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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第八章:勇者一行と秘密の都市

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第十三話:ハ〇エースされし者

―陸視点―




「あんまりジロジロ見ちゃだめだよ?」

「……え? あ、あぁ」



 まるで、上京した若者のように。


 周囲を落ち着きなく見回す康太。


 それが景色だけならともかく。

 知り合いでもない人物たちを注視するのは、かなりマズい。


 美人さん達ばかりだからね。


 仕方ない事なんだろうけど。



「――本当に、エルフさん」

「お耳…フニフニ…フニフニです。絶対」

「……美緒?」

「もう、野郎の耳でも良いかなって」

「……康太?」


 

 皆がおかしくなっているけど。


 最後以外、僕も納得してしまう。


 注視しなくても分かる。

 特徴的と言える長い耳。

 髪色は赤や水…灰色など様々だけど、皆が皆美形で。


 何より、長身らしく。

 筋肉質とは対照的なすらりとした体型だ。


 視線は、僕たちからだけでなく。

 向こう側も足こそ止めはしないものの、こちらを興味深そうに…そして、測るような眼差しを向けてくる。


 綺麗なのはそちらだけでない。

 住居はしっかりとした材質の木材っぽいけど、白樺なんかよりも余程白く。


 森の中に存在する筈なのに。

 規則的な街並みは、まるで。


 ベネチア…ヴェネツィア?


