43:勝てると強いは別物だ
「なんで僕が犯人なんですか?」
「あら、頭部の『掌握』を返しましたか」
耳道さんが動かないはずの口を動かし、話し始める。
その様子に宵は感心したという風に話す。
「えぇ。
これでも操作の能力を持っていますからね」
「そうですか。
まぁ、知っていましたが」
宵の皮肉めいた話し方に耳道さんは少し苛立っているようだ。
「それで、僕が犯人というのはどういうことですかね」
「ちゃんと話を聞いていましたか?
私はこういったのですよ。
『あなたが、この事件の中枢にいる人物の一人』と」
「それはまるで今回の事件が複数人に寄る犯行だと言いたいようですが」
「その通りです。
薬に浸かった頭でよく考えられましたわね」
宵の話し方は基本的に挑発するような話し方だ。
これは本格的にブチギレている。
昔のことを思い出しながら、俺は今がどんな状況であるかを観察する。
現在、宵の『掌握』によって事件に関わっているという人物は、『風紀委員』14名、そして耳道さんだ。
『風紀委員』の中にはもちろん、副委員長と名乗る頭位さんの姿もある。
「薬に浸かった頭だなんて、ひどいことを言いますね、四杯先生」
「事実ですから別に訂正することもしなくてもいいと思いますけどね、耳道甲午さん。
いえ、教祖様、でしたっけ?」
宵の言葉に、『風紀委員』の連中の雰囲気が変わる。
まるでその言葉に聞き覚えがあって反応しているような、そんな反応。
「今回の事件は簡単ですわ。
校内に宗教が発生していた。
それも、『ウィクトゥス』を称えるというクソみたいな宗教が」
「宗教?
何の話ですか?
『生徒会』だし、『ウィクトゥス』の症状も出ていない。
なんで僕を疑うんですか?」
それに同調するように、『生徒会』のメンバーの視線が宵に集まる。
「えぇ。
確かにあなたに『ウィクトゥス』の強化作用も、副作用も出ていなかった。
しかし、それはあくまで表面上は、という話でしたわね」
「表面上は、って。
前に言っていたじゃないですか。
『生徒会』のメンバーにはすでに調査を入れていて、信頼できるから話している、と」
その話は初耳だが、宵のことだから事前に調べているとは思っていた。
「えぇ。
確かにワタクシは最初に『生徒会』の皆さんには事前に『掌握』によって探りをれていましたわ。
ワタクシは『掌握』によって、みなさんが『ウィクトゥス』ひいては『神の涙』に関して情報を持っていないと判断し、協力を仰ぎましたの」
「なら」
その言葉に、耳道さんは弁解するような声を出すが、
「でも、それはあくまで表面上。
ワタクシはあなたの『能力』と『神の涙』そのものに対して甘い認識だったのですわ」
「は?」
「あなたの能力は、『操作』の能力。
それは人形に糸をつないだように、ものを自在に『操作』できる能力」
だから『ドールメイク』か。
今更耳道さんについて知ったが、それでもまだ話の全容は分からない。
『ここからは『操作』『支配』といった能力に関しての話になりますが……。
人間に対して『操作』『支配』の能力を使う時の大前提として、一つの制約があります」
長い。
本来ならすぐにでも仕留めて、耳道さん一人でも残しておけば話は早い。
だけど、今の状況は誰もその場を動くことが許されず、宵と耳道さんが二人で話しているだけだ。
それは極めて非効率。
俺の知っている宵ならば絶対にそんなことはない。
でも、俺の感覚と、これまでの行動が偽物という選択肢を切り捨てる。
なら、宵が自身の意志で、長引かせている?
「『操作』の対象は、自身より格がしたでなければいけない」
「そう……ですね。
人間は誰もが『心のチカラ』を持っている。
それは本人の意志に関わらず、『操作』『支配』に対して抵抗を示す。
だから『操作』能力者は基本的に人間以外を操る」
「良い答えです。
しかし、ワタクシのように例外だとこのように隠していようがなかろうが関係ないのですが……。
その話はやめておきましょう」
何が目的だ?
