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51:『生徒会』の……人?

 奇妙な殺気を感じてから3日が経過した。

 あの殺気は初日からだんだんと数を増やしていき、昨日は数えるのもバカバカしいくらいに殺気が飛んできた。


 それに、殺気は俺が自宅にいるときにも飛んでくる。

 誰がやっているかを突き止めようとしたが、かなり工夫しているのか、ちょっとやそっとじゃ見つけられなかった。


 それに、初日は殺気の種類が少なかった。


 殺気は基本的にその人の色というものは出ないが、癖みたいなものはある。

 そのため、初日の四回は二人が交互にやっていることは分かった。

 しかし、昨日は両手の指じゃ足りないくらいの人数から殺気を飛ばされた。


 正直、こんなに殺気に当てられていればうざい。

 眠りが浅くなるし、授業に集中できなくなる。

 精神的に疲弊するということへの『慣れ』はあまりしないようにしている。

 戦闘は精神状態に大きく関わってくるので、こういうことに慣れてしまうと、思わぬところでピンチになる可能性が出てくる。


 というか、その殺気のせいで俺の過去の話ができなかった。

 流石に俺の過去を話すには少し場所を選びたい。

 それなのに、殺気は俺の用事とは別に飛んでくる。


 ま、そんなことをいつまでも続けられるのは溜まったものではないので、俺は犯人を突き止めようと動き出した。


 そして、昨日の夜、ようやく犯人が分かった。


 宵だ。

 正確には、宵と生徒会のメンツと被瀬、堂上、柊たちだ。

 ……当然と言われれば当然なのだが、外部の干渉という線も捨てきれなかった。


 犯人が分かった決め手は、俺が一段階を開放したからだ。

 一段階を開放して、知覚を強化することによって、犯人を割り出そうとした。


 しかし、これは最初失敗に終わる。


 殺気を出している側も何かを対策をしているのか、それとも殺気を一瞬で消すことがうまいのか、なかなか尻尾を掴むことができなかった。


 でも、殺気も何回も飛ばしていれば、甘くなる瞬間がある。

 あれはあくまで技術である。

 確かに感情も必要になるときはあるが、それはそれとしても、技術なので失敗することもある。


 それを待ち、俺はひたすらに殺気を観察し続けた。

 時間もかかるし、いつ向こうから殺気を飛ばされるのか分からないので、正直疲れた。


 そしてそこで、昨日の夜、俺が就寝する前を狙ったかのような一瞬の殺気で、俺は動いた。

 この殺気は甘い、場所も突き止めた。

 あとは犯人を叩きに行くだけ。


 そこからは一瞬だった。

 寝間着姿で外に出て、一段階の最速で犯人を捕まえに行く。


 うちの窓から見える電柱。

 そこにいると判断した。


 しかし、そこには人はいなかった。


「いや、違う?」


 一段階を開放した感覚をフル活用する。

 嗅覚、触覚、聴覚をフルに使い、第六感までも最大限に働かせる。


 そして、理解した。


 どれもいない虚空に立ち、虚空に手刀を構える。

 でも、そこは誰もいない。


 そこでなにもない空間が、ベールを取るように空気が歪む。


 そこにいたのは、


「『生徒会』の……人?」

「……美加久市みかくしですよ」


 黒髪ロングヘアーに、少し眠そうな目。

 顔立ちは整っており、美人という分類になるだろう。


 そんな人が、そこにはいた。


 顔で生徒会の人だと分かったが、名前を思い出せないでいると、自己紹介された。

 ストレートロングの女の人。

 生徒会で見たことがあるが、話したことがあるわけではない。

 だから、あくまで見たことがある、程度の人だ。


 外部の人間だと思っていたため、面食らう。

 美加久市さんはそれとは反対に、抵抗の様子を一切見せない。


 俺の強さを知っているから、というように取れるが、なんでそんなにあっさり降伏するか?


