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<EP_004> 価値ゼロ円のチーム

迫水は作り上げた予算案を手に役員会へ臨んだ。

「なんだ、昨年と同じか」

役員の一人から嘲るような声が上がった。

「はい。今季は昨年の経験を活かし、J3への昇格ができるように選手、スタッフ一同精進していくつもりでございます」

淡々と、用意してきた言葉を並べていく。

「そうしてくれ。歴史ある我が日本紡績サッカー部がいつまでもJFLでは格好がつかん」

「そうだ。J3にも上がれないのであれば、我が社の恥だ」

投げかけられる言葉はどれも身勝手で手厳しい。

「申し訳ございません。そのためにも日々精進しております」

額に滲む汗を拭いながら、低頭するしかなかった。

「それで?まだ監督が決まっていないようだが、それで本当に昇格などできるのかね?」

その一言は、今の迫水には最も痛い。

昨季まで率いていた安達監督に、癌が発覚したのが去年の十二月。急遽の監督選考は、難航を極めていた。

「現在、新監督の候補に打診しているところでございます。近日中にご報告できるかと」

更に吹き出る汗を拭きつつ、答えなければならなかった。

「まぁ、良い。上手くやってくれ。だが、迫水くん。追加予算は認めない。いいな」

そう告げられ、迫水の出した予算案は満額承認されることとなった。


予算が通り、休憩所で一息ついていると同期の内田が声をかけてきた。

「よお、迫水。どうだ、岡山の空気は?東京よりは美味いんだろうな」

「空気なんて、どこも変わりゃしない。隣に工業地帯があるぶん、こっちより悪いかもしれんな」

口角を上げて近づいてくる内田の顔から目を逸らし、迫水はそっけなく返した。

「そう言うなよ。同期もすっかり少なくなってよ」

変わらない顔で内田も自販機のコーヒーを買って迫水の隣へと腰を下ろす。

「まぁ、お前も大変だろうけどよ、就職活動、頑張れよ」

内田がそろりと告げてきた。


「どういうことだ?」

迫水の驚いた顔に内田はしまったという顔をした。

「おい、俺に就職活動というのはどういうことだ?」

詰め寄る迫水の勢いに、内田は声を潜めた。

「いや、ここだけの話なんだけどな、お前のジャガーズ。今季終了後に売却される予定で話が進んでる」

「役員会じゃ一言も言われなかったぞ」

「まだ、水面下の交渉だからな」

内田は苦々しく顔をしかめて答えてきた。

「ちなみにどこだ?」

「シルバーブルーメ」

「外資か……」

シルバーブルーメと言えば、海外にもプロスポーツクラブを複数持つ外資系企業である。

「売却額は?」

「さぁな。約一億円って聞いてはいる」

その額を聞いて迫水は耳を疑った。

一億と言えば、現在のジャガーズが保有する練習場とクラブハウスの額とほぼ同額。

ジャガーズの価値はゼロ円と評価されたのに等しい。

その後、内田が何か言っていたようだが、迫水の耳には入らず、休憩所から見える大手町のビル群を虚ろな目で見続けることしかできなかった。

「じゃ、しっかりやれよ、GM」

内田がカップを捨てる音に迫水は現実へと戻された。

「ああ……貴重な情報、ありがとよ」

内田は振り向きもせずに手を振って去っていった。


「売却額一億、価値ゼロ円……」

帰りの新幹線の中でパソコンを開く。

議事録には、昨年の役員会での「ジャガーズ譲渡」の文字が書いてあった。

パソコンから目を逸らして窓を見れば、トンネルに入った直後で、疲れ切った顔をした自分の姿が映っていた。

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