第二十五話 冒険者ギルドの三人娘+α
今日も今日とて、フラッド町の冒険者ギルドは多くの冒険者で賑わう。
他地方に名を馳せる手練れから、今日明日の日銭を稼ぐ者、世界に名を馳せる一流冒険者を目指す者、権力者の手足となって情報を収集する者────。
多種多様な目的を持った冒険者がいた。
しかし、古今東西の冒険者関連で上がる話題と言えば、外せられない鉄板として「強さ議論」がある。
フラッド町のギルドにおいても例外ではなく、「結局のところこの町じゃあどの冒険者が最強なのか?」とよく話題に上がる。
だが、フラッド町の冒険者事情を知っているならば口を揃えてこう言うだろう。
────ギルドマスターである『空の怒り』が最強だ。
かつて、魔族の作り出した"厄災"と呼ばれるAランクモンスターを打倒した、伝説のパーティの一員だ。そんな彼がどうして最前線から退役しこんな僻地にいるのかは謎であり、フラッド町七不思議の一つとされている。
だが、もしも「最強の冒険者パーティはどのパーティなの?」と聞かれたら、それは間違いなく《静かなる乙女》になるだろう────。
「二人とも今日はどうする?」
「なんか良い感じのクエストがあったらそれで☆」
「ふんわりしすぎですよ」
「じゃあローリエちゃんのオススメにして☆」
「……リコリスさんって元お嬢様だけあって、本ッ当に面倒くさがりですよね」
《静かなる乙女》は、このギルドの来てから三か月足らずという、驚異的なスピードでAランクに到達した期待の高まる新星である。
全員が女性であることから、普通であれば寄生の線が疑われるだろうが、彼女たちを見ていた同業者からすれば一笑に付されるだろう。
なにしろ、最初期メンバーだったローリエは、リコリスとエルダーの二人が加入するまで延々とソロで活動していたからだ。そして後者二名もまた、ローリエ以外の誰ともパーティを組みたがろうとしなかった。
逆に「一緒にパーティを組まないか」と誘う者が現れる始末だったが、全てがなしのつぶてだったため真実味が増すというものだ。
そして、彼女たちが冒険者たちの注目の的になっているのは実力のみならず、その外見にある。
「私は日帰りのクエストが好きですから……墓周辺を徘徊する《ゾンビ》の討伐でよくないですか? Eランクのお仕事ですけど」
ブロンドのボブヘアを揺らし、また端正な面持ちの中に少女らしさを残しているが、マグマのように煮えたぎった復讐心と内なる覚悟で、大人びた風格がブレンドされたパーティリーダー、ローリエ。
「じゃあそれで☆」
帽子を目深に被り目元が見えないが、仕草の端々に上品な美しさを感じ、豊満な肉体をボディラインがくっきり出るローブに身を包んでいるため、男性陣から一際評価の高いリコリス。
「うーん……私も異議なしかな」
170超えの身長をコンプレックスに感じているが、奥手な性格によってギャップが産まれ、気まぐれに揺らす猫耳と猫尻尾で誘惑し、男女問わず密かに人気の高いエルダー。
「今日もすげぇな……」
「あぁすげぇ……」
「ありゃ暴力的だぜ……」
後者二人は肉付きの良い体をしていたが、首輪を隠すために頑なに着こまれたタートルネックによって更に強調されてしまい、男性冒険者からは視線で射抜かれそうなほど凝視されていたりもした。(ローリエだけは「ストーン」だったためスルーされていたが……)
「お近づきになりてぇなぁ……」
「無理だって……俺なんて会話したこともねぇんだぞ」
だが男の冒険者たちは指を加え、遠巻きにそれを見つめることしかできなかった。
なぜなら、三人とも他者を近寄らせない異様な雰囲気を纏っていたからだ。
彼女たちは誰かに対して積極的に干渉しようとしなかった。
彼女たちに干渉しようとした者は適当にあしらわれて終わった。
彼女たちに浮いた話は一つもなかった。
彼女たちの世界は三人で完結していた。
誰も近寄れなかった────。
だが一方で、勘の鋭いものは気づいていた。
────三人ではなく、見えざる一人も加えた四人で完結していることを。
その背後にいるのは、彼女たちが定宿ではなく居候先に選んだ、町のはずれに建てられた廃墟に住んでいる変人であるのではと、まことしやかに囁かれていた。
しかし、その真実を追い求めようとした者はいない。
