第27話 ゴブリンエンペラーとの戦い
先輩を引き上げ、無事にトイレらしき空間を抜ける。先輩は皆に頭を下げてお礼と謝罪を伝えた後、珍しくしょんぼりしていた。
「先輩は初めてのダンジョンなんっすから、失敗して当然っすよ。ドンマイっす」
「でもな、私の想定ではもっとうまくやれるはずだったんだよ。ゴブリンを蹴散らして君にカッコいい所を見せる予定が……まさかうんちに足元を掬われるとは思わなかった」
「僕も、フィリアの丘のダンジョンじゃたくさん失敗してリィに迷惑かけちゃいました。おかげで、ダンジョンじゃ違和感を無視しちゃいけないってわかったし……なんとゆーか、ちょっとずつ成長していけたらそれでいいんだと思います」
先輩は顔を上げ、静かに僕の話を聞くと、暗い表情をやわらげた。
「……フ。まさか、ペプシ君に励まされる日が来るとはな。確かに、落ち込んでいる暇などないか。失態は、戦闘での貢献で取り戻すとしよう」
「その意気っす!」
『霧原君、聞こえますか!スカウトから、ゴブリンの群れが村に近づいてきているという知らせがあった!』
唐突に、緊迫した諏訪部の声が耳に届く。
「え、マジっすか!?」
『間もなく戦闘に入ります!君から受け取った識別タグは傭兵に渡してある!私が指示をしたら、その都度ヒールを送ってください!』
「で、できるかなぁ……」
『また、パーティーメンバーにこのことについて話し、守ってもらうようにしてください!村のヒーラーは高齢で戦闘に参加することは難しい。君はパーティーだけでなく、こちらの傭兵たちの生命線でもある!』
「う……責任重いなー……」
試しに諏訪部と傭兵たちに向けてヒールを送ってみる。……遠すぎて誰がどれだか区別がつかないが、全員治癒してしまえば問題はないだろう。
『そちらも問題ないようですね。戦闘が始まったらまた連絡する!』
「……やるしかない、か。
……あの、皆さん!ちょっと聞いてほしいことがあります。諏訪部さんについてなんっすけど、実は……」
諏訪部の計画について話す。ドンとテケテケは驚いたように、メイリンは感激で目をキラキラさせて、そして先輩は答え合わせをしているかのように頷きながら、僕の話を聞いていた。
「……ケッ。そういう魂胆なら、ハナっから正直に言えってんだ」
「私は信じてました!やっぱりタクト様は最高なんです!」
「村を守ることに思い至らぬとは、不覚であった……」
「しかし、そうなると君への負担が心配だな。十人以上のヒールを担う事になるが……大丈夫か?」
「わかんないけど、やるしかないです!!」
僕の言葉に、その意気だ、とドンが頷く。
「なァに、ゴブリンの親玉ごとき、オレ様が一発でぶっ飛ばしてやるからよ。心配すんなって!」
「はい!頼りにしてます!」
「ハルト、わたしも頼りにしろ。守ってやる」
「リィ……ありがとう」
ん、と短く返事をすると、彼女はまた先頭に立ち、薄暗い洞窟の中を警戒しながら進みだす。それに続いて、僕たちも移動を再開した。
・・・・・・
長い探索の末、僕たちはついに巣の最深部へたどり着いた。がらんとした空間にはいくつもの血だまりがあり、奥にあるガラクタで作られた玉座に、血まみれの鎧をまとったゴブリンが座っている。
「妙だな……アイツ一匹だけかよ?」
「やっぱりエンペラーか。隠れてるやつの気配はない。でも、油断しないで」
「はい。メイリン引き締めます……!」
「強敵との死合い……気が昂るでござる」
「どれだけ強かろうと関係ない。一瞬で氷漬けにしてやるさ」
「よーし……やってやるっす!」
部屋に入ってきた僕たちに気づいたゴブリンエンペラーは、ゆっくりと立ち上がり、地の底から響くような恐ろしい咆哮を上げた。
「だりゃあぁぁぁぁッ!」
全くひるまずに走り出し、一気に距離を詰めたドンが飛び上がって勢いを乗せた拳を叩き込む。……しかしその拳は、エンペラーの無骨な手のひらに受け止められた。
「……な、何ぃッ!?」
「チッ……氷よ!」
先輩が手をかざすと、エンペラー目がけ白いもやのような冷気が跳んでいく。
「ガアァァァァッ!!」
エンペラーは彼を投げ飛ばすと横に飛び、先輩の放った冷気の塊をかわした。
頭を下にして飛ばされたドンは地面に激突する寸前に両手を伸ばし、そのまま宙返りをして華麗に着地する。
「まだまだァ!合わせろ、テケテケ!」
「応!」
ドンとテケテケが同時に前へと飛び出し、息もつかせぬ拳の連打と、神速の剣戟がエンペラーを襲う。その全てを防ぎきることは出来ず、魔物は大きく体勢を崩した。
「どどど、どいてくださ〜〜い!!」
「むっ!?」「どわあッ!?」
二人が左右に飛び退くと同時に、メイリンが前に出て、力任せの一撃を放つ。
「ギャヒィィィィッ!」
直撃を受けたエンペラーが宙に舞う。ぼとり、と切断された左腕が落ちた。
「やった……!」
「グギャラギャラララ!!」
片腕を失い、怒り狂ったエンペラーが剣を一薙ぎすると、三人は衝撃で吹き飛ばされた。
「……っ!ヒールします!」
追撃しようと走り出したエンペラーの膝ががくりと落ちる。魔物の両足は、這い上がる冷気によって凍りつき始めていた。転がるように後退するが、魔術の範囲から出ることができない。
「ギヒッ!?」
「広域の凍結魔術だ。諦めたまえ」
エンペラーは半分凍った足で執念深く立ち上がり、先輩に向けて武器を投げつけようと腕を振り上げた。
「死ね」
気配を殺し死角から忍び寄っていたリィが氷のような声で呟く。彼女は真後ろからエンペラーに組み付くと、ダガーで無造作に首を掻いた。
「グェェェェッ!!ゴポ………ッ」
脱力したエンペラーは、しばらく首から鮮血を吹き出した後、まるでお辞儀をするように倒れる。
「……終わったでござるな」
「や、やや、やりましたぁ〜〜!」
「なんでェ、こんなモンかよ。拍子抜けだぜ」
「……やった!勝ちましたよ、先輩!」
「ああ。君とリィの冒険の、大いなる最初の一歩だな」
「なに言ってるんですか、先輩と僕とリィの冒険でしょ!」
「そうか……そうだったな」
「勝ったな。いえーい」
「リィ!ブイ!」
「?2がどうしたの」
「勝利のサインだよ!」
「そーか。まろーどはヘンなことする。......エイア、ぶい」
「な、なに?」
「ほら、先輩も!」
「……ぶ、ぶい」
戸惑いながらブイサインを作った先輩の照れたような顔を、僕はとても愛らしいと感じた。
「何やってんだァ、オメエら……?」
僕たちの様子に気付いたドンが、呆れたようにそう言った。
・・・・・・




