第29話 鮮血の円舞曲
降り注ぐリィの鮮血を恍惚とした表情で浴びながら、レッドキャップは続けて魔術を発動する。
「さあ、一緒に踊りましょう!血と狂気に満ち満ちた、死の円舞曲を!!」
リィの血がまるで霧のように辺りに散らばる。すると、部屋中の血だまりから薔薇の形をした頭を持った異形の魔物が次々と生え、茨を鞭のようにしならせながら、鋭利な歯の生えた口を開いて甲高い叫びを上げた。
『聞こえますか、霧原君!血が薔薇の化け物になって襲ってきた!不意打ちでスカウトがやられました、ヒールを頼みます!』
リィに気を取られ混乱している僕に、容赦なく茨の鞭が飛んでくる。
「うわっ!?」
しなった茨は僕に当たることなく、空中で凍り付いた。
「よし、効いた!大丈夫か、ペプシ君!?」
「村の方でも茨の魔物が出たみたいです!」
「なに……!?どうやって遠隔で……まさか、全てのゴブリンの血に魔術を仕掛けていたとでも言うのか!?」
レッドキャップは血の剣を作り右手に持つと、飛び掛かってきたドンとテケテケの攻撃を軽々と受け止めた。
「ふふふっ、軽いですわよ」
「なッ……!?コイツ、強ェ……!」
「……今だ!冥土、ゆけ!」
「ま~わ~り~ま~す~っ!!」
横から斧に振り回されるようにしてメイリンが回転しながら突撃する。レッドキャップは足止めしていた二人を払いのけると、飛び上がってメイリンをかわした。
「当たらなくてよ!」
「レスキューで~す!!」
そのまま猛烈な勢いで回り続けたメイリンは、リィを縛る茨を次々と切り飛ばしながら進み、壁に激突して止まった。
「ふぎゅっっ!」
「……騒々しい子」
その様子を一瞥したレッドキャップが、呆れたように呟いた。
血まみれのリィが地面に落ちる。彼女はぐったりして動かず、呼吸は弱弱しい。
「早く……早くヒールしないと……!」
彼女の識別タグに向け、ありったけの魔力を込める。だが焦りからか狙いが定まらず、いつものように魔力を動かすことができない。
「……ペプシ君、落ち着け。魔力を込めすぎているぞ。……私がいる、大丈夫だ、集中しろ……」
僕たちに襲い掛かってくる茨を全て凍らせながら、先輩は僕の肩に手を置き、優しく囁いた。
「先輩......」
僕を見る彼女の瞳の深いこげ茶は、まるで優しい夜の闇のように僕の心を包み込み、気持ちを静めてくれた。焦りが消え、集中力が戻ってくる。
僕のヒールを受けて立ち上がったリィは、素早くあたりを見回すと、こちらまで撤退してきた。
「うっ、あちこち茨が刺さったままだ……リィ、大丈夫?」
彼女のレザーアーマーは茨に貫かれ、無数の血の染みが滲んでいる。辛そうに顔をゆがめながら、リィが言う。
「ちょっときつい。支援に回る」
「では、私と共に薔薇の魔物を対処してくれ。本体は前衛に任せよう」
「ん」
「僕は何を?」
「いつも通り、ヒールに集中してくれ。安心しろ、君には棘一本触れさせない」
「……了解っす!」
本当は、敵と戦いたかった。仲間を盾にするしかない自分に、もどかしさが募る。
『霧原君、ヒールはまだですか!また一人やられた!!』
村の方に感じるタグへ向け、まとめてヒールを送る。
『私を治癒する必要はありません!魔力を無駄にしないでください!』
「って言われても、誰がどれだかわかんないんだってば……」
「えーーーいっ!」
メイリンの力まかせの振り回しが、運よくレッドキャップの急所へ吸い込まれる。
「……ッ!」
慌てて剣で攻撃を受け止めるが、レッドキャップは体勢を崩し、大きな隙を晒した。
「貰ったァ--ッ!!」
懐に飛び込んだドンが、強烈なボディーブローを放つ。レッドキャップは茨を操ってその動きを止めようとするが、リィが怪我をものともせず駆け回り、ダガーでつるを切り裂いてドンを守った。
「かはっ……!」
彼女のみぞおちに、ドンの拳がめり込む。たまらずよろめいたレッドキャップに、少し後方で気を高めていたテケテケが必殺の一撃を放つ。
「秘儀……月・風・魔・殿ッ!」
テケテケの姿がブレたかと思うと、一瞬のうちにレッドキャップの鼻先へと現れる。
「なっ......!?」
彼女に回避の隙を一切与えず、いくつもの残像を見せながら、テケテケは神速の居合を繰り出した。無数の剣戟が、空間ごとレッドキャップを切り裂く。
「きゃあああああっ!!」
辺りの薔薇の魔物が切り刻まれるのと共に、悲鳴と血飛沫を上げてレッドキャップが吹き飛ばされる。
「ッシャア!行けるぞォ!」
地面に叩きつけられたレッドキャップは、激しく咳き込みながら、よろよろと立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながら、口の端から流れる血を手の甲で拭った。
「ふ、ふふふっ……やりますわね」
「降参すンなら今のうちだぜェ?」
「降参……?それはこちらのセリフですわ。あなた方が最も有利なのは今、この瞬間……そしてこれからは、ただただ不利になっていくだけですわ!」
レッドキャップが床に向けて魔術を放つ。先程彼女が流した血が動き出し、新しい薔薇の魔物が生まれる。そして辺りの血だまりからも次々と、倒したはずの魔物が復活していった。
「ふ、増えやがっただと……!?」
「わたくしの血も、あなた方の血も、全て我が魔術の糧となります!さあ、死の円舞曲を踊り続けましょう!あなた方の血が、枯れ果ててしまうまで!」
「そ、そんなぁ~~!大ピンチですぅ~~!」
「おーほっほっほ!諦めなさいな!」
高笑いしたレッドキャップの頭に、リィの放った矢が突き刺さる。
「がっ……!?」
「いいマトだ。そのままずっと笑ってろ、化け物」
眉間に刺さった矢を力任せに引き抜きへし折ると、怒髪天のレッドキャップがリィに向かって指をさす。
「じ、じゃじゃ馬がっ!殺してしまいなさいッ!!」
薔薇の魔物達が一斉にリィへ襲い掛かる。よけきれずに傷を負いながらも、僕のヒールを受けてリィはしぶとく逃げ回り続けた。
「オレ達を忘れて貰っちゃ困るぜェ!?」
前衛三人からの攻撃を受け、レッドキャップは薔薇の魔物のいくらかを防御に回す。リィはその隙を突いて包囲を抜けると、すこしふらつきながらこちらへ戻ってきた。
「ヒールくれ」「うん!」
「急にこちらへの攻撃が減ったな……なぜだ?」
「なんか、凍ったやつは凍ったまんまっすよね」
「……!そうか、なら、この空間全てを凍結させれば……!」
「そんなことできるんっすか!?」
「少し時間がかかる。リィ、私たちを守ってくれるか?……どのみち、このままではジリ貧だ」
「任せろ」
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