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不器用な風使いと西の魔女  作者: 雪形駒次郎
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淡い想いはブローディアの香りにつつまれて

私の父さまのところには、よく“お客さま”がくる。

お家にいる時は母さまと父さまと私で盤遊戯をしたり、お庭で食事をしたりする。

でも“お客さま”がくると父さまはお仕事になる。

書類をいっぱいもって、むずかしい顔をしてお部屋にいってしまう。

だけど、その日は、いつもとちがったの。

“お客さま”は、ふたり。

目つきのこわいオジさんと、優しそうなオジさん。

いつもはすぐにお部屋にいく父さまが、私を呼んだ。

“ご挨拶をしなさい”

おととい、ルーカス先生から合格をもらった挨拶カーテシーをして、エリン。5歳です、と言った。母さまも父さまもうれしそうで、そのままみんなでお昼を食べた。

優しいオジさんが綺麗な髪飾りをくれた。

こわいオジさんが本を読んでくれた。目も顔もおこっているみたいなのに、声はとても優しかった。



二人のオジさんはそれからも時々きた。多い時は年に数回。

父さんとオジさんたちは難しい顔でお話をする時もあったけど、私や母さまに席をはずさせることはなかった。そういう時は、きまって、こわい顔のオジさんが私と母さまの相手をしてくれた。オジさんは盤遊戯も札遊戯もつよくて、なかなか勝てない。

どうしてそんなにつよいの、ときいたら、コツがあるのだと言われた。

教えてやろうかといわれて、私はうなずいた。

“師匠”とよんだら、嫌そうな顔をされて、名前で呼べばいいと言われた。

レオン様、とよんだら、頭をなでてくれた。とても温かい手だった。



私は年々活発になった。裁縫よりも素振りの方が楽しいし、読書よりも野駆けの方が好き。

オジさんたちは、くるたびに私にプレゼントをくれた。

優しいオジさんは、実は隣りの国の王様なんですって!

王様は、ドレス生地や装飾品を、レオン様は、季節のお花をよくくれる。

レオン様をこわいとは、あまり思わなくなっていた。

あの方のキビキビとした立ち居振る舞いや、まとう雰囲気の厳しさは、あいかわらず。

だけど私にお花をくださるときは、目尻に笑い皺がよって、優しいお顔になるの。

それにレオン様のちょっと低めのお声は、とても聞きとりやすい。


10歳。

学術院アカデミーの友達のあいだでも、だれそれが好きだの、だれそれはお家同士がきめた許嫁がいるだのという話がでるようになっていた。

私はどちらかというと、思ったことをポンと口にだすタイプ。

だから、久しぶりにアーロン陛下とレオン様が訪ねてきた日の夕食の席で、その時も心にうかんだままに言ったの。

“もし結婚するなら、レオン様みたいに強くて、だけど優しいひとがいいな”

そうしたら。

ゴフッ

父さまとレオン様が飲んでいたワインにむせた。

“…いくらなんでも年が離れすぎだ!”って父さまが言うから、“父さまと母さまだってだいぶ離れているじゃない”って返したの。

“あらあら、まあ。”“一本取られましたね。”

母さまとアーロン陛下は楽しそうに笑っていた。

“こういう時は、父さまのお嫁さんになりたいvって、いうものじゃないのか!?”

って父さまに泣かれた。

…私は現実主義なの。



久しぶりにアーロン陛下とレオン様がいらっしゃる。

今までもらった中で一番お気に入りの髪飾りと、今年の誕生日に送られてきた大人っぽいデザインのドレスで、めいっぱいオシャレをする。侍女のマリアに髪を結ってもらって、母さまには唇に、色つきのリップクリームをぬってもらった。

父さまはずっと不機嫌だった。そしてこう言ったの。

“よく似あっている。だが、レオン殿は…もちろんアーロン殿のことも、異性として慕ってはいけないよ。嫁ぐことはできないのだから”

苦い口調でそう言う父さまの言葉に引っかかりをおぼえた。

『ダメ』や『許さない』ではなく、『できない』…?

…どういうこと?

やって来たお二人は、綺麗になったと私を褒めてくれた。

私は気になる事は聞かなきゃ気がすまないタイプだ。

だから思いきってレオン様にたずねた。

“父さまに、お二人とはぜったいに結婚できないと釘をさされました。理由をご存知ですか?”

苦笑された。

“お前は思ったことをすぐに口にする。そろそろ、声にだす前に一度たちどまるクセをつけないと。…ちょうど良い練習になるか。エリン、お前が、きちんと秘密を守れるならば、とっても素敵な事を教えてやろう。私たちがもっと仲良く、もっと近づくことができるとっておきの情報だ。どうする?”

レオン様が私をじっと見た。

“わかりました。私たちだけの秘密なのですね。内緒にします。他のことも、変なことを言わないように気をつけます”


12の歳の初夏。初恋は実らなかったが、私は、かわりに、二人の伯父を得た。

レオン様は正確にはもう少し遠い親戚らしいけど、まあ、似たようなものだ。

奇しくもその日私がもらった花は藤色の紫君子蘭ブローディア

守られている幸せをかみしめながら、私は今日も歩き続ける。

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