表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/110

94:……でも、かわいそうにも見えました

「取り戻す、ね」

「えぇ、取り戻して、ほしいのです」


 答えは、予想外の答え。


 よく分かっていない。

 けれど、取り戻すという表現に違和感がした。

 何がどうしてそこに違和感を持つのかは、今から考える。


「……取り戻す、ということは現状奪われている。

 または所有権がない、ということでしょうか?」

「そこは実際にお考えになってください。

 私から全てを話すと、依頼した意味がなくなる」


 宵が正に俺が思っていたことを質問してくれる。

 それに、


「能力、ってのはここでは超能力を指している、ってことでいいんだよな?」

「えぇ。

 間違いなく、私達の指す超能力を指しています」


 超能力が奪われている?

 超能力の所有権がない?


 有り得ない。


 それはありえない。


「ムスビ」

「分かってる。

 だからこそ、この依頼が意味分かってないんだよ」

「……そこまで深く考えないでいただきたいです。

 現状の情報で十分にたどり着けます」


 校長は、そう話す。


 ……おい。


「膳材流」

「はい」

「目的を話してもらおう。

 依頼というからには、報酬が存在するはずだ」


 俺らは一応だが利益を目的に活動している組織である。

 そのため、依頼というからには報酬が存在しているはずだ。


「それなら、報酬とは別に話しましょう」

「……そんなに大サービスされると疑っちまうぞ?」

「いい顔ですね。

 私の知っているあなただ」


 被瀬の事は、俺らの考えているよりも重大なことだと思う。

 それこそ、世界を揺るがす程だ。


 先程の話でも、世界が動かないといけなくなる、とは思っていたが、恐らくそんな程度ではない。


「膳材流が学校の校長をしている、ということで気になってたが、これが目的なのか?」


 それを知った時、最初はもっと大それた何かをしていると思っていた。

 けれど、この学校で別に軍隊を作っている、次世代の英雄を育てている、という話は聞いてないし、それに足る人材は今のところでは俺は知らない。


「えぇ」

「……おいおい、ほんとに話すとは思わなかったぞ?」


 俺の知っている膳材流は、自身のことを未来に含めない。

 自分が動くことに寄って変わる未来はたくさんあったろう。

 だが、それを知っているのだろうが、何も変えない。


 それこそが俺の知っている膳材流である。


「私の悲願です」

「そこまでしてすることを俺らに依頼するのか?」

「だからこそ、ですよ」

「……で、目的は?」


 膳材流は、何時も通りそこにいる。

 けれど、こんなにも人っぽいのは初めてだ。


 今までの膳材流は、そこにいるだけの存在だ。

 まるで人の皮を被った何か。

 それが、どうしてか今は、


「これから起こる大戦を中立にするためです」


 無言。

 俺も、宵も、何も話さない。


「めちゃくちゃ気になるが、それを聞いても答えてくれないのだろう?」

「ここまでなら大丈夫ですが、ここから先は話すと未来は急激に変わります」


 大戦?