 水の都、そのモノで。


 細部に行き渡っている水路は。

 太陽の光に当たって煌めき。

 目にも、肌にも、確かな涼しさを覚えさせてくれる。


 でも、これは恐らく。


 視覚的な作用だけじゃない。


 この街並みは景観という点でも凄く綺麗だけど…どちらかというと。

 実用的な側面が伺えて。


 そのカタチは、まるで魔法陣。



「水が…水路が魔力も一緒に運んでいるのですか?」

「流石ミオ、良く分かったね」


「………あ、ホントだ」

「どういう事なんですか?」

「技術の一つだよ。軽く解説するのなら――」



 曰く、魔力を運搬する方法の一つ。

 鉄塔や電信柱のようなものらしい。


 相応に高い技術力が要求され。

 彼等が魔力の扱いに長けた種族である故と、賄うべきエネルギーが、この都市だけで済むからこその活用術。


 仮に大国がやろうとすれば。


 すぐに破綻する理論だとか。


 城壁を築く都市は多いけど。

 この世界では、何処の国も。

 技術の粋を凝らして、護国の手段を講じているんだね。


 ……でも、これはまるで。



「クロウンスの聖女像と似てる?」 

「そういえばそだな」

「あっちも、魔力を自動で作ってたね」

「というのも理由があって。理論構築者は、ロンディ山脈の向こう――北側にある国家に生まれた初代地の聖女だ」


「じゃあ、同じ人が?」

「そうなる。水路(これ)に関しては双方の共同開発だが、想像主が同一人物だからね」



 水路も、あの像も同じ人。


 やっぱり、どの世界にも。

 技術を躍進させる天才が生まれるものなんだ。



「では、そちらの国も?」

「ああ、技術大国として栄えている。小人種の王が治めているよ」

「聖女も、居るんすよね?」

「いるとも。ロマンだね」

「……いつか行ってみたいね。小人さんも殆ど会ったこと無いし」



 聖女は、風の聖女以外。

 国家が保有しているし。

 会うのは、難しいだろうね。


 現在話題の小人と言えば。

 やっぱり、鍛冶が得意。

 鉱石を採掘し、武器を鍛え……頑固である。


 それが僕たちのイメージで。


 これらは、全て地球の知識。

 アニメや小説のままだけど。

 実際、この世界の文献においても同様の記述がされていることが殆どで、イメージがズレるようなことはほぼない。

 彼等は、ずんぐりした体躯を持ち。

 体高は、最大でも一メートル後半。


 女性ともなると本当に低いらしく。

 夫婦なのに、他種族からすれば、親子が連れ添っているようにすら見えるとか。


 で、今回の半妖精だけど…。 


 彼等は、基本的に菜食が主。

 特別な日にはお肉も食べる。

 宗教的な禁忌も持ち合わせていないから、基本的には自由な食生活だ。


 で、長い寿命をもっているから。

 娯楽には飢えているらしく。

 時々、国や里を出て、外の世界へと冒険に出る個体もいるという。


 その末路がどのようなものかは。


 本人のみが知っている事だろう。



「さっきの話ではないですけど」

「……ん?」

「この世界にはハーフエルフは居ないんですよね?」


「公には、居ないとされるね」

「「おおやけ?」」

「より始祖の血が濃い程、耳が長くなるとも言うし、選民思想や差別があるのは確かだ。だから、あまり触れないようにね?」



 上位種のハイエルフも。

 ハーフエルフも居ない。

 全て半妖精種という種別に該当するらしく。


 だけど、どういう訳だか。

 優劣をつけようとする者たちは一定数存在するとの事。



「難しい話ですね」

「何でだろね」

「じゃあ、王族とかはやっぱり――先生?」



 新たな疑問を尋ねようと。

 彼に言葉を投げるけど。


 上の空というよりは、疑心暗鬼。

 そこかしこに油断なく視線をやっていた彼は、声が届いていない様で。


 僕は、改めて声を掛ける。



「先生、大丈夫ですか?」

「…あ、あぁ。何かな?」

「王族のエルフさんたちは、やっぱり耳が長いんですかね?」

「ああ、そうだ。基本的に長くなる傾向にある。とはいえ、隔世遺伝子で突然変わるものだから、一般の者でも個人差があるね」



 しかし、帰ってきた答えは明確で。


 そこまで深刻ではないのかな。


 彼はどちらかというと。

 困ったような感じだ。

 思えば、依頼を受託した時も、乗り気じゃないような雰囲気があったし。


 ――もしかして。


 何か心配がある?



「先生、悩み事………ないか」

「はい。ないですね」

「コラ、大人を虐める物じゃない。…あれ? 元気っ子たちは何処へ?」

「「……あれ?」」


 

 いつの間にか……いつも通りか。


 康太と春香が居なくなっていて。



「本当によく居なくなるね、あの二人は」

「どこ行ったのかな」

「遂さっき迄は居た筈ですから…あ。あそこに」



 美緒の指さす先では。

 康太たちが、誰かと話をしているらしく。 


 視線は下に向いているようで。


 二人の身体で陰になっている。


 やや、目線をずらすと。

 二人と一緒にいるのが。

 小さな子供であることが分かって。


 エルフの実年齢は分からないけど。

 青年期までの成長は人間と同様らしいし、本当に見た目通りの筈だ。


 取り敢えず、合流のため近づき。


 彼等の会話に耳を傾ける。



「――にんげんさん、本物?」

「はい。何を隠そう、あたしが人間さんです」

「人間さんその2です。怪しい者です」


「……あやしいの?」


「「あやしいかも」」 

「あやしいんだ。じゃあ、やっぱりにんげんさんは怖いの?」



 話が見えてこないけど。


 多分、何時ものお節介が発動していると見た。



「――という訳で、人間さん3号と」

「その4です。あと、あそこにいる本当に怪しそうな男性が不審者さんです」

「「……ぷっ」」

「美緒、言うようになったね」



 美緒と一緒に二人に合流し。

 僕たちも状況を確認する。

 僕は遠くでスタンバイしている不審者さんの苦笑いを確認しつつ、吹き出している康太に何があったのかを尋ねる。

 


「で、何やってんの?」

「いやさ。母親とはぐれたっていうから」

「あたしたちが騒いで、お母さんが探しに来るのを待ってんの」

 

「……成程?」

「流石、というべきですね」



 確かに、天災の発想だ。


 普通、一緒に探すとか。

 聞いてみるとかなのに。

 こういう考えが浮かんでくるから、二人は凄いんだよね。



「それで、自分たちが迷子になったら世話ないけどね。まぁ、あまり遠くに行っていない様なら――」

「ふしんしゃさん!」



 やって来た先生に。


 女の子が嬉しそうに話しかける。


 どうやら、彼女は。

 完全にそう覚えたようだ。



「……ご紹介どうも。最近、ハルカたちに毒されてきていないかな? ミオ」

「さて。先生の教えが良いのかもしれませんね」

 