「……何をしているんですか?」

「覆瀬くんにちょっかいを出しているんですよ」

「……こうなる危険性があっても?」

「はい。

 こうなった時点で私が覆瀬君に捕まったことはバレているので私にスパイを頼むとかは無理ですよ」

「あー、ゆっくり話聞きたいんで、うち来ますか?

 飲み物とかどうですか?」


 美加久市さんの服装は私服だったが、この時間に一人で外に放置というのも俺の気が引けるし、話が聞きたいというのもあって、誘ってみると、


「え、大丈夫ですか?

 ならお邪魔します」

「あ、はい、どうぞ」



☆☆☆☆☆


「意外に普通の部屋なんですね」

「意外ってどういうことですか」

「なんかジムみたいになっているものだとばかり」

「俺のことをなんだと思ってるんですか……」


 家に上げ、お茶を出しながら、話を聞く。

 そこで、先のメンツが犯人だということを自供した。

 一段階を開放している状態だったので、その観察眼を持って嘘をついていないことは分かった。

 スパイを頼もうかと思っていたが、先程の発言を思い出す。

 俺の言い淀みを察してか、美加久市さんは


「スパイを頼もうなんてそんなことはないですよね?」

「しませんってば……」


 そんな会話をしていた。


「というか覆瀬君ってなんでそんなに平気そうにしているんですか?」

「はい?」

「そんな不思議そうな顔をされてもこっちが困るんですが」


 しばらく情報を聞き出そうと世間話を交えながら話していると、美加久市さんから不満の声がかかる。

 俺はその言葉に最初理解できなかったが、しばらくして、理解する。


「あぁ」

「あぁってなんですか。

 年上の女子を家にあげておいてその雰囲気はどういうことですか」

「いや、本当に気にしてなかったんですって」

「……はぁ」


 なぜため息を疲れなければいけないのか抗議したかったが、諦めて俺はため息を付く。


「それで、次は何をするんですか?」


 美加久市さんは、あくまで「俺に勝ちたいから」としか言っていない。

 それに関しての具体的な行動を聞いていない。

 だからなるべく聞き出そうとしていたのだが、これがまた話さない。


 しかも躱し方が巧妙で、観察眼で分かる範囲の情報を出さない。

 わかりそうな部分もあるのだが、確定できない情報は踊らされる危険性もある。


 なので率直に聞いてみるが、


「さぁ?」


 本当に知らない。


「……見捨てられたんですか?」

「いいえ。

 知っていれば情報を引き出されてしまうかもしれないので、聞かされていないだけです」


 これは真実。


 さすが宵とでも言うべきか。

 そこまでの警戒に俺は舌を巻く。


 というか、そこまでして勝ちたいのか?