なるべくこの事件は穏便に済ませたい。
それは俺も宵も同じ考えのはずだ。
相手は『ウィクトゥス』を使う。
そんな相手に対して生半可なことはしちゃいけない。
「それで、今回のワタクシの盲点は、『ウィクトゥス』と『神の涙』は別物、という点でしたわ。
本来なら、『ウィクトゥス』を摂取した時点で人間として正常な思考は失われる。
いくら薄めたとしても分かるだろう。
そう考えていましたわ」
「だから、なんだというのですか?」
「だから、あなたはワタクシの『掌握』から逃れることができたのでしょう?」
宵の言葉を遡れ。
思考を働かせる。
きっとこれは俺は何もしなくていい、ということではない。
おそらく、俺も気づいたほうがいい。
俺は現状、気配を消し、『生徒会』の後ろにいる。
俺だけが動けることはみんなまだ分かっていない。
宵は俺にも『縛り』をかけた。
効かないのに。
それは、ヒント。
「『神の涙』は極めて少ない副作用で『ウィクトゥス』の高揚を微小に受けることができる。
そう、つまり能力が強化されるということは、あなたは自身よりも強大な、格上なチカラを手に入れることができた。
あなたは、自身を操作することによってワタクシの『掌握』を逃れていた」
やっと理解した。
宵は言った。
犯人が複数人だと。
そして、もうひとりについては言及していなかった。
つまり、
「にわかには信じられないことですが、まさか『ウィクトゥス』を使用して薬の副作用を「どうしたんですか!?」……あら?」
『風紀委員』の背後から聞こえる声。
その声は、俺らに聞き覚えのあるものだった。
『生徒会』のみんなも、『風紀委員』の連中も誰かが来たことに驚いたのか、雰囲気が変わる。
「あらあら、早乙女先生。
もう”OK”なのですか?」
能力を使用する時間すら惜しい。
駆ける。
人の合間を縫い、
駆ける。
早乙女先生。
それを認識したのは改めてその顔を見たときだった。
こちらに気づいている様子はない。
構える。
抜刀術。
しかし刀はない。
後数歩。
数歩踏み込めば、間合いに入る。
相手はこちらの様子に気づいていない。
好機。
そして間合いに入った瞬間、気づいた。
やばい。
何がやばいのかはわからないが、危険だ。
能力の発動も間に合わない。
必殺技を叩き込むだけ。
止められない。
俺の必殺技。
腰元から引き抜かれた手刀は早乙女先生に迫り、
ガンッ
人間同士とは思えないほどの鈍い音を当たりに響かせる。
衝撃。
行き場を無くした威力が辺りに広がる。
そこで失敗を悟る。
すぐさま離脱しようとするが、
「おっと、おとなしくしていろよ」
前の前の巨体が素早い動きで俺の首元に何かを刺した。
本来なら肉体の強化はできているから効かないはずなのだが、
ブスリと俺の首元に何かが刺さる。
そこから何かが流れ込んでくる。
それは俺の体を流れる。
普通の毒なら基本的には効かない。
だが、俺の体から力は抜け、崩れ落ちる。
クソ……初見かよ……。
動かない体に心の中で舌打ちしながら、地面に膝をつく。
「新種の毒を合わせたものだが殺せなかったか。
さすが『深奥』に至りし『無体』」
「お前……なんて……」
言うことを効かない体で、能力を発動する。
能力が発動しない。
「普通ならば一滴でさえ死に至る毒だが、仕方がない。
止めを刺してやろう」
俺の視界が暗くなる。
恐らく、頭上から攻撃を受けるのであろう。
その攻撃に、とっさに生きるための手段を探す。
働かない脳をフル回転させ、使えない能力を無理やり使おうとし、体を全力で回避に働かせる。
こういう場面は『慣れている』
だからこそ、気づく。
轟音。
それとともに俺の視界が明るくなる。
体がこの状態に『慣れた』
立ち上がる。
力は入らないし、頭は働かないし、能力も発動できない。
だけど、これを言うことはできる。
「ありがとう」
「はぁ。
なんで助けちゃうんだか」
隣りにいるのは、一人の少女。
「そんな事言うなよ。
ピンチだったんだぞ」
「前は余裕だったじゃない。
今回も似たようなもんよ」
呆れたような表情も、その容姿と相まって華になる。
「そんなことないよ」
「……ま、その言葉はありがたく受け取るわ」
長い金髪のツインテールを揺らしながら、
「それで、オレ一人じゃ少し厳しいから手伝ってくれないか?」
「何よ?
あんたは強いんじゃないの?」
「勝てると強いは別物だ」
俺の隣に、被瀬結は来た。