男女の痴情の縺れ、男同士のプライドを賭けた無駄な喧嘩、女同士によるやっかみや僻み……。過去様々な人間関係によって修復不可能に陥ったパーティは数知れず。
同じパーティを組んでいるのでもないのに、他人のプライバシーに過度に踏み込むことはタブー。それが『空の怒り』の決めた、このギルドの掟だった。
ユウトがスローライフを送れているのは、実はこの掟による副産物の恩恵が大きい。そうでなければ、彼女たちの素性を漁ろうとする冒険者が、すでに行動に移していもおかしくないからだ。
しかし、世間話がてら話しかけて情報交換をする、もしくはパーティに誘うなどの最低限社交的ととれる言動であったり、また相手に拒否されなければ、他冒険者との接触は「可」とされている。
それくらいは受け入れなければ、《冒険者》などという仕事は務まらないだろう。
しかし、「最強のパーティは『静かなる乙女』」と格付けされる通り、彼女たちが冒険者から評価されているのはその実力にあった。
大人しめなパーティ名とは違い、粒ぞろいの風雲児として躍進を遂げていたからだ────。
王都にて元Cランク冒険者としての経歴があるが、フラッド町のギルドではFランクから始めたくせに、異常な爆発力によるスタートダッシュを決めたパーティリーダーのローリエ。
特に、誰ともパーティを組まずにソロで活動しないことは有名で、クエストの帰り道すがら、たった一人でAランクモンスターの《カオスドラゴン》を倒した武功は今でも語り草になっている。
次に、どこからともなくローリエが連れてきたリコリスとエルダー。
最初は「初めて"あの"ローリエがパーティを組もうとした冒険者、しかも自分から推薦してきた」ということで色眼鏡で見られていたが、その実力を確かめるべくギルドマスターが直々に1vs1を申し込んで力量を測ろうとしたのだ。
────結論から言えば、二人とも最後の最後には結局ギルドマスターに負けた。
だが、問題は勝ち負けではない。
「スゲェ……」
「あぁ……」
「あのギルドマスターがここまで……」
いくら一線を退いたとはいえ、フラッド町の誇りでもある『空の怒り(スカイ・レイジ)』相手に押しも押されぬ接戦を繰り広げたのだ。
それを見ていたギャラリーは、興奮気味に口々に語った。
「あっちのリコリスとかいう女、ただの八重歯と目深帽がトレードマークの女じゃねぇな。そこら辺で拾えそうな素朴な杖なのに、並々ならぬ魔力と威圧感を感じる」
「エルダーとかいう獣人も、スピードを生かした"いかにも獣人"って感じの戦い方だ。しかも背もでかいから、単純なパワー差でも負けてねぇ」
「接戦だったことには違いねぇ……。でも二人とも負けてたじゃねぇか、やっぱりうちのギルドマスターに勝てる奴はいねぇんだ!」
「確かに、あの二人も化け物だったが改めてうちのギルマスはそれを上回る化け物だってことが確認できたな!」
捻くれたものは手放しに誉めず欠点を論うが、知らず知らずの間に称賛の一つも混ざってしまう。それほど衝撃的で、脳内に刻みこまれる二戦となった。
特に、冒険者としての経験を積んでいたローリエに比べて、戦いのゴングが鳴った最初は誰の目から見ても、リコリスとエルダーは戦闘経験が少なく戦いなれていないように映ったからだ。いくら実力者のローリエが連れてきたとはいえ、当初の下馬評である「10:0」は覆ることはないだろうと誰もが思っていた。
実際、二人とも実戦経験はそこら辺のちょろいモンスターのみ。赤子がハイハイを覚えたようなものだ。
それもそのはず。生い立ちは違えど、戦わなければならない環境に置かれていたため、見られる程度としては独自の戦闘スタイルを確立していたが、所詮「付け焼刃」。
「……末恐ろしいガキ共だぜ、全く」
だが、その付け焼刃と戦ったギルドマスターが真に凄まじいと感じたのは────戦っていく中で尋常ではない速度で成長を遂げていく才能だ。
ギルドマスターの戦い方を学び、吸収し、自分のものにする。
さっきまでハイハイしかできなかった乳飲み子が、瞬きする間にいきなり立ち上がり、かと思えば言葉を喋り意思疎通が図れ、気づけば自分と同じ目線に立ち拳を交えていた────。
僅か二か月足らずでAランクに到達した成長曲線を見れば一目瞭然。誰もが羨む『神からの贈り物』を持っていたのだろう。それはもう、疑いようがない。
