01 出会い
「なぁ、助けが必要か? だから言っただろ、馬鹿な奴とは組むなって」
宿で出会った少年が、屋根の上から声をかけてくる。
『止めておけよ』
『なんの話だよ?』
『あいつらと組んでもいい事ないぞ』
『仕方ないだろ、他に入れてくれる所が無いんだ』
四日前、やっと入れて貰った三人の仲間と狩に出かける時に話しかけられた。
『俺と組めば良いだろ? 馬鹿な奴と組むと、後で面倒な事になるぞ』
少年と宿で会った時から誘ってくるが、何を言っているのかと呆れてしまう。
おそらく自分よりも年下。
おまけに目が不自由なのか瞳を隠すように布を巻いていて、側に黒髪のリグが付いている。
見ているとどうやら普通の生活に問題ないみたいだが、魔物相手にそれが通用するとは思えない。
そんな子どもと組んでも仕方がないと、クリンは声をかけられても、いつも適当にあしらっていた。
狩りに行くには、仲間が必要だった。
どんなに腕に自信があっても、さすがに一人では危険過ぎる。
三人組が考えている事も予想出来たが、彼等に負けるつもりは無かったので気にする必要もない。
案の定、狩の最後で三人に襲われて、狩で得たものを取り上げられそうになったが、逆にやり返して自分の報酬を貰って帰って来た。
自分の取り分だけ貰ったし、文句は無いだろうと思っていたら、その三人が、今度は自分よりずっと格上の助っ人を連れて仕返しに来たので驚いた。
ウエストリア領にあるこの街は、領内では珍しく無法地帯になっていた。
力のある者が集まり、魔物を狩って魔石と“トゥグ”、その他の色々な鉱石を手に入れる。
魔石や“トゥグ”をウエストリア領内から持ち出す事は出来ないが、換金場所に行けばエルに交換出来るし、ここでは魔石そのもので支払いも可能なので問題はない。
冒険者に街を治める法は意味を持たないので、格上の者に力を借りても、自分を倒した後、結局同じ目に遭うことが分からないのだろうか?
「くそ!」
三人組なら問題無かったのに、加勢を楽しんでいる二人には敵わない。
どうやって逃げるか考えている時に、頭の上から妙に楽しそうな声が聞こえてくる。
「どうする? 俺と組むか?」
「何とか出来るならしてみろよ、お前のいう事を聞いてやる」
屋根の上に向かってヤケクソに答える。
「その言葉、忘れるなよ」
そう言うと、少年が左手に巻いていた布を外しながら隣にいるリグと話始める。
「どのくらいだ?」
「左、斜め下。やり過ぎないで」
「分かってるよ、けど難しいなぁ」
ぶつぶつ言っていたかと思うと、彼が左手につけた魔具から火炎が放たれる。
「うわぁ!」
「何だ、これは!」
火炎自体は小さいのに、威力はあるのか加勢の二人が騒いでいる。
「もう少し左、上」
加勢している二人だけを狙っているようで、リグの言葉に従って、彼の火炎は見えているかのように二人を狙う。
「いやぁ、嵌められたのはどっちなのかなぁ」
そうかと思えば、上から呟いてみせるので、怒った二人が、結局、逃げる三人組を追いかけて何処かに行ってしまった。
「じゃぁ、宿でな」
屋根の上にいた少年の方は、敵を排除したかと思うと、そう言い残してリグと一緒に、こちらは屋根の上を走って消えてしまう。
「アイツ、何者だ?」
クリンは平民の生まれだった。
だが強い魔力を持っていたので、領主に魔具を持たされ警備の仕事をさせられた。
仕事に不満は無かった。
農地を耕すより性に合っていたし、警備の大人達の中には、文字を教えてくれる者もいた。
だが野党と戦っても、魔物を倒しても一向に報酬には反映されず、魔物が落とした魔石も領主に取り上げられる。
怪我をしても数日休むのを許される程度で、結局、片親だった母が亡くなった時、15歳で領地を出る事にした。
ウエストリア領にあるイルネラの街の話は聞いていたので、取り敢えず王都で生活出来るくらいのエルを手に入れる為にやって来たが、実績の無いガキを仲間に入れてくれるような者は無かった。
仲間がいないので、街の周辺で魔物を狩ってみても、その程度では宿の費用だけで無くなってしまい、これで怪我でもすれば、母が残してくれたお金もすぐ底をついてしまう。
やっと入れた仲間ともダメになって、クリンにとってはどうにでもなれと思っていた時だった。
少年の火炎が動く魔物にどれだけ有効かわからないが、無いよりはマシに違いないと思い、宿に戻ると食事をしていた彼が声をかけて来る。
「遅かったな」
「なぜ俺だと分かる。見えているのか?」
「お前、右足に傷があるだろう、足音で分かる」
警備の仕事を始めた頃、初めての魔物を相手にした時の怪我が右足にある。
だが何年も前の話で、特に痛みが残っている訳でもない。
隣にいたリグが教えたのかと思ったが、こちらは無口なのか必要以上の話もしない。
分からない事を気にしても仕方ないので、前に座って食事を始めると、また聞いてくる。
「お前、左利きなのか?」
本当は見えているのでは無いかと思うが、彼の目を守る様に巻かれた布はそれほど薄い物ではない。
「そうだよ」
「剣は右で振っていたよな」
「剣を教えてくれた人が右利きだったんだ、教え難いって言われたからさ、右手を使うようになった」
「左も使えるのか?」
「今は無理だよ」
「ふ~ん」
最初はどちらでも使える様にと練習もしたが、今では右手だけを使っている。
「よし、なら明日は東の森で“ガマ狩り”だな」
彼はたいして興味が無さそうに聞いていたが、食事が終わると、そう言い残して部屋に戻って行く。
“ガマ狩り?”
彼のことはよく分からないが、彼の残した言葉にはウンザリさせられた。
ガマはそれほど強い魔物では無いが、基本的に群で動くので数が多い。
おまけにガマは沼地にいるので、彼の火炎と違い、剣で戦う自分は沼地の中に入る必要がある。