 対戦、なんて気軽なものではないだろう。


 大戦。


 戦争ならまだしも、こいつは大戦と話した。


「……ワタクシには、教えてくださらないのですね」

「えぇ。

 あくまで私は壱と話しているのですからね」


 ……宵は今の言葉が聞こえなかったのだろう。

 普通ならできない行為だが、膳材流だったらできること。

 宵は歯噛みしている。


「俺から宵に伝えることは?」

「不可能です」

「これから大戦が起きる」


 ……無言。


「聞こえたか?」

「いいえ」

「そういうことです」


 膳材流は、自身だけでなく、他人にも能力を行使することができる。

 俺の場合は慣れればいいのだろうが、俺自体が膳材流の能力に慣れることができない存在にされている。


「本気で破った場合は?」

「その時は周りを聞こえなくします」


 そして、俺がどうにかできようとも、それを膳材流は知っているし、それに対して周りの人間の存在を変更すればいい。


 強すぎる。

 だけど、だからこそ、


「中立、なんだよな?」

「えぇ、間違いなく」


 膳材流は自身を中立にした。

 それはどういう考え、どういう経緯で至ったのかは明確には分からない。


「……分かった」

「……ムスビ、いいのですか?」

「いい、とは一概にいえないけど、こいつが中立を保つ、って言ってんなら、それは俺にとって最高だ」


 俺は校長を見上げ、


「中立になるなら、俺は絶対に勝てる」



☆☆☆☆☆



「で、どうするんですか?」

「別に? 何もしないよ?」


 校長と話し終え、依頼を本格的に受けることになった俺は、宵とともに教室を出た。


「何もしない、とは?」

「俺からは、何もしない」

「……依頼を放棄する、ということですか?」

「別にそういうことじゃない」


 無体への依頼は一国が動く量の金が積まれる。

 今回はどこから用意したのかは知らないが、その数十倍の金を用意した。

 しかも、金をそのまま、というわけではなく、その分の金を存在として契約した。


 つまり、価値に関係なく、変動しない価値をもらったというわけだ。

 そこらの取引とは信頼性が違う。


「俺らが何かをすることを予想しているのなら、膳材流はそれを込みで依頼してくる。

 例えば、俺が被瀬に勝負を挑むなら、挑んでくださいってな」

「だから、何もしないことが正解、ということですか」

「そうそう。

 俺は何もしないでも、勝手にそうなってくれる」

「ということは、以来の内容から鑑みるに」

「何もしなくても、俺はこのまま行けば、被瀬の能力を取り戻す場面に遭遇する」


 なんともまぁ都合のいい話だが、膳材流はそれをすべて知っているからこそ、あんな適当とも取れる依頼をしたのだ。

 膳材流にそういう存在なのだ。


「それにしても、何故ワタクシに伝えてくださらなかったのですかね」

「落ち込んでんのか?」

「今更、膳材流が何をしても、そういうものなのか、と理由も思いつくのですが、今回の話は何故ワタクシには伝えず、ムスビには伝えたのだろうかと思って……」


 確かに、膳材流の言葉には、行動には意味がある。

 それも結構ちゃんとした意味がある。


 だからこそ、それを考えるまでも無く膳材流を疑うのは馬鹿らしくなるのだが、今回のは確かにわからない。


「俺でも変えることができないからこそ教えた?」

「でも、それならばワタクシに教えてもらっても大丈夫ですよね」

「……確かに」


 割と膳材流の決定には別に疑いはなかったのだが、言われてみると思う。


「……ムスビに、変えてほしかった?」

「どういうことだ?」

「ムスビに、この情報を教えることまでが、中立への方法?」


 そう言われてみると、そう感じなくはないのだが。


「あくまで可能性、だな」

「えぇ、そうですわね」


 俺らは可能性であると思考を変える。


「第一、未来を理解できる存在である、とかおかしいと思いますわ」

「わかるわ。

 俺もずるいと思う」

「……それならどうして膳材流はこうして中立にこだわっているのでしょうかね」

「……ノーコメント」

「知っているのですか?」

「あぁ」


 昔、直接聞いたことがある。

 その話は当時信じがたかったが、今だと笑い飛ばせないくらいのものだ。


「なんで教えてくれないのですか?」

「多分教えても記憶を消される」

「……どうして、ですか?」

「別に俺は教えても悪くはないと思うんだけど、本人が嫌がっているっぽい」


 実はこの話、既に何人かにしたことはある。

 覚えていられているのは、いない。


 俺だけが覚えている。


 なんで俺が見逃されているのかわからないけど、これも何か意味があるのだろう。

 まぁ、無くてもあっても知っているだけで何かが変わることは無いと思うけど。


「……なんでそんな怖いことをするのでしょうかね」

「色々あるんだろ?」

「それは、知らないんですね」

「そうだよ」


 別に膳材流のことで隠すことはない。

 俺の知っていることだって、膳材流が許可した事を覚えている、とも考えられる。


 というか、記憶改変に関しての記憶も消されるため、もうどうにもならない。


「……でも、かわいそうにも見えました」

「かわいそう?」

「まぁ、感想ですが」


 宵は、腕を上げて、伸びをした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