しかしギルドマスターは、同時にこう思った。
「……いつかは破滅するだろうな」
憐れだと────。
類は友を呼ぶとの諺があるが、同族嫌悪という言葉もある。
才能を持つもの同士が揃ったとて、手と手を取り合い仲良しごっこなんてのはあり得ない。必ず最後は袂を分かち対立してしまうのが世の常だ。
『勇者パーティ』が良い例だろう。《斥候の勇者》を追放してからは目に見えてガタが来ている。だが頑なに間違いを認めて《斥候の勇者》を呼び戻そうとしない。
強者を一か所に結集させても、結局はバラバラになるのだ。
程よい距離感、程よい関係性。それが長く続く秘訣である。
それはもしかしたら、『他人のプライバシーに過度に踏み込むべからず』という掟を作り、かつて伝説のパーティにいた『空の怒り』の経験則から来るものなのかもしれない。
「リコリスさぁ、今日の戦いでご主────う˝う˝ん˝!! えー、そのー、誰かさんに聞かせる冒険譚で見せ場作ろうとして、無茶苦茶しすぎじゃないですか!? 危うく貴方の魔法の爆発に、私まで巻き込まれるところだったんですけど!!」
「それ、ローリエちゃんがぐいぐい前に出るせいで私の魔法に巻き込まれてるだけなんだよなー☆ 自分から突っ込んでおいてそれは言いがかりだよねー☆ ていうか、今まで自分でやってこられたからって自分の力を過信しすぎじゃない☆?」
「でもエルダーは、ちゃーんと私に着いてきてますし、いつまでも後ろにいるリコリスがただ鈍間なだけなんですけど!? 足並みそろえてください!!!」
「エルダーはローリエちゃん一人に行かせると危ないからって、危険を顧みずに行ってるだけだよ☆ 足並みを揃えろって言うけれど、ローリエちゃんこそあんまりエルダーに甘えないでね☆」
「甘えてるのはアンタじゃないですか! 今日だって、疲れたとかなんとか言い出して、エルダーにおんぶして運んでもらったでしょう!」
「んなッ……わ、私は甘えてもいいんだもーん、ねーエルダー!」
「ま、まぁまぁ二人とも、ちゃんと私が飼い主様────じゃなくて、あの人に二人の良いところを語ってあげるから! ね? 喧嘩は止めよう?」
「ぐぬぬ……エルダーがそう言うならそうしましょう……」
「ぐぎぎ……エルダーの顔に免じてあげる……☆」
(いや……本当に破滅するよね?)
だが、ローリエの才能に寄せ集められたギフテッドは────なぜか不思議と均衡を保っていた。
こうした側面があるからこそ、『最強のパーティは《静かなる乙女》だろう』と呼ばれるのだ。
(彼女たちを突き動かすのは、高ランクになりたいという向上心や、もっと知らないモンスターと戦いたいという好奇心じゃない……)
ローリエとリコリスが、おそらく居候先の変人について語るたびに幾度なく衝突している様子が窺えるが、最終的にエルダーが間を取り持って着地している。
だがそれは、ギルドマスターですら踏み入るのもたじろぐような……言うならば乙女の秘密の園────。
(……仲良くやっているのだ。わざわざ藪をつついて蛇を出す必要もあるまい)
危険信号が赤を告げたギルドマスターは、今日も今日とて見て見ぬふりをし常務である書類仕事に励む。
「ろ、ローリエさん! 僕たちと一緒に臨時パーティを組みま────」
「ごめんなさい」
そして今日もまた、高嶺の花である彼女たちと親密になろうとして、取り付く島がないと諦める冒険者が産まれるのだった。
◇
ある日、何かと話題の尽きない彼女たちから再び冒険者の推薦があった。
「僕の名前はエキナシアと申します! 王都ではFランクの冒険者でした! 精一杯頑張りますゆえ、最後まで何卒────あ、この書類に名前を書けばいいんですね? あとお金も……あ、はい」
それは、まだ十代後半であろうローリエよりも更に若い、エルフの少女だった。
だが見た目や可憐さに惑わされて実力を推し量ろうとするのは、目の前の少女たちから散々教わった教訓である。
周囲の冒険者たちは、雨後の筍のような状況に戦慄した。
"また化け物がやってきたぞ"と。
────だが、彼女実力が見た相応だったことに冒険者たちが落胆し、彼女が愛嬌のあるただの女の子だと安堵するのにそう時間はかからなかった。




