04 王宮へ
王都にいるウエストリア家の者達は、ウルフレッドの事をよく知らない。
長年、長兄のセリス様に仕えていた者が、若干15歳の少年に従えない気持ちも理解できるが、手が足り無かった為に、結局、目的の人間を逃がしてしまっている。
それも全て自分の責任と思っているだろう人の顔は、見た事も無いもので、オルグは彼の口元が楽しそうに笑っていない顔を始めて見た。
「やり過ぎないでよ」
「そんな心配はしなくていい、加減を間違える様な事はしないさ」
オルグが不安を感じていた事に気付き、彼の声色がいつものように戻る。
どんなに怒りを感じていても、彼が冷静であれば心配する事はない。
彼がどんな人間かは、リグである自分が一番よく分かっている。
ウルフレッドは、王都に戻ると城門を使わず王都の中に、そして王宮に忍び込む。
そのままエレノア后妃の所に行き、彼女の周辺にいる警備や侍女たちを眠らせて部屋に入る。
「何者です!」
「兄の代わりに来た」
「、、、兄? セリス殿の身内の者ですか、、、」
后妃は、決して愚かな女性では無かった。
深夜、私室に入って来た者が何の目的で来ているのか、気が付かないはずが無い。
「お前の兄に起こったことは、不幸な事故であって、私の望んだものでは無いわ。分かっているでしょう?」
「俺には関係ないな」
「関係ない?」
「貴方が原因を作り、その結果、兄が亡くなった、、、それだけの事だ」
「では、私にどうしろと?」
「后妃にはデイトナ辺りにでも行って貰いたい」
「無礼な!」
「ここに来る前に陛下の所にも行って来たが、あれではもう誤魔化す事は出来ないだろう」
「何の話です」
「今まで誰が操っていたのか知らないが、操り手がいなくなれば人形は動かない」
ゾルド教の使った毒のせいで、既に意思の無い状態のイズル陛下は、おそらく余命も長くは無い。
ここ数か月、エレノア妃の言いなりであった陛下がいなくなれば、今までの様に彼女が王宮で権力を持つ事は出来ない。
「それが何だと言うのです。それで私を排除出来るとでも言うのですか?」
「貴方が罪を認め、今回の事がゾルド教によるものだと認めれば出来るさ」
「馬鹿々々しい、そんな事を認める訳が無いでしょう? それとも私が関係していると証明出来るなら、してみるがいいわ」
ゾルド教の教祖がいない以上、それを証明できない事を后妃はよく知っているようだった。
「成程な、よく状況が分かっている」
「当たり前でしょう」
「つまり、やはり貴方が原因だったと言う事だ」
「、、、どう言う意味です」
「俺は、兄を弑した人間を消しに来ただけだからな」
「そのような事が出来る訳無いでしょう?」
「なぜ?」
「例えウエストリア家の者であっても、王室の者を手にかけて無事で済むとでも?」
「混乱した王室に忍び込んだ賊が、后妃を手に掛けたとしてもウエストリアは関係ない」
「そのような事、、、」
これだけ大きな声を出しても后妃の所に誰もやって来ないことを、后妃は気が付いているはずだった。
そしてこんな所まで来ているウルフレッドが本気である事も。
「選べ」
「何をです」
「今、生涯を終えるか、自分のした事を書面に残して、王宮から消えるか」
「冗談を、、、」
「言っているつもりは無い」
「私を殺して、王宮から逃げる事など出来る訳が無いわ」
「ウエストリアの緋色と言われた者の力を、本当に見たいのか?」
「それは、、、」
王室に嫁いだ者なら、ウエストリアの緋色を、決して敵にしてはならない事を知っているはずだった。
先祖返りと言われる瞳とその強大な力の事を。
そしてウエストリアの緋色にはそれが許されている事も。
「私はデイトナでどうなるのです」
「知らん」
「命の保障がされると?」
「それは俺が決める事ではない」
「それでは話が違うわ」
「評議院が決めることだ、、、だが協力的な王室の者の命を、敢えて奪いたいとは誰も思わないだろう」
「協力しろという事ね」
「俺が欲しいのは一つだけだ」
「分かったわ、、、その代わり出来る限りの力を使って、私の命を守って頂戴」
后妃が今回の事を書面に残す。
ゾルド教の関与だけで無く、自分の周辺にいた反タリム派の貴族達の名前まで書き連ねている所を見ると、自分だけが失脚するつもりは無いのだろう。
皇太子の命を奪う事が出来なかった以上、それなりの覚悟があったとしても、ウルフレッドの姿を見ても常に冷静な后妃は、確かに賢妃と呼ばれた人であった。
第二后妃の生んだタリム王子を認める事が出来さえすれば、彼が即位しても王室でそれなりの地位にいる事が出来るはずだった。




