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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第八章:勇者一行と秘密の都市

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第二十三話:トロルの剛腕

―陸視点―




「――ムウゥゥゥン!!」

「……グ……クソがっ! そんな見つめられると怖いって!」



 最初に飛び込んだのは康太で。


 彼は渾身の一撃を振り下ろす。


 平打ちだから致命傷にはならないけど。

 常に最前線で戦端を開いてきた親友の攻撃はしかし、相手の嵌めたガントレットに阻まれ。競り合いの末、此方へ吹き飛ばされる。


 単純な魔物ならともかく。


 相手は人型の亜人なのに。


 身体強化した康太が力負けするのは、滅多にない事だ。



「こりゃ、一筋縄じゃねえぞ」

「そのようですね。では、陣形は対大型魔獣用…桐島君は中衛寄りに」

「「了解」」

「刃は大丈夫なの?」

「その辺は前衛二人に任せるわ」



 氏族長…ランディアさんを。


 殺すわけにもいかないけど。

 下手に加減などして返り討ちになったら、元も子もないから。


 平打ちは捨ててしまい。


 いつも通りに行こうか。


 前衛三人、後衛一人。

 一番攻撃的な陣形は。

 その分防御が薄くなるし、対多には向かないけど。

 気になるのは、こちらを伺うように周りを固める他のトロルたち。


 その為、康太は下がり気味。

 

 でも、様子を見るからには。


 他のトロルたちは戦闘に介入して来ないようで。

 


「……彼らは、参加しないんで?」

「このような面白い戦い、横槍は無粋だろうて」



 成程、戦闘狂なんだろう。


 こんな世界だし居るよね。


 こういう人も、沢山いる。

 とは言え…先程確かに見せた、相手を見透かすような瞳は……只の戦闘マニアという訳でもないだろう。



「潰れるが良い! ――双鎚(そうつい)ィ!」

「させ――うお――ッ!?」



 全員を対象に収めた鉄小手(ガントレット)の一撃。


 四本腕があるのは、本当に厄介だ。


 重要なのは、運動エネルギーの差。

 先程は一定の拮抗があった衝突も、今回は一方が圧倒的で。


 中衛の康太を吹き飛ばす彼は。


 追撃の手を伸ばすことも無く。


 真の狙いは――春香!

 後衛を潰す気だろう。

 短剣と拳…共に至近距離で効果を発揮する武器ではあるが、タフネスもスピードも持ち合わせている相手。

 増してや、不殺では。



 ―――あまりに相性が悪い。



 彼女自身それを感じて避けを選ぶが。


 既に、敵は射程内に迫っており。



「……ッ――マズ」

「女、お前から片を付けてくれる……波状鎚!」



 横殴りにするように放たれた一撃。

 空気を波のように震わせる拳撃だ。


 回避は不可……の筈だったけど。

 

 その剛腕は、しかし。


 後衛の更に遠方から。

 伸びてきた大剣に相殺され、弾かれる。



「やっぱりアンタ、合理主義だな。でも、ちょっとアレだ。吹き飛ばしてくれて、どうも」

「………猪口才な」



 間に合ったのは後方に飛ばされたから。


 ある意味では、敵のおかげでもあるね。

 

 康太の挑発にも激昂せず。

 ランディアさんは迫る包囲から逃れ、ゆっくりと後退していく。



「何故、護りを優先したのだ」

「何でって……何でッ?」

「殺気を感じなかった故、我の対応は遅れた。だが、女を捨てて直接攻撃をしてさえいれば、我を打ち破れた可能性もあったろう?」



 彼は言葉を紡ぎながらも。


 右、左と連撃を繰り返す。



「仲間は――ッ…守るもの、だろ?」 

「…………ほう?」

「アンタも――トロルさん達の長だって聞いたが」



 そして、康太は完全に防御に回り。 

 彼の鉄壁の守りが、何度も震える。


 油断していたつもりはないけど。


 やはり、動きも機敏で凄く強い。

 

 康太の言葉を受けたトロルは。

 あざ笑うかのように横蹴りを繰り出し、武器で受けた康太は砂埃を上げながら引き摺られる。


 ところで、忘れてないよね。


 僕たちも此処居るんだけど。



「――ッ……良い一撃だ、小僧」

「有り難うございます!」



 力の限り地面を蹴って跳び上がり。


 上からトロルに斬撃を加えるけど。


 そう上手くは行かないモノで。

 康太を攻撃していた物とは別の鉄小手で弾かれたまま、火花を散らして親友の隣に着地する。


 彼は引き摺られていたけど。


 見たところは大丈夫…かな?



「大丈夫? 摩擦で足からも火でてない?」

「ねえよ。そっちこそ、火花――」

「能力は買おう……が、甘過ぎるな」

「「へ?」」



 隣の康太は火属性使いだから。


 それもアリかなと思ったけど。


 互いの会話は遮られ。

 話に入ってきたランディアさんは首を振りつつ語り掛けてくる。



「貴様らには、ほとほと呆れ果てる。犠牲も出さず、敵も滅せず…甘すぎる考えよ。我は、大のために小を犠牲にする選択も取る」




「増して――」


 


「――敵に加減などせぬわ!!」




 両の口から発される、恐ろしい圧。


 再び進撃、連撃、追撃。


 康太と僕で彼を挟んで。

 両の脇で向かい打つも。

 それで尚互角に食い下がってくる彼は、とんでもないタフネスで。


 同時に相手取るように。


 俊敏に立ちまわる巨躯。

 長剣で押しとどめる鉄の感触は非常に重く、まるで岩に刺さった剣を押すようだ。  


 ああ、攻めあぐねている。


 二人でも、かなりキツイ。


 だからと言って、三人前衛は作れない。


 と……押し戻されたその時。

 美緒の手の動きが目に入る。




 ―――隙を作ります……と。




 了解。お願いします、っと。 


 彼女は攻撃魔術を使わない。

 それは扱えないという事ではなく、異能と剣術に集中するため。


 だから、魔術スタイルは。


 補助魔術に特化している。


 足場は、既に整っていて。

 土属性の魔術“築堤(ちくてい)

