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4 俺のこと

 おかしな言い方だが、俺が俺のことで分かったのは以下のとおりだ。

 名前はケント。

 この大きくなさそうな町に住むパン屋らしい。

 ついさっき案内役の女の子の容姿を見て驚いたが、俺も実は金髪青目になっていた。

 家族は少なくとも、ドジかもしれない兄貴がいるようだ。

 その兄貴がケガをした代わりに、何故か命懸けの競技会に出ている。

 明日は剣の試合に参加する。


 かなり突っ込みどころ満載な状況だが事実だ。


 更に体を動かして感じたことがある。

 年齢は、きっと元の俺とほぼ同じ十代後半。

 パン屋を手伝っているので体力、それも腕力はかなりありそう。

 やっぱりパン屋なので、剣も槍も馬にも慣れてはいなさそう。

 視界が妙に明るいのは、多分青目になったからだと思う。


 俺自身についてはこんな感じだ。

 そして今一番厄介と感じていることの整理を始める。


 宿へ来るまでの感じでは、この世界の俺は顔が少しは売れているようだ。

 本当に困った。

 元の世界の話だが、年齢の割にとても多くの人と接触しなければならない環境に置かれていた俺は、関わったすべての人の顔を覚えてきたわけではない。

 相手は当然覚えていると信じて話し掛けているのに、俺が名前を聞き直した時の悲しそうな、うらめしそうな顔を何度も申し訳なく感じながら過ごして来た。


 しかしここの俺はパン屋、つまり客商売だ。

 そんな失礼なことは許されない。

 会ったこともない兄貴がケガをしているのは、きっと売上にも響いているだろう。

 そこへ、本当はしたくないのに間違いなくやってしまう、俺の『あなた誰ですか』攻撃。

 ・・・・・・見ず知らずのお店に、とんでもない悪評と損害を与える可能性がある。


 俺は頭を抱えて眠れない夜を過ごした。

 剣の試合?

 そんなの知ったこっちゃねえよ。


 翌朝、俺は逃げたい気持ちを抑えて準備を済ませると、重い足取りで再び闘技場へ向かった。

 昨日の控室へ行くと、案内役の女の子が同じように首から下げた板の上に置かれた紙で、忙しそうに参加者のチェックをしている。

 部屋はすっかりムサい甲冑武者達で埋め尽くされていた。

 人が少ないと昨日のように、俺を目掛けて話をしに来る奴がいるかもしれないのを警戒して少し遅めに来たのだが、これほど早くみんなが集まっているとは予想外だった。

 そんなに楽しみなのか?


「三、三十二番、け、ケントさん。まず剣を見せてください」

 例の女の子が、少し顔を横へ向けながら差し出した手に、俺は腰の剣を少し手間取りながら外して渡した。

 あちゃー、まだ避けられてるわ。


「大きさは規定どおり。刃挽きは―――されていますね」

「昨日も使いましたよ」

「と、取り替えることもできますから」

「え? じゃあ今からは!?」

「む、無理です」


 し、しまった-っ!

 できればもう少し使いやすい剣に替えたかったのだが、俺はその機会を逃してしまったようだ。


「で、でも、け、ケントさんは、いえ、もともとエントリーされていたジノさんは、最初から一本しか登録されていませんし、替えはないはずですよ?」

「あ、そうですか」


 だったら最初から言うなよ、説明が決まり文句なのだろうけど。

 しかしこの女の子は、剣を見ている時は普通だが、俺へ視線を向けた途端、とても戸惑っているようだ。

 これ以上困らせても申し訳ないし、俺のボロも出そうなので、余計なことはしゃべらないようにしよう。


「チェックは終わりましたので、お、お返します」

「どうも」

「し、試合は第五試合です。それまでこの控室から、う、動かないようにしてください」

 当然のことと思った俺が黙って頷くと、女の子は他の参加者の所へと向かった。


 適当に空いた椅子に腰を掛けていると、やけにガンを飛ばす奴が正面に座っている。

 情報漏えい防止のためか、女の子は試合の相手までは教えてくれなかった。

 早くに来て耳をそば立てていれば、彼女の伝える試合順で分かってしまうのだが。

 しかし分かったからと言って、俺はここにいる人間を誰も知らないので、心構えも準備もやりようがない。

 俺がチェックを受けた後から来る奴来る奴、どうみても猛者っぽいガタイの大きな男や、顔や肩にある大きな傷跡を見せまくっている、一癖もニ癖もありそうな連中ばかりだ。


 ああ、そうか。

 ガン飛ばしの理由が分かった。

 大して強くもなさそうな俺が、大物ぶって遅く来たのが勘に触った。

 そんなところだろう。

 ・・・・・・めんどくせー。


「それでは第一試合を始めます。続く第二試合の選手も登場口で準備をしてください」

「よっしゃ-っ!」

「気合い入れていくぜっ!!」

「ぶっ潰すッ」

 あの女の子のとても流暢な案内で大声を上げる野郎ども。

 自分に檄を飛ばしているのか、怖気を払っているのか。

 身の危険度と控え室の汗臭さ、男達のムサい度は雲泥の差だが、試合前の光景はどこでも同じだ。

 俺は少しだけ懐かしくて目頭が熱くなった。


 あまりの激臭が目に染みたわけじゃないぞ。

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