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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第八章:勇者一行と秘密の都市

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第二十二話:話し合うために

―陸視点―




「――成程。それが勇者達の総意、という訳ですか」


 

 それは、思った以上の重圧。


 身体が凍ったように動かず。


 震えを抑えるので精一杯だ。


 でも、ある種当然なのだろう。

 相手は二百年を生きる長命者。

 日々を魔物と戦う事に特化させていた僕たちでは、分野においての年季がまるで違うのだと理解した。



「――力で、押さえつけるつもりはないと」



 改めて、彼女は言葉を紡ぐ。


 …当然だろうけど。


 その表情は硬くて。

 此方の意図を理解しようと……或いは理解した上で、更なる言葉を欲している。


 

「勿論、依頼を放棄するわけじゃありません」

「双方の意見を聞いて、私たちも一緒に考えたうえで判断します」



 だから、此方も対話する。


 これが無いと始まらない。


 土俵にさえ立てないんだから。


 

「では、罠に嵌められれば? 交渉すら跳ねのけられたら?」

「その時は、大人しく転進です。何時でも逃げられるようにしっかりと判断して動きます。もし看破できなかったら……その時は、師匠の教え方に不備があったんですよ」



「――ふ……くくッ」



 視線を向けられた本人は。


 立ったまま苦笑していて。


 表向きか、別の意味か。

 僕たちの考えに反対しているようでもなく。

 異を唱えてこない以上、こちらを尊重してくれているらしい。


 もしくは……その逆で。

 一度痛い目を見るのも勉強の内と考えているのか。



 ―――でも、僕たち自身。



 獰猛な亜人種族の手に落ちる事が有れば。

 どのような末路を辿るかは知っている。


 何度も、何度も…うん。

 

 幾度となく悲惨な光景を目にしてきたから。

 だからと言って、可能性が確かに存在しているのに対話を避けるのは違う。


 だって、僕たちは。

 魔物を狩る【冒険者】である前に、心を救う【勇者】だから。


 物語の英雄がうたわれるのは。

 ただ、強かったからじゃない。


 力で全てを解決したからじゃない。


 時にはそれも必要だけど。

 過去の英雄たちは、確かな信念のもと、皆が笑い合う平和を実現するために戦った。

 だからこそ種族問わず、多くのものたちに賞賛された。


 亜人が治める国家でも祀られた。


 そんな勇者になりたいからこそ。



「僕たちで、話し合いに行きます。トロル氏族の長と」



 セレーネ様は、目を細めていた。


 その意思を読み取ることは出来ない。



「……では、任せるとしましょう。我らは座して待つ立場。どのような結末であれ、苦言を呈する立場にありませんが…良い報告を待っていますよ」

「「……………!」」



 どのような考えだとしても。


 それは、本当に嬉しい言葉。


 でも、一国の王様に対して。

 少し…凄く横柄だったかな。

 双方の反発を得るのが、最も避けなければならない事だ。


 それじゃあ、解決するどころではないから。


 しかし、彼女は僕たちに託してくれたのだ。



「「有り難うございます!!」」



 だから、大きく頭を下げ。


 最大限の謝意を伝える。


 勇者なんて言われても。

 結局の所は何の権力があるわけでもなく…頭を下げて減るようなモノは何も持ち合わせていない。


 でも、ある意味では自由だからこそ。

 多くの人に頼られるんだろうね。


 ……そして、決まったのなら。

 

