<EP_003> 名ばかりのプロチーム
ジャガーズ早島。
迫水がGMとなったJFLに所属するサッカーチームである。
その歴史は古く、日本サッカーリーグ時代にまで遡る。
日本紡績サッカー部として産声を上げ、Jリーグ発足後もクラブチームとして存続していた。
迫水も高校卒業後にサッカー部員として門を叩いた。
しかし、入部してすぐに怪我をしてしまい、そのリハビリをしている間にサッカー部は廃部。
以後、日本紡績の社員として働いてきた。
サラリーマンとして働き始めた迫水はサッカーへの未練を断ち切るように仕事へと没頭した。
結婚もせず、仕事に没頭し続けた三十年だった。
迫水にジャガーズGMの辞令が降りたのは去年の十二月のことである。
「私がGMですか?」
常務室に呼ばれ、辞令を受けた迫水は目を丸くした。
「ああ。前のGMが体調不良とのことで急に辞めることになってね。そこで、元サッカー部員のキミにGMをやってもらうことになった。岡山出身のキミも地元に戻れるんだし、悪い話ではなかろう?」
強張った顔の迫水に対し、こともなげに常務は告げた。
常務の目が迫水を射抜き、反論を封じる。
迫水はこれが片道切符の出向であることを理解した。
「わかりました。謹んでお受けいたします」
「よろしく頼む」
返答を当然のこととして、常務は淡々と頷いた。
常務室を出ると、ドアが乾いた音を立てて閉まった。
ジャガーズ親会社の日本紡績は大企業であり、所属選手の多くはプロ契約で、小規模ながら自前の練習場を持っている。
JFLチームとしては破格の高待遇と言えた。
しかし、昨季の成績は六位で、今季、J3昇格を狙える位置にはいるが、ここ数年はずっと五位から八位程度の順位が続いていた。
「税金対策の名ばかりプロチームか……」
誰もいなくなったクラブハウスで、迫水は独り机に向かっていた。
暖房の切れた室内で、コートを着込み、震えながら、白い息を吐き出す。
昨季の予算表をなぞり、コピペのように同じ数字を入れていく。
変わり映えのしない予算編成を前に、老眼が近くなった迫水はパソコンから目を離し、瞼を閉じる。
右脚の古傷が底冷えする室温に少し疼いた。
脳裏をよぎるのは、朝に見た選手やスタッフの顔だ。
「JFLなんてどこもこんなもん」そう嘯く下川。
青木以外、汗一つかかない練習に終始する選手たち。
世間ではJリーグが生まれ、昨今ではそのJリーグの問題が取りざたされている。
自分が離れている間に、日本サッカーを取り巻く環境は激変していた。
かつての自分が知る世界とは、別物であることを思い知らされる。
「これが本当に健全なプロチームなんだろうか」
パソコン画面を見つめ、独りごちる迫水に答える者はなく、クラブハウスの外で電線が風に鳴った。




