05 四人目
「なぁ、いつまでも俺の手伝いをして貰って大丈夫なのか?」
多少申し訳なく感じ、気を使って尋ねると呆れた顔で問い返される。
「お前、俺がエルを必要としている様に見えるのか?」
イルネラに来ている冒険者なら、金が必要だからでは無いのか?
変な事を言うものだと思ったが、そう言われてみると、彼の服装は華美では無いが良いものだし、使っている火炎の魔具も今まで見た事が無い。
おまけに自分の双剣に匹敵するくらいの物を、魔具屋に預ける余裕を持っていた。
「なら、何の為にここにいるんだ?」
「面白そうだった、、、からかな?」
なんだかコイツと話していると、嫌な気分になってくる。
「それよりお前、文字は読めるのか?」
「人並みだ」
「そうか、ならこれを読んでおけ」
彼が保管箱から取り出した本を渡される。
「なんだよ、これ」
「この辺りの森で採れる薬草を書いた物だ。お前が物事を知らないのは分かっているが、その位は知っておけ」
「薬草?」
「お前、俺がアリアントと遊んでいる間に、ミュルゼの芽を踏みつけただろう、あれが満月に花を咲かせていれば、今日狩ったアリアントの十倍の価値がある」
「本当なのか?」
「嘘は言わん」
「悪かったが、、、この本は読めん」
「人並みだと言っただろう、俺は読める」
「お前は規格外だ」
「へぇ、俺を規格外だと言ったのは、お前が始めてだなぁ」
何が面白いのか分からないが、えらく楽しそうに笑う。
「とにかく文字が読めなくては話にならん、オル」
「僕は嫌です」
「仕方がない、そろそろライに来てもらうかな」
「分かった」
二人で意味の分からない事を話していたかと思うと、彼のリグがどこかに行くのを見ていて気がつく。
「お前、本が読めるのか?」
やっぱり目が見えているのか?
「オルが一度読めば、だいたい頭に入る」
やっぱり聞くんじゃ無かった。
こんな奴を相手にしていると、自分が人並みなんだと思い知らされているようで、嫌になってくる。
翌日、朝食を食べるために二階から下りて行くと、知らない人の声が聞こえる。
「どう言う事です」
「俺に教えられると思うか?」
「一刻も早くと言うから、私は夜通し馬を走らせて来たのですよ?」
「早い方がいいだろう?」
クリンより年長の青年が、頭を抱えるようにして彼と話している。
「ウル」
「ほら、コイツだ、とりあえず本の一冊くらい読めなくては話にならん。ついでに炎刃のやり方も教えてやれ、見ても分からんと言うんだ」
「いい加減、目に付いた人を拾うのをやめて下さい」
「まだ拾ってない」
拾うとか拾わないとか、誰の事を言っているのか分かるだけに、まず本人の意志を確認しろと言いたくなる。
自分の知らない所でなんだか色々ある様で腹が立つが、新しく来たライと呼ばれた人はいい教師だった。
「全く、こんな本をいきなり読める訳が無いでしょう」
彼から渡された本を見せると呆れたように言い、まずどの程度クリンが文字を読めるか確認し、適切な教材になるような本を選んでくれた。
クリンがミュルゼの様に貴重な薬草だけでも覚える必要があるのではと心配していると、
「どうせ "咲かせていれば" とでも言ったのでしょう」
「あゝ、確かに」
「"咲いたら" で無いなら、気にする必要はありませんよ」
「咲かなかったって事か?」
「その位、珍しく貴重な花なんですよ」
「俺は遊ばれてるのか?」
「良い事でもあるのですよ、興味を惹かれないと彼は全く相手にしません。
それより早く“炎刃”を覚えて下さい。私の"風切り"ではガマは切れてもギルネラは切れません、狩るのは苦手なんですから」
「分かっているが、覚える必要があるか? 確かに便利かも知れないが、剣でも戦えるだろう?」
「“炎刃”は覚えておいて損は無いと思いますよ。
確かに火炎よりはずっと威力が低いですが、剣のスピードが上がれば、少ない魔力で炎刃の威力も上がりますし、戦うにしても、敵との距離があった方が有利になる事は多いでしょう」
「それは分かるが」
「それに彼は、無駄な事をしろとは言いませんよ」
「そうだったな、それは良く知ってるよ」
「剣を振るのと魔力を流すタイミングを合わせる事です。
最初はそれ程早く無くても、次第に早くなりますので、後三時間、頑張ってガマを狩って下さい」
くそ!
スパルタなのは、アイツ以上かよ。
彼が来て二日目が終わる頃、ヘロヘロになりながら両方の剣から炎刃を放って、やっとギルネラを狩る事が出来るようになった。