 後は愚直に進むのみ。

 出来得る限りの装備を整えた僕たちは、すぐ出発する事になった。




  ◇




「うおぉぉぉ!!」

「ウオォォォ――ォォッ!?」


「ねぇ。やっぱり康太って魔物寄りじゃない?」

「……ふふっ」

「確かに、獰猛だもんねー」



 女の子たちに対しては。


 すごく初心だけどねー。


 雄たけびをあげて掛かってきたトロルは。

 同様に雄叫びを上げる彼によって打ち倒される。最前線で活路を開いていく彼はしかし、まるで疲れた様子を見せず。


 どれだけ負荷がかかっても。


 すぐに疲労が回復するのだ。


 こと継続戦闘において。

 彼の持つ【リカバリー】はとてつもないポテンシャルで、極論を言えば何日だって戦える。


 その側面は僕と美緒が補強し。


 後方は春香が援護してくれる。


 四人いれば、問題なく対処できる範囲内だ。


 しかし、だからと言って。

 油断して良い訳じゃない。

 確かに総合値はこちらが上でも、膂力や体格で負けている分、捕まったら非常にマズい。


 ボキボキならまだしも。


 グシャリはちょっと嫌だ。

 そうなれば、流石に治癒は難しいから。



「――美緒ちゃん!?」

「大丈夫…です。全部同じ手順をしているだけ――ですから」



 陸上選手のような前傾姿勢のまま。

 或いは、それ以上に前のめりで。

 閃光のように走り続ける美緒は、理論上できる最大限の速度を出している。


 少しでもズレれば転倒し。


 角度を誤れば一瞬で致命傷を負う。


 最短最速と言うは易いけど。

 本当にやるのはあまりに危険な行為。


 

 ―――だけど、彼女なら問題ない。



 美緒の異能は完全再現を行える【ラウン】

 一度成功さえしてしまえば。

 それこそ、連続して超人的な身体能力を発揮することが出来る。

 滑らず、違えず、失敗せず……。


 千に一つ、万に一つのミスすら潰す。


 決して、運に身を任せない闘い方だ。



「……いやさ。ヤバいだろ、アレ」

「ぶっ壊れだよねぇ、美緒ちゃんの異能……と本体」

「要するに、全部だよなぁ」

 


 皆そうなんだけどね。

 彼女のソレは、応用性がとにかく広い。


 あと、春香の言う通り。


 本人の力量も凄まじい。


 ―――でも。


 やり過ぎ禁物なんだ。


 頃合いを見計らって。


 そろそろとばかりに。

 彼女の横から前へと出て、役割を変わる。



「さぁ、次は僕が前に出ようかな」

「……陸君?」

「無理し過ぎ。負荷がかからない訳じゃないんだから」



 身体を強制的に追いつける異能。

 故に、短時間で何度も行使すれば五体は悲鳴をあげる。


 今だって我慢している筈だから。



「一人で無理はしない――でしょ?」

「……はい。スミマセン」



 あの時は恥ずかしかったけど。


 でも、本当に嬉しかったから。


 決して一人が先行せず。

 皆で戦うという事を、忠実に守って走り続ける。

 今回の目的は偵察などではなく、完全な話し合いになるため、当然に一番偉い人がいる場所まで直行するつもりなんだ。



「結局の所、どんな場所だと思う?」

「オークさんコロニー」

「……アレと同じは嫌ですね」

「前情報通りならあり得んだろうけどな。実際の所は、もうちょっとマシであって欲しいというか」



 ……………。



 ……………。



 拓けた一帯。

 大森林の最奥にあって、地表が剥きだしたへそのような場所は。


 まるで…まるで。



「――集落じゃん。農村部じゃん」

「普通に住めそうだな」

「どう思います? 陸君」

「……やっぱり、想像と同じ。凶暴化しているようには見えない」



 思わず、辺りを見回す。


 家屋があり、井戸があり。

 どう見ても可食植物と分かるものが生育されていて。


 これまで魔物の築いたコロニーを見たことは何度かあったけど、それらとはまるで異なる。

 流石にエルシードとは比べられないけど、十分に人が住める設備だ。



「ゆっくり見ている暇はありませんね。――来ましたよ」



 あぁ、当然にそうだった。

 ゆっくり物見遊山している暇は無く。

 ぞろぞろと集まってくる人型の魔物と、その中心にいる存在。


 とても、異質な外見だと言えた。


 茶色の体毛に違いは無いけど。

 二つの頭部があって。

 二対の腕が伸びる姿。

 異形と評して良いその姿は、トロルの上位、【多頭種】だ。



「キサマら。ナニゆえワレらがリョウイキにアシをフみイれた」



 最初から、言葉が分かる。

 僕たちがどのような存在であるのかを理解している。


 


