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53/110

53:顔真っ赤ですわよ、ムスビ

「いってて……」


 今俺は、宵の家にいる。

 ご丁寧に宵は自身のゴスロリ服の腰元にこれみよがしに鍵をぶら下げていて、部屋に入ること自体は簡単だった。


 それに、俺が来ることを予想してなのか妙に部屋が片付いていて、会長を寝かせるための布団がきちんと敷いてあった。


 二人を寝かせて、俺は手持ち無沙汰になるが、ちょうどよく宵の家に小説があったので、読ませてもらう。

 


 ……ここまでしっかり計算してやっているのだから、宵にはたまに敵わないと思ってしまう。

 小説に関しては既に読んだことのあるものだが、俺の好きな本だったので、読み返すのにちょうどよかった。


 読み始めて20分立った頃だろうか。

 宵が少しうなされている。

 おそらく意識を取り戻したのだろう。

 俺は本を静かに閉じ、警戒する。


 流石にないとは思うが、ここで抵抗された場合には取り押さえなければいけない。


「……痛いんですけど」

「仕方がない。

 手加減する方の身にもなってくれ」


 そうですか、とぶっきらぼうに答えた宵の体がうすぼんやりと光る。

 『掌握』によって自身の体を治しているのだ。

 自分の体ともなると流石に時間はかからないもので、すぐさま起き上がる。


「……何もしませんわよ」

「その言葉に騙された経験があるから警戒を解くわけにも行かないんだよ」

「昔のことじゃないですの」

「それが一番鮮明に覚えているんだよ」


 昔ほぼ実戦形式でやった『訓練』があって、そこで宵はこのように油断させる作戦を取り、殺しに来た。

 あのときは流石にヒヤッとしたため、宵と退治するときは気を抜くことができない。


「じゃあ、そこをどいてもらえますか?

 茜さんを治療できないんですけれど」

「あっ、はい」


 宵の様子には何も感じられない。

 一段階はまだ持続しているため、攻撃の意思は感じられない。

 俺は少し体をどけ、宵から会長が見えるように位置とる。


 宵は会長に向けて、両手を伸ばす。

 宵の両手が光る。

 同時に会長の体が薄く光る。


「……明らかにワタクシよりダメージが小さいですけど、どういうことですの?」

「いやいや、『無体』の人間と普通の人間を比べちゃいけないだろ」

「……ワタクシはまだムスビのように人間卒業はしていないですけど?」

「え、もう一回バトる?」

「あーおそわれるー」


 棒読みな宵のセリフに俺は苦笑いしながら、会長を見ると、もうその薄い光は消えていた。

 宵の様子も見る限り、何も滞りなく治療は終わったのだろう。

 俺も一息つき、


「はいよ」


 宵が投げてきたボールペンをキャッチする。

 少しの殺意も見せないそれは、俺の後頭部に当たることはない。

 流石に当たれば刺さるくらいはしていたであろう速度のそれを俺は自身のポケットに仕舞う。


「……なんでこれに反応できるんですの?

 明らかに油断していたじゃありませんか」

「残念ながらこれは反応じゃなく予想の範疇。

 俺がこの部屋に来て何も調べなかったとでも?」


 まぁ、ほとんど何も調べてなかったが、ひとつだけしたことがある。

 宵の寝かせているベッドの近くにあったボールペンを手の届きやすいところに置いたくらいだ。


 正直使ってくれるとは思っていなかったが、予想通りに動いてくれて嬉しい限りだ。


「……やっぱりこれはムスビが動かしたんですね」

「……分かってたならなんで攻撃したんだよ」

「それは……」


 宵の口角が上がる。

 それに気づいたときにはもう遅い。


 背後を振り返る。

 そこにいたのは、


「おはよう」


 会長だった。

 会長の両手は俺の両頬に触れている。

 殺さ……


「ま、冗談だけど」


 へ?


 俺の空に浮いた言葉は吐かれることなく心のなかで反芻する。


「お、流石に驚いてくれたかい?

