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<EP_024> 本物の客

プレシーズンマッチの翌日、朝のチラシ配りに選手は誰もいなかったが、ネームプレートだらけの迫水には多くの人が声をかけてくる。

クラブハウスに戻ると、試合翌日で練習は休みというのに、鷹野などベンチを外れた数人が練習をしていた。


「おはよう。キキさんが昨日の売上が上がったって言って、メンチをくれたぞ」

事務所ではスタッフが話し込んでいる。

「おかえりなさい、GM。わぁ、いい匂い」

迫水に気づいた京子が声をかけてくる。

「お昼にでも食べよう」

メンチカツを渡し、京子が休憩室へ消えると、迫水はスーツを脱いで自席へと座った。


「どうしたんだ?」

集まっていたスタッフたちに声をかける。

「GM、マズいですよ」

「何がだ?」

下川が顔をしかめると、昨日の観客数を出してきた。

約千八百人が記録されていた。

「見てください、GM。昨日はこれだけしか入ってません。昨季のガイナーレとのプレシーズンマッチでは三千人は入ったんです。観客数が減ってます。これは大問題ですよ」

昨日の数字を見ながら、昨季のガイナーレ戦と見比べる。

「何が問題なんだ?」

「大問題じゃないですか!J3への昇格には観客動員数が平均二千人以上っていうハードルがあるんです。ガイナーレを呼んで、この結果では優勝しても昇格ができません」

下川の強い言葉にスタッフが頷いた。

迫水のページを捲る音と打鍵音が響いた。


「それで?何が言いたい」

迫水は書類を置くと下川に向き直る。

「あなたのやってることが間違っていると言っているんです。あんなバカみたいなバスを走らせて、バカみたいな音楽を鳴らして、選手たちを見世物にして、チケット代を高くした結果がこれです。これじゃ、選手たちが可哀想です」

「それは違うぞ、下川」

下川の言葉に顔色一つ変えず、昨日の結果の一角を指で叩いた。

指の先には、昨日の入場料が書かれている。

「昨日の試合で俺たちは約八十万を稼いだ。これはガイナーレと折半することになるから、実際には四十万程だ。そして、昨日のグッズショップの売上とテナント料を合わせれば約二十万。つまり、六十万の売上が手に入ったわけだ」

「GM、今はそういことを言ってるわけじゃ……」

抗議を続ける下川を手で制して、パソコン画面を見せる。


「これが、昨季のガイナーレ戦の数字だ。確かに、お前の言うように観客総数は減っている。だが、良く見ろ。入場料収入は約七十万しかない。つまり、来た客の半分がお前らがばら撒いた無料チケットで入場したということだ。そして、テナント料やグッズ売上を足して、俺たちの収入は五十万以下だ。これでも、お前は意味がないと言えるのか?」

「しかし、J3昇格には入場者数が……」

「いいか、下川。俺たちに必要なのは見せかけの客じゃない。本当の客だ。金を落としてくれる本当の客だ。真野、昨日の試合後のSNSはどうなっている?」

下川と迫水の話し合いに足を止めていた京子に、視線も送らず問いかける。


「は、はい……昨日の試合後のジャガーズ公式への接続も上がっており、ツイート内容も好意的なものが多いです」

「こういうことだ。ツイートの中には『次も見に行きたい』『次の試合はいつだ?』といったものも多かった。つまり、昨日の客は次も来る可能性が高い。これが、本当のファンなんだ」

迫水は立ち上がり、ゆっくりと窓へと歩き始めた。


「いいか、下川。人間てのはな、一度財布の紐を緩めると、さらに緩めるものなんだ。事実、観客数は減っているのに、グッズショップの売上は昨季より上がっている。キキさんも帰りにメンチカツが売れたと言っていた。四百円払って試合に来てくれた人は、さらにお金を落としてくれる。つまりは、そういうことなんだ」

窓から練習している鷹野たちを眺める。

「今、ジャガーズは認知されはじめている。そして、選手たちがピッチ上で良い試合を見せようとしている。その選手たちの姿をファンと金額に変えることが俺たちの仕事だ。200人足りないというなら、それを集めるのが俺たちの仕事だ。そうでなければ、休日だというのに必死で練習している選手たちに失礼だ。そうは思わないか?」

スタッフは口をつぐみ、事務所に練習する選手の声が響いた。


「営業方針は変えない。大丈夫だ。昨日の試合の余韻はまだ残っている。じゃんじゃん、稼いで、人をスタジアムに引っ張ってこい」

迫水の言葉にスタッフは仕事へと戻っていった。

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