「僕たちは、見ての通り人間です」

「貴方が、氏族長ですか?」

「……イカにも。ワレこそがシゾクチョウ――」


「あぁ、うん。それ嘘!」


「「――了解ィ!!」」



 春香の異能【テクト】は。


 言葉の真偽を見極める力。


 彼女の言葉にすぐ思考を切り替え。

 改めて姿勢を正した僕たちは、その巨体に向かって突進していく。



「………ッ!? キサマなぜ――ブヘ!?」

「「******!!」」

「ティアスサマ!」



 確かに聞いていた特徴通りだけど。

 上位種が必ずしも一体だけだとは、誰も言っていない。


 こっちも急いでいるから。


 囮に付き合う暇は無く、通り抜ける。


 ……だって。

 如何にも長が居そうな建物、目の前にあるし。


 倒れ伏した多頭首に構わず。


 トロルたちを警戒しつつも。

 

 掛かってくる者たちだけを昏倒させつつ歩を急がせ、そこへと到ると……あぁ。


 やっぱり、いた。


 先程と同じく、異形の姿で。

 二つの頭と二対の腕を持ち。

 

 しかし、その印象は。


 全く異なるモノだね。


 手に嵌まるは鋼鉄の輝きを持つ小手…ガントレット。

 全身に装備を固め、万全の状態で立ちはだかったトロル。ならば、先ほどまでのトロルたちは時間稼ぎだったのだろう。



「賊とは聞いていたが……何者だ、貴様らは。我が弟を討ち取ったのであれば、生中な実力ではないであろうが」



 言語は、より堪能。

 訛りや違和感が感じられない程に翻訳がスムーズで。


 彼は、高い知性を持っている。

 その眼はこちらを見極めるように細められ。やや毛深い、獅子を彷彿とさせる姿でありながら、大鷹のような狡猾さを感じさせる。



「討ち取ってはいません。皆、昏倒させただけです」

「……なに? 何故、そのような手間を」

「あたしたちは勇者です」

「話し合いに来ただけなんで」



 確証が取れたのなら。


 次こそは対話の時間。


 偽らざる真実を話し合うため。

 僕たちも最初から、真実のみを伝える。


 ……が、しかし。


 二人の言葉へと。


 多頭首のトロルは怪訝な顔をした。



「――ユウシャ? ……いや、知らんな。それは何かのまじないか?」



 初めてとも言える反応。

 あまりにそっけない返答を受け。


 仲間へ視線を送る。



「それは、ちょっと予想外なんだけど?」

「……らしいっすよ、親分」

「どうしましょうかね」

「……どうもこうも…ねぇ?」 

「では、話を変えます。僕たちは、エルシードから依頼を受けてきました。不殺は、当然の誠意です」

「――あの、女狐」



 忌々しそうに呟く多頭首。

 どうやら、互いに認知はしているようで。


 猶更ここで引くわけにはいかなくなった。


 意地でも話を聞いてもらわないと。



「貴様らの言いたい事は分かった。……が、その話とやらを我が聞く義理は――ないであろう?」



 あぁ、実際その通りで。


 対話とはそういう物だ。


 一方にでも歩み寄る気が無ければ、成り立たぬもの。


 既に戦闘意思を持っている相手。

 そういった存在に聞く耳を持たせるには。



「……話、聞いてもらいますね」

「ほう? では、くるか。客人はもてなそう」



 これが彼等の歓待。

 凄く楽しそうだね。


 ―――彼自身が。


 互いに武器を構え。

 ニヤリと笑うトロルは、声高々に宣言する。

 


「――我は氏族長ランディア。来るが良い、名も知らぬ人間たちッ!!」

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