らずも俺の考えに近かったわけで、だから全然メンテナンスがされていなかったのだ。
それを俺がお手軽に直したってのは―――やっぱりマズいよな?
俺の心を読んだらしいマルセルさんが、益々ニコニコ顔だ。
ほんと意地悪。
「今回はイリスお嬢様が良いことをしてくださったので、ここからは私が何とかしますよ。ではお呼びのようでしたから行って来ます」
「あ、はい」
「ケントさんは、ロッドを適当なタイミングで直しておいてください」
ヒラヒラと手を振って去って行く執事さんの後ろ姿に、大切なことを聞くのを忘れていたのを俺が思い出すのは、もう少し後のことである。




