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42/110

42:確かに『掌握』させていただきましたわ

「こんにちは」


 次の日、放課後、俺は『体育場』に来た。


 視線が一気に集まってきた。

 その視線の多くが、誰? という視線からなんで? という視線に変わる。


 それもそうだ。


 俺はここにいるにはあまりにも場違いすぎる。

 『体育場』にいるのは、白の学ランを羽織っている人たちと、腕に『風紀』の腕章をつけた人間がいる。


 そう、『生徒会』と『風紀委員』だ。


 その中に『生徒会』でもなく『風紀委員』でもない人間が来れば当然だろうし、


 ましてや今学校で話題の『無能』くんが来れば、そんなリアクションになるだろう。

 その中で、『風紀委員』の一番前に立っている人物から声をかけられる。


「君は……一年のようだが、何をしにきたんだい?」

「あぁ、ひとしくん、気にしないでくれ。

 彼は私が呼んだんだ」

「……そうなのかい?」

「あぁ、将来有望な生徒だし、こちらの人数が足りないから呼んでおいたんだ」


 その人物は、腹の肉のせいで着るのがきつそうな制服に、『風紀』の文字が伸びている腕章をつけている。

 何もしていないのにすでに額に汗をにじませている『生徒会』の中心人物と思われる……均と呼ばれた人は、会長の言葉で引き下がる。

 が、視線は俺のことを見るのはやめない。


 立ち位置的にもこいつが『風紀委員』の中でも偉い人物なのだろう。

 ……しかし、『風紀委員』の会長は強いやつだと聞いている。

 こいつがそうなのか?

 明らかに気配からは強者の気配を感じないふくよかな男に、俺は困惑する。


「さ、それでは人数も集まったところですし、『合同練習』を初めていきましょうか」


 耳道さんが話し始める。


 一応連絡自体はもらっているため、今日の集まりは『生徒会』と『風紀委員』の合同練習だということは把握はしている。

 耳道さんが話している隙に、俺が『生徒会』の連中の中に混ざると、見知った顔を発見する。

 柊、堂上、被瀬だ。


 俺の存在自体には気づいているようで、こちらを向いているが、なにかしてくる気配はない。

 俺も、その顔ぶれにやっぱりいたか、と思いながらも、話しかけるようなことはしない。


 視線を外し、『風紀委員』の方を見る。

 小桜さんの姿はない。

 さすがにそうだろう。

 あれを食らっておきながら数日で病院から出られたら俺のほうがびっくりだ。


 というか回復できないような技だから使ってるし。


「今回は呼んでいただきありがとうございます」

「いや、こちらとしてもそろそろ新入生が『生徒会』に加入する時期だからね。

 私達も強化を兼ねてお願いするよ」

「『風紀委員』なんて今やただの雑用集団ですよ?

 そんなのが相手になるとは……」

「いやいや、『風紀委員』だって強者が揃っているじゃないか。

 風紀委員長を筆頭として……と、今日は委員長の方は?」

「……最近顔を見せなくてこちらも困っているんですよ」

「あいつは相変わらずの自由人だな」

「困ったものですよ……」


 委員長は現状いない。


 つまりこの均とかいうやつは委員長ではない、ってことか。

 正直少しホッとした。

 これ以上にしっかり強いやつがいるのかという事実に。


「まぁ、今日は副委員長も着ているし、戦力的に不満はない。

 それではよろしく頼むよ」

「不肖『生徒会』副委員長、頭位均とういひとし

 誠心誠意、奮闘させてもらいます」


 会長の威風堂々とした姿に、見事なまでにへりくだる頭位さん。

 その様子を眺めながら、俺は『生徒会』の連中を観察する。

 こころなしか、何か張り詰めている。


 恐らく、俺と違ってなにか話を聞いているのだろう。


 俺は宵からの連絡で、時間と場所と、建前を通知されただけで、その他は何も知らされていない。

 その代わりに、メールの最後の分には、いつもどおりの


『OKを出したらやりなさいね』


 と書かれていた。


 ……いつもなのだが、俺は『無体』の中で基本的に戦闘を禁止されている。

 色々と理由はあるのだが、他のメンバーによると、何やら俺が出るとすぐに片付いてしまうから事件の解決に向かないだそうだ。


 正直、この前の小桜さんみたいに手加減はできるし、戦場で暴れることはないから、言われればできるのだが、みんな『訓練』で俺のことを誤解しているせいか、そう言ってくる。

