02 ガマ狩り
「本当に行くのか?」
「ん?」
「東の森だよ」
「他の奴らとカチ合わなくていいぞ」
他の連中が行かないのは、“ガマ狩り”は辛い割に利益が少ないからなのだが、そんな話をしても納得しそうにない。
仕方ないので今日は従う。
一日働いてたいした利益が無ければ、彼も考えるだろうと東の森に行くが、クリンはそこで酷い目にあった。
「くそ、お前達も動けよ!」
森に入ると沼地は嫌だと二人は木の上に登ってしまい、少年は時々火炎で”ガマ”を狩るが、もう一人は何もしない。
「オルに期待するな。こいつは攻撃も防御の魔具も持っていない」
「はぁ?」
信じられない。
真っ黒い瞳を持ったオルと呼ばれた人は、地の魔力に優れているのだろうが、だからと言って他の力を使えない訳ではない。
それを魔物のいる場所に来て、全く使わないなんて考えられない。
それでも数十の”ガマ”を狩る。
沼地に落ちた魔石を拾うのは面倒だし、彼らは一向に手伝う様子も見せない。
「おい、いつまでも木の上で遊んでいないで手伝えよ」
「そんな物はいらん」
「はぁ? なら何の為に狩ったんだ」
「ガマが落とした魔石なんて、幾つあってもたいした“エル”にならない」
では、この数時間は何だったんだ!
腹が立つし、こんな奴と組んだ自分が情け無いし、やってられるかと沼地から出ようとすると、今まで黙っていたリグが静かにと言う。
「ウル」
「どのくらいだ」
「八十七」
「まぁ、そんなものか」
「何の話だ」
「お前、“ガマ狩り”がなぜ冒険者に嫌われているか知らないのか?」
「誰だって、こんな沼地で臭い思いをしたくないからだろう」
”ガマ”は沼地に住む魔物で、粘液を出して獲物を動けなくしてから沼地の奥に引きずり込む。
ドロドロとした粘液は臭いし、狩った後はもっと臭いので、沼地にはガマの匂いが充満していた。
「それより”ガマ”が残した臭いに吊られて、“ギルネラ”が集まって来るから嫌われているんだ、アレは硬いし、捕まえにくいからな」
「ギルネラ?」
「お前、喰いつかれるなよ、痛いし、血を吸われると面倒な事になるぞ」
冗談じゃない。
何十匹ものギルネラに襲われたら、無傷で居られない。
「あゝ、それから、ガマを狩っていた魔力では、ギルネラは狩れないからな覚えておけよ」
相変わらず木の上から、のんびりと続ける。
「おい、逃げないのか!」
「馬鹿を言うな、何の為にガマを狩ったんだ、”ガマ狩り”よりずっと効率がいいぞ」
そんな話をしている間に羽音が聞こえて来て、既に逃げる時間がない事が分かる。
“ギルネラ”は、血を吸うのと同時に人に卵を産み付ける。
産み付けられた卵は、焼いて殺すしかないので、処置をするのが大変だしとにかく痛い。
痛い思いをしたくないなら、必死になるしか無いと覚悟を決めた瞬間、彼の魔道具から放たれた火炎が何個かに分かれて数十のギルネラを落とす。
「なぜ残したんです?」
「これ以上は効率が悪い。ほら、数は減らしたからな後は頑張れよ」
「お前が全部落とせるだろう!」
「何を言っている。それではお前がどのくらい使えるか分からないだろ?」
くそ、腹が立つ。
沼地で汚れた足は重いし、”ギルネラ”は硬いのでとにかく魔力の消費が激しい。
「このくらいかな」
それでも数匹狩った頃、自分が必死になっていた魔物を、彼がそう言ってあっという間に火炎で狩る。
体力を削られ、魔力もほとんど使い果たし、言い返す気力も無くしていると、オルと呼ばれたリグが“ギルネラ”の落とした魔石を集めている。
集めた“ギルネラ”の魔石があれば、しばらく困る事はない。
イルネラの街に着いてからやっと安心する事ができ、宿でゆっくり休みたいと思っていると、彼が今度はイルネラの街で一番の魔具屋に入って行こうするので必死に引きとめる。
「ちょっと待て、魔具が必要でもここは無理だ」
「馬鹿を言うな、ここで無いと無理だ」
彼が楽しそうに魔具屋に入って行く。
「ガキのくる所じゃない、さっさと帰りな」
早速、店主に相手にされていない。
「なんだ、ここは客を選ぶのか?」
「客でない者に入って欲しく無いね」
「なら、俺達は客だから大丈夫だ」
そう言って持っていた黒い袋を店主に投げる。
中を確認した店主が“ギルネラ”の魔石を見ると、胡散臭そうにこちらを見る。
「ふん、ギルネラを狩れる力はあってもこの数では話にならないね」
すると、彼が保管箱から小さな袋を取り出してそれを渡すと、今度は店主が手のひらを反すように愛想がよくなる。
「それは預けておく。俺達が十日の間に金を持って来れなかったら、それをやるよ。それまでは売るなよ」
「わかった、わかった。何でも好きな物を持って行きな」
えらく店主の機嫌がいい。
「何を渡したんだ」
「そんな事はどうでもいい」
クリンを相手にせず、彼が店主と話を続ける。
「奥にある双剣を持って来いよ、赤い魔鉱石の付いた奴だ」
「双剣? お前さん、双剣使いなのか」
「俺は違う、コイツが使うんだ」
「俺が?」
「ワシは構わんが、双剣は使いづらいぞ」
「それは問題ない、コイツが練習すればいいだけの話だ」
勝手に店主と話をしかたと思えば、ギルネラを一万匹狩っても支払えない様な双剣と、保管箱を手に入れて魔具屋を出る。
「ほら」
双剣の入った保管箱を渡され、喜べばいいのか、呆れたらいいのか分からずにいると、
「こっちは俺が貰うぞ」
そう言って今までクリンが使っていた剣を、自分の保管箱に入れている。
「剣が使えるのか?」
「当たり前だろ、なぜ左手に火炎を付けていると思ったんだ、俺は左利きではないぞ」
全く腹が立つ。
考え付かなかった自分にも問題あるが、コイツの言葉が足りないのは、今に始まった事ではない。
「おい」
「なんだ」
「なぜ双剣なんだ」
「左手も使えるだろ」
「剣を使える訳じゃない」
「なら使えるようになればいい、これから十日間、”ガマ狩り”はちょうどいい練習になる」
翌日、また東の森に行くと言う。
「お前が剣も使えるなら、わざわざ”ガマ狩り”なんかしなくてもいいだろう。もっと奥の森で、大物を狙えばいい」
「そんな事をすれば、お前が死ぬだけだぞ。俺はどちらかを選ぶ場面になれば、オルを選ぶからな、自分を守れん奴にはまだ早い」
「そこは嘘でも、どちらも、と言えよ」
「馬鹿を言え、そんな事をして全滅したらどうするんだ。そんな無駄なことはしない」
そう言ってさっさと東の森に入って行き、
「さぁ、”ガマ狩り”だ。今日は左手だけ使えよ、いきなり両手だと混乱するからな」
沼地に着くと、相変わらず木の上にからクリンに声をかけてくる。