 宵がどこまで本気なのかわからないため、俺も今後の行動は測りかねる。


「あー。

 なら帰り、送っていきますよ」

「いえ、『能力』を使って帰るので、心配無用ですよ」

「……『腕輪』は?」

「流石に生徒会権限を使ってはないですよ」

「あぁ、『抜け道』か」


 今更になって『腕輪』って割と外で役に立たないのでは? と思いながらも、美加久市さんが帰るのを見送った。



 ということで、今回の犯人がわかり、次に何かをするということも分かったので、


 闇討ちといこうか。



☆☆☆☆☆



「一日目、ご苦労さま」


 堂上が授業を終え、ある程度時間を潰した後に向かっていったのは、『生徒会室』

 そこには、死屍累々と人間が転がっていた。


 話しかけてきたのは、四杯。


「いやー。

 流石にむーさんするどいっすよ」

「それはそうですわ。

 あれでも『無体』の人間。

 この程度の殺気にも気づかないなんてことは万が一にもないわですわ」


 屍のように寝転がっている人の作り出した張本人はケロッとしている。


「今日やってみてどうでしたか?」

「むーさんは俺がやったことには気づいていないみたいっすね。

 俺の方を見て気づかないのか、みたいな顔をしてたっすから」

「……予想通りですわね」


 四杯は少し考えた素振りをして、


「それでは、皆さんも最低限の『殺気の出し方』を覚えた、ということで、次の段階に行きましょうか」

「ちょっといいですか?」


 そこで手を挙げる死体のうちの一人……柊にたいして、四杯は話をするように促す。


「私達って、協とは違って『殺気を出す』だけしかできていないんですけど、それでいいんですか?」

「その事も含めて、話しましょう」


 四杯はみんなに起き上がるように指示する。

 堂上はその光景を見て冷や汗を流す。


 四杯のやっている『殺気を出す』ための訓練は、単純明快なものだ。


 四杯がみんなを『掌握』して、殺気を出させる。

 それにみんなは感情を乗せて、実際に殺気を出させてみる。


 確かに実際に殺気を出せる四杯が『掌握』すればその理論で殺気を出すことはできるだろう。

 しかし、『掌握』されて自身の意識はあるのに、知らない動きをさせられるというのはなかなかにきつい。

 そのため、こんな死体の山ができているというわけだ。


「今回の作戦はムスビに一段階を使わせることが目的ですわ」


 四杯の言葉に、誰もが意図を理解できていないが、四杯は話を続ける。


「ムスビに協と明日で殺気に寄る圧迫感を与えていきます。

 もちろん、明日はワタクシの『掌握』を使って関係ない人を『掌握』して少し力を借りますわ」

「……関係ない生徒を巻き込まないでくれますか?」

「最大限の配慮をするつもりですわ。

 でも逆にそうしないと今回の戦いに勝てなくなる可能性は十分にありますわ。

 文句があるなら、あなたは早く『あれ』をできるようになってください」

「……はい」


 茜が反抗の声を上げるが、四杯から一蹴される。

 茜は四杯の言葉通りに、ナニカの反復練習を行う。

 それは、何やら歩いているだけのようにも見える。


 そう、この場にいる茜のみが別の練習を行っているのだ。

 なぜそうなっているのかは知らないが、宵と茜の間で何らかの会話がされたのは明らかだろう。

 茜の訓練に向かう目は、真剣そのものだった。


「それで、基本的には持ち回りを作って、決められた時間に決められた場所で殺気を出していただきますわ。

 そこで先程も言っていたように、『殺気の収め方』の話になるのですけれど」


 四杯は堂上の方を見る。

 堂上はなんのことだかわからずに、四杯を見つめ返す。


「あなたは最初に『殺気の出し方』を覚え、あまつさえ『収め方』さえ学んでみせた。

 今日の感覚からしてもあなたの感情のコントロールに関しては目を瞠るものがあります」

「はぁ……ありがとうございますっす」

「そして、今回使うのは、あなたの『能力』。

 あなたには強制的に『殺気を収めて』いただきますわ」

「……そういうことっすね」


 自身の能力に関して理解が深い堂上はうなずくが、それ以外のものは分からない。


「『感情の共有』

 それは『殺気を収める』ことについても役に立ちますわよね。

 例えば、殺意を収めるのとかに」


 その言葉で、その場のみんなは理解する。

 『殺気を出す』ためには、現段階だと『感情』を強く保たないといけない。

 そして、それを抑えるにはかなりの努力が必要だ。

 堂上は『能力』が能力なだけに、感情の操作に関してはエキスパート。


 そして宵とムスビのもとで修行したおかげで、


「今の貴方だったら、一瞬で能力を発動することができますわね?」

「むーさんにばれないかはわからないっすけど、かなり発動と解除までの時間は短いっすよ」


 堂上は何もムスビと『訓練』をしなくなってから休んでいたわけではない。

 自分一人で『訓練』を続けていた。

 その努力は、思わぬところで発揮される。


「そうして殺気によってムスビにプレッシャーを与えます」


「まぁ、皆さんにはこれから紙をお渡しするので、それを見て全部覚えてください」


 そして、と付け足した四杯は、少し悪そうな顔をしてから、


「明後日の夜に、ムスビには一段階を使ってもらい、あえて私

ワタクシ達の作戦を知ってもらいますわ」

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