 それを利用しておれは 基本的に惰眠とサボりの限りを尽くしている。

 その代わり、他のメンバーでどうしようもなくなったときは俺が出る。


 今回の連絡も、そういうことなのだろう。


「あーっと、その前に一つ、質問はいいかい?」

「なんでしょうか?」


 そこで、会長が雰囲気を変えながら、戦いの準備をしようとする頭位さんを呼び止める。

 その雰囲気の変化を悟ってか、頭位さんも真剣な面持ちをする。


 俺は周りの人達が構えたのを悟り、後ろに下がる準備をする。


「いや何、今少し事件を調べているのだが」


 会長は少し後ろに下がる。


 その様子で、俺は今この場で一斉に捕まえるということを悟る。

 『生徒会』のメンツでやるのか。


 それなら確かに、会長の能力は傷つけてしまう。


 それを察して俺は今のうちに『体育場』の出入り口を確認する。

 俺たち『生徒会』側に一つ、『風紀委員』側に一つ。


 恐らくそれは他のメンツも把握しているから、俺はそれとなく逃げ出す人間でも見張るか。


「『神の涙』というものをご存知かい?」


 一段階の開放。


 すでに終わらせている俺が見たものは、


 飛び出す『生徒会』でもなく、


 それに対応しようとする『風紀委員』でもない。


 空中から降りてきた、


「ごめんなさい」


 宵だった。



☆☆☆☆☆



 宵は空中をまるで風船のようにゆったりと舞い降りる。


 そして、違和感。


 宵の『縛り』か。


 縛られても『慣れて』しまったせいで、効果は出ていない。

 恐らく効果は動けない、というところだろう。


 周りの人間は誰ひとりとして、動くことができていなかった。

 恐らく瞳を動かし、呼吸をすることくらいしかできていないだろう。


 生命活動以外の身体能力の制限。


 よくやる手口だ。

 俺は誰も見てない、いや見れない宵の登場を眺める。


 ……単純な疑問なんだけど、あんなゴスロリ服で空中から来るとか見てほしい願望でもあるのかな?

 その瞬間、宵に睨まれた。

 エスパーかよ。


「ふふふ、こんな登場で申し訳ないんですが、ここは私に預からせてほしいですわ」


 誰もその言葉に答えられるものはいない。

 それもそうだ。

 みんなは恐らく困惑している。


 『風紀委員』と、それに『生徒会』も。


 普通ならば、『風紀委員』だけにかければいいはずの『縛り』

 それが自分たちにもかかっているのだ。

 驚愕の雰囲気を醸し出しながら、場は進んでいく。


「じゃあ、みんな楽な姿勢にしてほしいですわ」


 その瞬間、みんなが息を揃えたかのように気をつけの姿勢を取る。

 その奇妙な現象に、誰もが疑問を隠せない。


 この場にいるのは、俺を含めて25名。


 その全員を『停止』することができ、なおかつ『命令』して、実行させた。

 普通ならばありえない。


 確かに『操作』の能力や『命令』の能力は存在するが、これほどまでの者はランキング戦ですら見たことがない。


 そう思っている顔だ。


「それでは、これから『尋問』を行いますわ」


 四杯宵。


 『無体』において本人の戦闘能力は随一の弱さ。


 しかして、その能力は、


「皆さんの『嘘』を『掌握』いたしましたわ」


 『掌握』の能力。


 本人の理解、及び認識の範疇にあるものをすべて掌握することができる。


「えぇ。

 えぇ、確かに『掌握』させていただきましたわ」


 『縛り』と呼んでいるものは、相手の身体的、精神的一部を『掌握』し、『奪取』することにより、行動や考えに制限をかけることができる。


「じゃあ、『嘘』を掌握された人たちは前に出てきてください」


 そして、この『命令』

 これは相手を『理解』しきることにより可能になる能力。


 理解した相手は『掌握』されている。

 それはつまり、『支配』されていると言っても差し支えないのではないだろうか。


 『風紀委員』のメンバーが、前に出る。


 数人残っているが、ここにいるほぼすべての人間が出ている。


 そして、


「は?」

「なんで?」

「なんでですか?」


 『生徒会』側からも声が上がる。


 それもそうだ。


 今回の作戦は、あくまで『風紀委員』が犯人だとほとんど理解されている状態だった。

 それは先程の雰囲気からしてそうだし、恐らく今の周りの様子からしてもそうなのだろう。


 だが、違った。


 今回の事件は、『風紀委員』だけではない。


「なんでだっ!!!」


 会長が声を上げる。

 それもそうだ。

 会長は分かっていなかった。

 現に今も、信じられないという表情をしている。


「間違いではありませんよ」


 宵は『生徒会』側に立つ人間……耳道甲午の姿を、しっかりと見た。


「あなたが、この事件の中枢にいる人物の一人。

 そうでしょう?」


 宵の表情は、晴れやかである。


 まるで、全てを許さんとする聖母のような、そんな表情だった。

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