 これを覚えたかいがあったってもんだよ」

「まぁ、及第点にようやく言ったくらいですが」

「厳しいですね四杯先生は……」


 会長と宵の会話が俺を飛び越えて行われているが、未だに俺の中には謎が溢れている。


「ん? 待ってくれない?」

「どうしたんですの?」

「宵って『生徒会』とか被瀬たちと協力して俺を倒すんだよね?」

「まぁそうですわね」

「ん? じゃあなんで今の一撃で俺を仕留めないの?」

「……なんで今仕留めなきゃいけないんですの?」


 俺は良いの言葉に意味がわからなくなる。


 宵たちが本気で俺を倒しにかかるなら、まずさっきのチャンスを無駄にしたことはデカかったのではないか?

 正直宵と会長だけで挑んでくるなどなめているのかと思ったが、この瞬間のためだと言われれば納得する。


「ワタクシたちは、あくまで覆瀬ムスビを倒すのですわよ?」

「だからさっきの会長の『撫上』でなぜ俺を仕留めなかったのかと……」

「必要ないからですわよ?」


 何を言っているのかという表情でこちらを見る宵。

 会長の方を向くが、会長は何も教えてもらっていないのか、肩をすくめている。


「じゃあどうやって俺を倒すんだ?

 今の逃したら俺のことは倒せないぞ?」

「……あぁ、そういうことですか。

 ムスビ、ワタクシたちはムスビを倒したいのではなく、勝ちたいのですわ」


 俺がまだ納得言っていないという表情をすると、宵はやれやれといった様子でため息をつき、


「だから、しっかりと勝敗が分かれるもので決着をつけたいと言っているのですわ」

「……『ランキング戦』?」


 宵の言葉を聞いて思いつくものはそれしかない。

 確かに他にいくつかあるにはあるが、真っ先に思いつくものはそれしかない。


「あぁ、そういうことか」

「あ、茜さんにはまだ話していないですわね」

「いえ、もう理解できたので大丈夫です。

 ……というか、ムスビはここまで来てもまだわからないのかい?」


 会長の視線は俺の考えを更に深めさせる。

 俺はもしかして追い詰められている?


 そんな考えが頭の中に浮かんだ。


 宵の落ち着きよう。

 俺の行動をすべて予測していたかのような振る舞い。

 それに、


「そうか」


 そこでようやく気づく。

 宵が会長を気にしていた理由。


 もし宵だけならば、あのときはガードされていた。

 だから二撃目を準備していたが、案外あっさりと宵は負けてくれた。

 そのことに違和感を感じていたが、


「そうか、『エキシビジョンマッチ』か」

「よく気づきましたわね」


 『エキシビジョンマッチ』

 俺と柊、堂上が会長に挑んだときの方式。

 それを利用してコイツラは俺に挑もうというのだろう。


 そう考えれば。今までの行動にも意味がわかる。


「『殺気』を俺に浴びせていたのは、一段階を使わせるため。

 そんでもってわざとこの時点で計画をばらしたのも、俺に闇討ちをさせるため。


 この二つの狙いは、俺に二段階を使わせること」

「えぇ。

 一段階は強い。

 けどそれより警戒しなければいけないのは、二段階。

 それがあるかにないかでは天と地ほどの差がある」


 二段階は確かに強い。

 そう、強いのだが、強すぎるのだ。


「確かに明日辺りに俺に戦いを仕掛ければ俺は二段階を使えなくなる」

「えぇ。

 使おうと思えば使えるでしょうが、止められていますものね」


 俺の二段階は、使用にある程度期間を開けなければいけない。

 あまりにも強すぎる力は、自身の身をも滅ぼしてしまうのだ。


「さぁ。

 たかが学生に対して、自身の身を削ってまで二段階を使いますかね?」

「……やっぱりお前は出ないかぁ……」


 もし宵が出るなら、割と出し惜しみはしないつもりなのだが、出ないとなると話が変わる。

 相手はあくまで学生。

 俺の力を知っているとはいえ、圧倒的な力を振り回して勝つのは心地良いものではない。

 それも知っている人が多いのだ。

 ようやく俺の力に関して理解を得てもらっているのに、そこで突き放すことをしたわけではない。


「確かにこれなら可能性が出てくるな……」

「えぇ。

 今日遊んでくれたおかげでうまくいきましたわ」

「ははは。

 流石にムスビも四杯先生には敵わないか」

「え? 全然そんなことないですけど?!」

「顔真っ赤ですわよ、ムスビ」

「そんなことない!」


 じゃれ合い的なやり取りをしてはいるものの、俺の状況が良くなることはない。


 ……まじでどうしよう。

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