44 新たな被害者
最初は記憶喪失を隠れ蓑にして俺自身の転生のハンデを誤魔化してきたが、どうやら最近は何とかなりそうな気がしている。
特に俺のパンは、こちらでも十分通用することが分かってきた。
色々迷惑も掛けたお屋敷を俺から去るのは気が引けるが、辞めさせられるのであれば話は別だ。
折角転生で拾った命、好き好んで危険な場所に居る必要がどこにある?
再発掘やらどこぞの若様のご登場やら、どうも最近はきな臭い気がする。
だがこれならば大手を振って出て行ける。
まさに渡りに船だ。
「ほ、本当にいいのね!?」
「どうぞどうぞ」
「お嬢様、やはりこの者も少しおかしいのでは?」
「きっと強がっているだけよ。もう少し脅かせばボロが出るわ」
俺は取り巻きの言葉に少し引っ掛かったが、纏まりそうな話の邪魔はしない。
しかし本人を目の前にして丸聞こえなんだけど。
言って良いのかな、強がってもいないし、本当に大歓迎って。
だが俺の微かな望みは、予想通りに脆くも打ち砕かれてしまった。
「まったくこんな隅っこで何をやってるのですか?」
「マ、マルセルっ!?」
イリスお嬢様と取り巻きさんの背後に、いつの間にかニコニコ顔の執事さんが顔をのぞかせていたのだ。
どこまでも鋭いと言うか、本当に抜け目がないとしか言いようがない。
「イリス様、ユーリ様の大切な指南役を誘惑しないでください」
「誘惑なんてしてません!!」
そうです逆です、クビきりですよ。
余計なことは口にしないけど。
「しかしケントさんが指南役らしくみっちり調教―――ではなく調整したロッドに興味がおありとは、イリス様も意外と隅に置けませんね」
「ちょ、調教ですって?」
今俺が居るのは本当に隅っこだけど、わざと言葉を間違うのは止めて欲しいなあ。
「それを握ってしまわれますと大変なことになりますよ? お覚悟がおありでしたら私も止めはいたしませんが」
ニコニコ目がなくなったマルセルさん
あー、これはかなり怖いな。
「そ、そんな脅しに、わ、わたくしが怯むとでも、お、思って!?」
十分ブルってるよ、イリスお嬢様。
でもおれもチビりそうだから、一緒一緒、大丈夫。
いや大丈夫じゃないな。
「でしたら噴水広場で試されたらどうですか? 最近、ユーリお嬢様がロッドの感度調整でお使いの場所です。そう言えば、私が埋めたサファイアのイヤリングをまだお見つけではなかったはずです」
「そ、それを見つけられれば、わたくしの方が優れたサフィールの杖の使い手よね!」
「言い切るのはどうかと思いますが、言えなくもないですかね」
「だ、だったら行くわ! ロッドをお貸しなさい!!」
そっか、俺の知らないところで使っていたのか。
勝手に尻に敷いて曲げたとか思って悪かったかな。
しかし噴水広場では絶対ありえない。
相変わらずこの人、何を企んでいるんだ?
本当にいいのか?
さっきからずっと磨いてたから、無茶苦茶感度が上がってるはずだぞ?
イリスお嬢様は、サフィール試験でユーリお嬢様と最後まで争ったお方なので、ダウジングの才能は十分あるはずだ。
俺は一応確認の意味でマルセルさんの顔を見た。
「大丈夫です。ロッドをお貸ししたことは私の方からユーリお嬢様へお伝えしますから」
「はあ、じゃあ・・・・・・」
俺が少しだけ躊躇いながら差し出した手から勢いよくロッドを奪い取ると、イリスお嬢様御一行はさっさと武器庫から姿を消され、マルセルさんもいつもより明らかにニコニコ顔で出て行かれた。
―――数分後、けたたましい悲鳴とともに、涙を浮かべて真っ赤なお顔のイリスお嬢様が帰って来た。
取り巻きのヤロウ共も、とある場所を抑えて真っ赤な顔をしていることは無視しよう。
「こ、こんな―――か、返すわよっ!!!」
「おっと」
思いっきり投げ返されたのを俺は慌ててキャッチした。
やっぱり口にするのも恥ずかしいらしい。
取り巻き共の様子だけでも、どれほど感度が上がったのかは想像がつく。
それに大きな声では言えないが、ロッドが結構ひん曲がっているのだ。
だけどユーリお嬢様に同じことやってくれなんて死んでも言えない。
・・・・・・俺も見に行けばよかったかな?
「マ、マルセルはどこよっ!?」
「多分、ユーリお嬢様のところかと―――」
「ではしっかり伝えておきなさい!! 絶対許さないからって!!!」
いやー、理不尽な言い草だわー。
・・・・・・待てよ、俺のクビは何処へ行った?
しかしこの状況で口にする勇気はないな。
どんな面倒な話に発展するか分かったもんじゃない。
「承知致しました。ユーリお嬢様の大切なロッドを曲げた上に投げてお返しになられてから、真っ赤な顔で仰られた、と伝えます」
「よ、余計なことは言わなくていいのよ!! と、とにかくわたくしのところへ一度顔を出すように伝えなさい!!」
しっかり伝えろって言うから描写までつけたのに、やっぱ理不尽だわー。
そして言うだけ言って勝手にプリプリと去って行かれた。
「行きましたか?」
「マルセルさん―――居たのなら出てきてくださいよ」
「だってかわいいじゃないですか」
武器庫の扉から顔をのぞかせる執事さん。
今に始まったことではないけど、受け答えが相変わらずおかしい。