 両方じゃないかな。

 かつての彼女からは想像もつかない弾けたジョークだ。


 人間を興味深そうに観察する少女。


 その相手をしながら。

 辺りを伺うこと暫く。



「――シア! 良かった!」

「お母さん!」



 これだけ注目を浴びれば、ねぇ。


 遠くにいても分かるというもの。


 深々と頭を下げる女性に。

 年長者である不審者さんが対応する。



「何とお礼を申し上げたら良いか」

「いえ、連れは人助けが何よりも大好きなので。……奥さん、もしやリアノール氏族の?」



 流石、不審者さんで。

 情報収集に余念なし。

 というより、知識量が凄いんだ。


 僕は知らない言葉だけど。


 女性は、驚いたように頷く。



「あら? よくご存じで…まぁ。人間種の方ですか」

「「こんにちは」」



 目を瞬かせる半妖精の女性。

 しかし、敵意のようなものはない。


 ただ、人間がいるのが意外なんだろう。



「良かったです。お家が分からないみたいだったので」

「はい。実は、私たち親子も偶々この国へ訪れたところだったので。本当に、ありがとうございます。…ほら、シアも」

「うん! ありがとうございます!」

 


 元気な挨拶を残して。


 二人は、ゆっくりと歩いていく。

 仲のよさそうな親子だね。

 ああいうのを見ていると、こちらも元気が貰えて。


 取り敢えずは一安心だろうか。



「人攫いとかじゃなくて良かったですね」

「近頃は、不審者さんも辺りをうろついているみたいだしな」


「あと、怪しい四人組もね」

「その通りなんだろうけどね。この国に限っては、そういう事もないと思うよ。エルシード国内は生粋の狩人である彼らの独壇場。人の目に触れぬ裏通りでも、不埒な真似はできないさ」



 なら、良いんですけど。


 本当にそうならば。

 猶更、彼が辺りを気にしているのかが。


 凄く疑問なんだよね。


 指名手配されてるとか?



「先生。本当に、どうかしました?」

「……何が?」

「凄く、挙動不審なんですけど」

「そこは、ホラ。私は不審者らしいしね」



 それは、今更というモノで。

 尋ねるまでもない事だけど。

 相変わらず、先生は落ち着かない様子だし、何かある気がしてならず。



「恨みとか、変にこじれた関係持ってないですよね?」

「……うん。多分、大丈夫」

「何か、怪しいよね」

「もし、仮に、百歩譲ってそうだとしても、国としての体裁があるんだから、向こうも凶行に走ったりなんかしないさ」


「「……ホント?」」

「ホントホント。ワタシワルクナイ」



 ……どうしよう。


 凄く怪しいんだけど。


 辺りを見回す彼は、まるで。

 そう。まるで自分に言い聞かせるように。


 僕たちに聞かせるように。


 良く通る声で言葉を続ける。



「そもそも、平和な国の往来で拉致なんてことを――」


 

 グイッと伸びた手に。


 ヒョイッと掴まれて。


 パッタンと閉じた扉。


 そして、車輪の回る小気味良い音が…ゆっくりと遠ざかる。



「「……………」」



 それは、一瞬の出来事。


 馬車に引きずり込まれ。

 すぐ見えなくなる身体。

 悲鳴を上げる暇もなく、何か言い残す暇もなく。 


 何かがおかしいと。


 頭が混乱している。

 でも、何がおかしいのか…ちょっと分からない。



「――なあ、皆」

「「………あ」」

「俺の目がおかしくなったわけじゃないよな? なッ?」



 暫く放心していた僕たちは。

 やがて、一足早く我に返った康太の言葉で我に返る。



 ああ、間違いないよ。


 これは、紛れもなく。

 


 ―――先生、拉致(ハ〇エース)された。

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― 新着の感想 ―
拉致は草
2025/06/21 23:14 じんしゅー
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