 踏み固められた土を盛り上げるだけの簡素な魔術であるが、魔力消費は多めという扱いづらい存在。


 彼女はその隆起を足がかりに。


 飛翔しつつ、鍔に手を掛ける。

 相手の拳の方が速いと分かっていながら、未だ抜刀もしていない、後手の状態で。


 しかも、刀の向きが逆だ。



「小娘が! 逆刃の剣……鉄の棒切れなど――」

「刃の無い鉄でも、身を護る事は出来ます。()()、守るために戦うんです」


「あたしたち、だよね?」

「はい、勿論です」


「――みずっ……この質量は……!!」 



 仲間を絶対に信頼している故の連携。


 拳は飛んできた水刃に弾かれ。


 発生した一瞬の隙が決定的だ。



「――グッ――ァ……クゥ」



 逆刃の一撃をまともに受け。

 彼の鉄小手が、大きく歪む。

 身体を金属で包んでいようと衝撃は内部へ伝わるモノで、一瞬硬直した筋肉は動きが鈍り。

 

 痺れは簡単にとれない。


 改めて、親友の異能が。

 あり得ないものであると分かり…同時にチャンスと自覚する。



「む…うぅぅ…これは、なかなかどうして――」

「さっきのお返しィ!」

「――ぬぅ! まだ終わってなど!」

 


 大剣の質量と本人の質量。

 その双方を目いっぱいに乗せた突進は、絶大で。


 揺れる、巨躯。


 親友の、視線。


 その期待、その好機。

 答えないわけには……いかないでしょ!



「―――陸、頼む!」

「了解ィ」



 あれだけの巨躯だ。

 押し倒すのは勿論、背中を地に付けるのも容易じゃない。

 斬り捨て、命を奪うよりも、相手を生かして無力化させる方が難しいから。


 だからこそ仲間全員で。


 四人で分散し対処した。


 美緒と春香が隙を作り。

 一度目、康太の突進で揺れ。

 二度目、僕がダメ押しの一撃を繰り出したことで彼を地に伏せる。



「…………ヌ……クッ」

「僕たちの、勝ちです」



 多頭種トロルの巨体へ馬乗りになり。

 その首筋に剣を宛がい、宣言を下す。


 四本の腕は油断ならないし。


 首筋が二つあって迷うけど。


 彼が動くよりも、僕が突き刺す方が速いのは確かだろう。


 でも、目的は殺傷ではなく。

 武器をゆっくりと離し、ランディアさんを開放する。



「今度こそ、耳をお借りしても?」



 問いかけ。


 油断なく反応を待つけど。

 彼は倒れた態勢のままで。


 不思議そうに笑う。



「……ふ。貴様、真に先程の男児か?」



 ――あぁ、いけないね。


 こんな筈じゃないのに。

 何時も一緒にいるからか、誰かさんたちの口調が移っちゃったようで。


 あと、戦いの興奮だね。


 口調が、やや攻撃的になっている気がする。



「僕たちは、話し合いに来ました」

「…………また、それか」

「信じてくれませんか?」

「――ユウシャ。その名には、特別な意味があるのだろう。だが、我はそれを知らぬ。人間どもにとって、我らは狩られるのみの存在。信に足ると考える方がおかしいだろう」


 


「何より、そうする事で武器を捨てさせ、一網打尽にすれば。効率良く我ら一族を狩ることも出来る」

「「―――ッ」」




「やはり、()()か?」

「違います! 私たちは、亜人や魔物だからと区別するわけではありません。互いの意思を確認し、一方が間違っていると思ったなら。例え誰であろうと、どんな種族でも、私達も一緒に戦います!」



 美緒が声を荒げるのは珍しい。


 (おもんばか)る時、心配する時…怒る時。

 彼女は相手を真っ直ぐに見つめ、対話する。


 決して諦めずに。


 ひたすら真摯に。


 視線を送る少女。

 ランディアさんも測るように眼光を向け。


 先に揺れたのは。


 二対の瞳だった。



「お主たちを信じろと? エルシードの指金であり、今初めて我の前に立ち塞がっただけの人間達を、信じろと申すか」

「信じてもらうしか、ないですね」

「持ってきたのはこの身一つなんで」



 ……………。


 

 ……………。



 ランディアさんが、ゆっくりと立ち上がる。

 それと共に、何かを見極めるように四つの瞳が動き。

 

 僕たちと交差する中で。


 長い長い沈黙があって。


 彼は脱力するように呼吸し。

 ゆっくり、己の拳を下げる。



「………お前たちの意思は分かった」



 彼もまた武器を降ろした…と。 

 静寂の中、仲間に視線を送る。



 刹那。




「―――愚か者共が! 何故敵から視線を離せる!」



  

 あぁ、こうなるか。


 不意を狙った合図。


 彼の瞳には初見の狡猾さを伺わせた光が宿っていて、幾重もの足音が大地を揺らす。


 武装したトロルたち。


 武器も…中には防具を纏っている者も多く。

 全員が明らかな戦闘態勢で。


 或いは、この対話こそ。


 彼こそが、囮だった?



「さぁ。貴様らの首、送り返してくれよう。あの女の顔が目に浮かぶわ」



 彼は獰猛に、にやりと笑うと。

 その巨体に似合わない機敏さで飛び退る。 

 

 後に残るは向けられる武器群。


 数十にもなるトロル種の軍勢。



 一帯は、完全に彼等に囲まれてしまっていた。

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