40 裏山にあるものは その3
「ケント、このあたりを掘ってみて」
言われるままに、俺は担いできたツルハシを慎重に地面へ入れたのだが、考えていた固い感触ではなかった。
そのため更に慎重を期して掘り起こしてみると、すっかり汚れてしまっているが、元は白かったと思われる布袋が出てきた。
「確認します」
マルセルさんが素早く拾って袋の口を開くと、中には大きなもので拳大、小さなもので小指の爪ほどの、蒼い光を放つ縞が混じった石がかなりの数入っていた。
「お嬢様、お見事です。間違いなくサファイアの原石のようですが、鉱脈でもなんでもない場所とこの状態からすると、鉱夫達がくすねたものをそのまま忘れてしまったか、立ち入り禁止になって持ち出し損ねたかと思われます」
「鉱脈ではなかったのは残念だけど、わざわざ坑道に入って収穫があったのだから十分よね」
「はい。お嬢様のロッドが探し出したことには間違いございません―――本当におめでとうございます・・・・・・」
深々とマルセルさんが頭を下げ、しばらく顔を上げなかったことが、とても印象的だった。
それほどまでに待ち望んでいたことだったのだろう。
そして執事さんは、俺に向かっても頭を下げた。
「ケントさん、本当にありがとうございました」
「え、いや、それはまあ、良かったです」
かなり調子が狂ったのでおかしな返事になってしまい、顔を上げたマルセルさんが笑っていたので、俺も一緒になって笑った。
思わぬ和気藹々とした雰囲気の中、坑道へと戻ったお嬢様が再びサファイアの気を感知して同じような穴を見つけると、最終的に四つの袋を手に入れることとなった。
サフィール様としては鼻高々だったが、さすがに三つ目、四つ目になると、執事さんの顔色が冴えなくなっている。
侍女様は特に何も言わず、俺もおかしいとは感じたが、口にはしなかった。
「これだけあれば十分よね。そろそろ出ましょうか」
「お待ちください、お嬢様。これらはどうされますか?」
満足げなユーリお嬢様を呼び止めた執事さんは、とても困った表情をしていた。
「そうね、正直にお父様へお伝えすればいいのではないかしら。鉱脈を見つけたわけでもないから、あまり偉そうにはできないけれど」
「そうかもしれませんが―――無理を承知でお尋ねします。これらを置いていくことはできませんでしょうか?」
「どうして? これがあればサフィールの証明になるし、さっきもあれだけ喜んでくれたじゃない?」
マルセルさんの申し出に、お嬢様は蒼い眼を大きく開いて驚きを隠せないようだった。
「杞憂で済めばよいのですが、再びここを掘ろうとの機運が高まりそうで―――」
「そこまで愚かではないでしょう? だって本当に何もないわよ」
呆れたようなお嬢様の口振りに、考え込んだマルセルさんが大きく頷いた。
「―――そうですね、分かりました。では戦利品を掲げて凱旋しましょう!」
「じゃあ、帰る準備をお願いね、ケント!」
結局荷物当番は俺だけなのだが、帰りはロッドフリフリがなかったので、行きの半分も時間は掛からなかった。
そして執事さんの悪い予感は当たってしまった。
お嬢様が、ご領主の父君ヘサファイアを見せたニ日後の朝―――。
俺がお務めに出ると、全然嬉しくないことに、扉を開けたそこには怒り狂ったお嬢様がいた。
「ほんとバッカじゃないの!!」
「人とは欲深いものです。あの量をお嬢様が見つけられたのは、まだ鉱脈が残っていると勘繰らせるに十分だったと言うことでしょう」
「どうしようもない人が居るのよ!! マルセルの言ったとおり、置いてくるべきだったわ!」
「―――申し訳ございません。私がもう少し気をお遣いすれば良かったのですが」
「もうその辺りでどうですか? ケントさんも来られたことですし」
一番冷静そうな侍女様が、俺の存在に気づいてくれて、悲憤慷慨するニ人を諭された。
だがマルセルさんの無念は良く分かる。
喜ぶお嬢様の気持ちと自身の危惧を量りにかけて、結果的に強欲共から、大切なお嬢様と自分の顔に泥を塗られた形だ。
これは相当怒っているだろう。
しかしマルセルさんの読み自体は正確だったということだ。
判断のもとになる様々な情報がかなり蓄えられているのだろう。
色々聞きたいところだが、今はあまり近づきたくないし、できるだけ刺激をしないようにしよう。
俺が、黙り込んだマルセルさんの様子を窺うと、窓の外を見遣るその背中が無念を表すかのように小刻みに震えていた。




