表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/110

54:がっかりだけはさせせないでくれよ

 翌日。

 宵が目覚めた後に家に帰った俺は、少ない時間を睡眠に当てた。


 そこで起きて気づいた。


 あれ? 戦う必要なくね?


 そう、被瀬たちと戦うことになったのは、俺に勝ったら俺の過去について話してやる、なんて話したからだ。

 しかし、俺は既に話す覚悟をしている。

 じゃあ戦わなくても良くね?


 朝ご飯を準備をしながらそんな根本的なことに立ち返っていた。


 もし俺が美加久市さんから話を聞いた時点でそのことに思い立っていれば……。

 そう思うと頭を抱えたくなる。


 それがわかれば、本当だったら俺が取る行動は、戦いをやめさせること。

 無駄な戦いは避けたほうがいい。


 そう、避けたほうがいいのだが、


「なんだかなぁ」


 制服に着替えながら、自身の胸の内を整理する。


 今、俺は二つの感情に苛まれている。

 それは、戦いを避けたほうがいいという感情と、戦ってみたいという感情だ。


 面倒事は避けたいから戦いたくない。


 だけど、宵や俺を見てなお、その背を追いかける者たちとハンデありで戦ってみたい。


 そんなことを思っている。

 普通に考えれば、戦いたいと考えるほうが頭がおかしいと思われるだろうが、


「知ってるからなぁ。

 戦いってものを」


 実戦に触れてきたからこそ。

 あれがどれだけのものなのか等身大で理解しているつもりだ。


 いつもの登校のための道を通りながら、考え事は止まらない。

 どうすればいいか。

 どうしたいか。

 どうなってほしいか。


 いろいろなことが頭の中を駆け巡る。


 結局、思いつかないまま学校にたどり着く。


 早い登校に誰も教室にはいない。

 誰にも見られていないというのは案外気が楽なもので、だらだらと席に付き、雑に鞄の中を広げる。

 ゆったりと一時限目の準備をする。


「あ」


 その準備が終わり、本でも読もうかと思っていたところで気づく。

 小説を忘れた。

 なくても別に発狂するわけでもないが、ないならないで不便すぎる。

 暇を潰すものがないし、何より続きが気になる。


 一回家に帰るくらいには時間が余っている。


 どうしようかなと考えながらも、頭の片隅に浮かぶのは戦いのこと。

 そうしてそのままボーッとしたまま過ごしていると、クラスのやつが入ってきた。


「おはよー」

「あっ、おはよー」


 かけられる挨拶に思わず声を上げてしまったが、特段気にされてはいない。

 良かったと思いつつ、時計を確認すると、結構な時間が経っていた。


 流石にここから家に帰ることはできない。

 俺は適当に教科書を開き、読んでいるふりをする。


 そこから続々と人が入ってくるが、その中に堂上と柊の姿はない。

 そのことが気になりながらも、俺はまだ答えの出ない問答をぐるぐるとしている。


 同い年だからこそ全力で。

 経験がないものだからこそ教えるように。

 戦わないことが一番の道。


 色々な考えが出てくる。

 そんな考えを抱えたまま、予鈴は鳴る。


 その直前に堂上と柊は滑り込みセーフな形で教室に入る。


「ぎりぎりですよー」


 占星先生から注意されるのに軽く謝りながら自身の席につく。


「おはよう」

「おはようっす」


 いつもどおりに挨拶してくる二人。

 俺はその様子に挨拶を返せなかった。



☆☆☆☆☆



「さ、聞いてるとは思うけど、今日は『エキシビジョンマッチ』をするわよ」


 昼休み。

 被瀬が教室に来て、四人集まったタイミングでそんなことを話す。

 授業の最中にも悩んでいたから、俺は簡潔に、


「そのことなんだが、話しがある」

「何よ。

 今更降参しても遅いわよ。

 今までのすべて含めて戦いなんだからね」


 被瀬の言葉には自信が表れている。

 それだけ強くなれたのか、それとも作戦があるのか。


 そんなことをうっすらと思いながら、


「正直に、俺は過去のことを話すつもりだ」

「……あぁ」

「そういえばそんなこと言ってたね」

「完全に忘れてたっすよ」


 持っていた焼きそばパンを落としそうになる。


「それが目的じゃなかったのかよ……」


 俺はまず自分の意志を伝えることが大事だと思った。

 このままだと何が目的で戦うのか忘れそうになるから、話したのだが……


「でも、その過去のことより、なんかあのときの話し方二原が立ったのよね」

「むーさんあの時すごい舐め腐っていた表情してたっすよ?」


 被瀬と堂上の話で、俺はそんなことを思われていたのかとため息を付く。


「まぁ、過去のことに関しては話す話さない関係なく話すことになるから」

「そうっすよ。

 結局勝つのは俺たちっすからね」


 柊は二人の話を苦笑いしながら聞いている。

 それにしても、堂上も被瀬もかなりの自信だな。

 本当に確証がある勝利なのか?


「あら? もしかして怖気づいちゃった?」

「むーさんあんなに啖呵切っていたのに怖くなっちゃったんっすか?」


 二人の煽りに、俺は最初キョトンとしてしまった。

 そして、数秒して俺のされたことが理解できて、


「久しぶりだな」

「何が?」


 そうつぶやいた。

 そのつぶやきは柊には聞こえたのか、質問される。

 声に出ていたか、と恥ずかしく思いながらも、


「久々に挑発とかされたな、って。

 あまりにもみんな俺に勝てないと思いながら戦いに来るから、こうやって挑発されるのは久しぶりだなって」

「……なんか天然で煽ってくるのムカつくわね」

「むーさんは基本的に天然っすからね……。

 それにあの強さじゃ、こうなるっすよ」


 被瀬と堂上の会話に俺は失礼な、と返し、


「でもまぁ。

 戦うのをやめるとか考えていたのが馬鹿らしくなったよ。

 戦いは受ける」

「ま、そうこなくっちゃ」

「ここで断られたら今までの苦労はどうしたんだろうってなっちゃうから……」

「むーさんなら断らないと思っていたっすよ」


 だけど、と俺は大きめの声で続ける。


「がっかりだけはさせせないでくれよ」


 自然と気配が漏れ出てしまったのか、空気が変わる。


 この気配の切り替え方……。


 がっかりすることだけはなさそうだなぁ、と漠然と思いながら、俺は呑気に焼きそばパンをかじった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