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78/110

78:そして、私の最強は、終わった

 勝負が始まり、2週間と3日が経過した。

 現在のソロランキングの状況は、


 秋元茜、1位

 柊真冬、3位

 被瀬結、4位

 覆瀬結、5位

 美加久市露、6位

 石神空汰、9位

 堂上協、10位

 創路衣良、16位

 大手城後、17位

 石神豪雷、20位


 である。


 ここで杉崎第一高校のランキング戦のルールを確認する。


・一日に申し込める試合数は3回

・一月に3回試合をできなかった場合、ランキング順位を降格。

・上位5位に対して試合を申し込むことが可能。

・勝利した場合は、勝利した相手の順位になる(それより下は繰り下げ)

・申し込まれた試合は、正当な理由がない限り拒否することは不可能


 ということである。

 つまり、茜を倒すためには六位以内に入ることが必要である。

 しかし、現2位であり、風紀委員委員長の大川兎は他高校への交流転校生となっているため、現在ランキング戦を行うことが不可能である。


 そうして、残り日数は今日を含めて4日。

 全員が一位圏内に入っている。

 そして、今日から始まるのは、最大級のぶつかり合い。


 秋元茜は負けられず。


 被瀬結は勝たなきゃいけない。


 堂上協は誰と戦うことを選択するのか。


 柊達は確かに、今までは『死んでほしくないから』というもっともな理由で戦っているが、反対の立場で見てみれば、どうであろうか。


 ここから、視点は『深奥を目指す者たち』へと移っていく。



☆☆☆☆☆



「待ったかい?」

「いいえ、待ってないですよ」


 私は、秋元茜。

 忘れがちだが、この学園で最強と呼ばれている人物である。


 今ではムスビを抜かないといけないが、それでも上に一人強い人が現れただけだ。

 でも、まだ彼はこの一位という席には座っていない。


 だから、まだ私は最強である。

 負けるわけには行かない。


 私は、深奥に至りたいのだ。


「真冬はここまでよく上がってこれたものだな」

「ありがとうございます。

 私も強くなったんですよ」


 目の前にいるのは、柊真冬。


 能力的な適性としてはソロランキングに向かない。

 しかし、この三位という場所まで登ってきた。

 それは、なぜなのだろうか。


 ランキング戦は、基本的に見学自由である。

 そして真冬は勝負が始まった段階でランキング戦を登り始めていた。


 だから、見に行った。


 だけど、分からなかった。


 なぜ彼女が勝てているのか。

 ユイにもよく見てもらったが、能力を発動しているということ以上に分かったことはなかった。


「子の後は確か”受け”の方もあるんじゃないかい?

 私と先に戦っても大丈夫なのかい?」

「はい。

 次はユイちゃんと戦う予定なので、大丈夫ですよ」

「……そうか」


 真冬の言葉からは、不安という要素が見つからない。


 それこそ、当たり前のことを話しているかのようだ。


 三日前、ユイから忠告を受けたとおり、


「どうやら、本当に強くなったみたいだね」

「そうですよ。

 本当に強くなったんですよ」


 笑いながらそう話す少女は、どこか得体のしれなさを感じさせた。

 身震いがする。

 目の前にいるのは、私の思い描いている柊真冬ではない。


「私も、しっかりと本気で戦うとしよう」

「本気で戦うって……」


 真冬は、ため息を付いて、


「本気じゃないとても足も出ませんよ?」


 これだ。

 当たり前のことを話しているように、おかしいことを言ってくる。


 なんだろうか。

 この圧倒的な強者の雰囲気は。


『それでは、

 ランキング一位、秋元茜。

 ランキング三位、柊真冬。

 両者の試合を開始します』


 私は、構える。

 それは、自然体だ。


 使うのは、一つ。


 撫上。


 それを使えば真冬だって一撃で倒すことができるはず。

 しかも能力を使って近づけばそれだけで退場に至るやけどを起こすことができる。



 現在に至るまで、私達と真冬側との衝突はなかった。

 それは、お互いに順位を上げることを重視しているから、ということもあるだろうが、それ以上に対策を取れないようにする意味合いも見えた。

 このタイミングで相手を任すことができれば、新しい戦略を持ってきても、それは所詮付け焼き刃。

 叶うはずもない。


 だからこそ、今日からの3日は戦争だ。

 それこそ、私が負ける可能性もあるくらいに。



『3』

「ふっ」

「どうしたんですか?」

「いや何、少し思い出し笑いだな」


 私は、自身の思考に疑問を持つ。

 負ける可能性?


