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<EP_009> 本田とカズ

「なあ、青木。お前、目標としていた選手は誰だ?子供の頃に憧れていた選手でもいい」

目をいからせ見つめてくる青木に迫水は静かに問いかけた。

「え?そ、そりゃぁ……本田……本田圭佑選手です」

急に話を振られ、肩透かしを食らった青木は戸惑いながら答えた。

「そうか、本田圭佑選手か。そうだな。お前ぐらいの年齢なら、サッカーの大スターだったよな。俺の場合はキング・カズ。三浦知良選手だ」

「古っ……」

京子がポツリと呟いた。

「GM、話を逸らさないでください。今はそんなことを言ってる場合じゃ……」

抗議に戻ろうとした青木を再び手で制した。


「なあ、青木。どうして本田選手に憧れたんだ?」

机の上で指を組みつつ、再び青木へと聞いた。

「そりゃ、あれだけの実績ですし、あのプレーを見たら、サッカー選手なら誰だって憧れますよ」

「そうだな。彼のプレーは素晴らしかった。でもな、彼がスターだったのは彼のプレーが素晴らしかっただけじゃない。それが何だか分かるか?」

青木は首を傾げた。

「じゃあ、お前が一番印象に残ってる、本田が輝いていたのはどこだ?」

「南アフリカワールドカップです」

「あれは凄かったな。デンマーク戦で勝って自国開催以外での決勝トーナメント出場を決めたしな」

「ええ。南アフリカ大会は熱狂しましたよ」

青木の言葉にニヤリとした。

「どうして熱狂したんだ?」

「そりゃ、日本がワールドカップで勝って、本大会出場したから……」

「そうだな。日本が勝ったから本田圭佑は日本の希望になったんだ」

迫水は青木の目を見据え断言した。


「本田圭佑が率いた日本代表は強かった。ワールドカップの常連国へと日本を導き、ワールドカップで決めた無回転シュートは今でも伝説になっている」

迫水は立ち上がって話を続ける。

「日本代表だけじゃない。彼はVVVフェンロではチームを一年で一部に復帰させ、その後も様々なチームを渡り歩いて結果を残してきた」

「何が言いたいんです?」

何を言いたいのかわからず、青木は苛立った声をあげた。


「つまり、本田圭佑が当時のサッカー少年の憧れだったのは、彼の芸術的プレーもあるが、一番は彼が勝っていたからだ。試合で勝つ姿を日本全国に見せつけたからだ。俺の時のカズもそうだ。彼は常に戦い勝ってきた。それまでは夢だと思われていたワールドカップに行けるかもと思わせてくれた。Jリーグ開幕後のヴェルディ川崎の二連覇にも貢献した。日本人では無理だと思われた欧州リーグにも参加した。だから、俺たちはカズに憧れたし、お前たちは本田に憧れたんだ。彼らは勝っていたからこそ、サッカー少年の夢だったんだ」

迫水は青木へと向き直り、その目を真っ直ぐに見る。

瞳を直視され、青木は唇を噛んで、わずかに目を逸らした。


「なあ、青木。今のジャガーズを見て、サッカー少年は憧れてくれると思うか?俺なら思わない。お前はJFLは夢を与える場所と言ったな。なら、そのためにはどうすれば良いと思う?」

青木は唇を噛むしかできない。

「勝つことだ。勝つことこそが、お前の言う夢を与えることになるんだ。今、日本の中で勝利に一番貪欲な監督は誰だ?」

青木は答えられなかった。

「平瀬隆造だ。平瀬監督がフリーになったから呼ぶんじゃない。客寄せのつもりでもない。今のジャガーズに必要なのは平瀬隆造しかいないんだ!」

迫水は平瀬退任の記事が開きっぱなしになっていた新聞の上に拳を叩きつけた。

あまりの衝撃にデスクが大きく揺れ、甲高い金属音が事務所に響き渡った。

「いいな、青木。平瀬監督招聘の方向で動く。実際に招聘できるかは未知数だが、今の俺たちに必要な監督を獲りにいく。これはGMとしての決定事項だ」

力を込めた目で見据えてくる迫水の迫力に青木は言葉を失うと、小さく舌打ちをしてロッカールームへと立ち去る。

「おい、青木。しっかり練習しろよ。周りの連中もだ。それが、お前がスターになる第一歩だ」

立ち去る青木の背中に声を掛けると、青木は軽く握り拳を上げてロッカールームへと消えていった。


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