『2』

「私は、負けないよ」

「私は、勝ちますよ」


 私はここで、気づかなかった。


『1』

「私は、最強なんだ」

「いいえ」


 自分が、『負けない』という言葉を使っている時点で、負けていることに。


『始め!』

「わたしが、さいきょうなんです」


 試合が始まって反射神経の赴くままに、撫上を使う。


 能力を使用することによって、私の体は高音になる。

 体は動かすと高音になる。

 だが、私の能力は動かずして体を高温にすることができる。


 そのため、高温の体にふさわしい身体能力を持つことができる。

 だからこそ、この撫上を習得することができ……


「は?」

「だから、言ったでしょ?」


 私は、疑問を覚えた。


 身体能力が向上するが、感知能力が向上するわけではないので、私はこの身体能力に対して目が追いつかない時がある。


 なので、撫上を使ってしまうと、ぶれた景色の直後に、目の前に敵がいるのだ。

 だから、それを待っているのに、その光景が訪れない。


「私……は?」

「地面に倒れていますよ」


 私の視界は真っ暗だ。


 そして、真冬に言われて気づく。


 私は、地に倒れている。


 うつ伏せで。


「何が……」

「会長」


 私は、体に力を入れようとする。


 だが、力が入らない。


 そこで私は、真冬の戦いを思い出す。


 真冬と戦ったものは、開始の合図とともに、動かなくなる。

 そして、しばらく動けないことを悟ると、真冬が降参するように促す。

 それに拒否すると、対戦相手は怯えたような表情を浮かべ、自分から降参の意思表示をする。


「降参してください」

「私は……何をされているんだ?」

「……それを聞きますか?

 もう負けるのに?」

「負けるからと言って次がないわけではないだろう?

 次のために聞きたいのだよ」


 私は、言葉を話せることを良いことに、動けるかどうか試行錯誤してみる。

 そこで、気づく。


 動けないわけではない。

 体が硬直してしまっているだけだ。


 まるで、神経を止められたように、私は動きを止めている。

 体が私の意思とは別に、動きたくないと言っているようだ。


「言いません。

 会長はここで最強をやめて、私に負けるので。

 それも、何か分からずに負けるので」

「……っそうか、そういうことか」


 私は、そこで体を動かすことに成功した。


 しかし、それは首だけだ。


 顔を上げると、そこにはニッコリと笑みを浮かべた真冬の姿があった。


 と今顔を上げれたのは、偶然だ。


 そう、本当の偶然だ。


 過去の経験から……ムスビと退治した時の、本気のあの時を目の前にした時の体の硬直。

 あれは気合とか技術でどうこうなるものではない。


 死への恐怖だ。


 それだけがあのときには動く原動力になる。

 だからこそ、私はユイとも戦うことができたのだ。


 私は、負けることに恐怖している。

 それこそ、死んでしまうかのような恐怖を抱く。


 私自身は、特にこれと言った過去も、経験もない。

 ただ能力が強くて、知り合いの中にソロランキング一意である安藤花綸さんがいた、それだけだ。

 私自身は強さにあまり興味はなかった。

 けれど、私の強さはみんなを引き寄せていった。


 私を構成する要素を大きな部分として、強さというものがあるのは、否定できない。

 でも、それが否定されてしまうのなら?


 私は、最強でなくてはならない。


 最強であり、またあの二人を迎え、私は深奥へといたり、更に最強を目指す。

 それこそ、ムスビを倒すことができるくらいの人間になる。


 いつからか当然だった最強も、胡座をかいていた。

 ムスビが来てから、それが当然じゃなくなっていた。


 ムスビに訓練をつけてもらうときは本当は嫌だったし、

 四杯先生の訓練を受けるのも、本当は嫌だった。


 みんなでムスビに向かっていくのも本当は嫌だったけど、私一人ではかなわないことはあの夜に分かった。

 だから、


「私は、最強なんだ」

「最強最強って。

 会長はもう最強ではないんですよ?」


 体が、言うことを、きかなく。


「会長は、もう弱いんです。

 それこそ深奥に頼りたい気持ちもわかりますけど、それにまで手を出さなければ最強になれないなら……」


 いき……が……


「それは本当に強いんですか?」


 い……し…………き……が……


 そして、私は目覚めると転移室にいた。


 そして、私の最強は、終わった。

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