第二十二話 同居人が増えたわけ
あの件が済んだ後、エキナシアは再び我が家を訪ねてくれた。
そこで少し気になっていた、どうしてエキナシアがあそこまで金に執着していたのか、その理由を話してくれた。
曰く、故郷で平々凡々と暮らしていたが、ある日突然お母さんが病気で倒れたらしい。
それの治療費を稼ぐために冒険者として一念発起したが才能は皆無。腕前は下の下なため中々上手く稼げず、そこに垂らされた一筋の糸が例の名指しされたのがあのクエストだったんだとか。
それも提示されたクリア時の報酬額は2500万ガル。母の病気を治すには十分すぎる金であり、喉から手が出るほど欲しかったに違いない。
そりゃ《斥候の勇者》を見つけられなかった場合のリスクを孕んでいたとしても、受けるしかないよな。
それに加え、基本的にいい噂しか聞かない《弓の勇者》がクエスト受注者ってことで食いついてしまったんだと。
それで当のエキナシアは、今何をしているかというと────。
「やりました師匠! 僕、Eランクに昇格しましたよ!! 万年Gランクだと笑われてたこの僕が!!」
────俺の家に居候することになった。しかもかなり懐かれた。
なぜかって?
「いやーしかし師匠が僕のお母さんの治療費を出してくれるとは……あ、ちゃんとお金は返しますからね! いつか僕もローリエさんたちみたいに、目指せAランクです!」
そう。
全額肩代わりしたのさ。
お母さんの治療費をね。
まぁ……例によって例のごとく……だよね。
結構ハードな人生歩んでて不憫な子だなーと、ちくりと良心が傷んだもん。しょーがないじゃん。
残念ながら、いくらコレクターの俺でも万病に効く薬は持ち合わせていなかったから、換金すれば結構な金になる宝石をエキナシアに持たせて一度里に帰らせたのだ。
正確に言えば薬は持っていたのだが、勇者パーティにいた頃、生まれつき重病を患った勇者がいたから使ってやったのだ。最もそいつは《賢者の勇者》と呼ばれた勇者で今はハルの軍門に下っていたが。
ま、俺も恩を返せとか思ってないし良いんだけど。
……いや前言撤回、やっぱりちょっとは気になるな。少なくとも金くらいは払わせるべきだったか。
とりあえず、俺の渡した宝石を換金したエキナシア一家は幸せな家庭を取り戻したらしい。お母さんの病気を治すことができた上、多額の蓄えもできたからだ。エキナシアから聞いた限りでは、両親はめちゃくちゃ俺に感謝していたらしい。
そしたらさ、エキナシアがこんなことを両親に言い出したんだって。
「お金を全部返し終わるまで冒険者を続けます!」だってさ。それで俺の家に居候しに来たって訳。
そのパターンこれで三回目ね。
しかもエキナシアの得物が短剣だったことから、短剣が得意である俺が指南してあげたんだが、そしたら「師匠」と呼ばれる羽目になってしまった。
エキナシアの金に執着していた理由はこれくらいでいいだろうか。
────次は、アルバート子爵のあの後について話そう。
ローリエ達が暴れに暴れたあの夜。
屋敷の近くをたまたま通りがかったギルドの職員が騒ぎを聞きつけて来たのだが、それより早く俺たちはエキナシアを置いてとんずら。
残されたエキナシアには、ギルドの職員たちに事のあらましを喋らせた。
『元《斥候の勇者》様を本当に見つけ出して連れて行ったらクエストの契約は反故にされ、さらに奴隷に陥れられそうになっていたが、それを見知らぬ三人の女冒険者と元《斥候の勇者》様が助けてくれた』と。
俺たちの情報を殆ど隠さずに喋らせたのは、彼女が嘘をつくのが下手くそだからだ。どうせ何言っても挙動が怪しくてバレるだろう。
まぁさすがに多少の嘘は混ぜたけどね。ローリエ、リコリス、エルダーの三人の名前は伏せさせて、尚且つ『王都の北にあるノトーリア町から《斥候の勇者》様を連れてきた』と。
アルバート子爵の記憶がうまいこと吹っ飛んでくれたこと。
それから虚実を上手い比率で混ぜ合わせてまたこと。
そして一刻も早くアルバート子爵の手から逃れたい兵士たちが、エキナシアに便乗して合わせてくれたこと。
この三つがカチリと嵌ったおかげで、今こうして俺は前と変わらぬ隠居生活を送ることができている。
……まぁ同居人は増えたけど。
そして現場に残されたキマイラの死体と、本来性的干渉を禁じられているはずの《普通奴隷》が保護されたこともあり、今回の一件とは別の様々な悪事が明るみに出ることとなった。
叩けば埃が出るとは言ったが、まぁ犯罪の証拠が出るわ出るわ。
表向きには禁止にされている奴隷の性的調教。無許可によるモンスターの飼育。ギルドに名指しで出していたクエストのマッチポンプになる証拠の書類。etcetc……。
ただやはりというか、ギルドからは本来貰えるはずだったクエストの成功報酬金が出ることはなかった。
ギルド側の言い分は「クエストそのもの自体が違法であるからギルドが肩代わりして支払う必要は感じない」。
アルバート子爵の言い分は「《斥候の勇者》を連れてこいなどというクエストを出した覚えはない」。
という両者の主張があったからだ。
だからエキナシアのお母さんの治療費は全部俺が肩代わりしたのさ。
「師匠! 今度は師匠が姿を消したやつ教えてくださいよ! あれさえ使えれば僕だってローリエさん達に引けを取らないと思うんですよ! そう思いませんか!?」
結果としては騒々しさが増しただけだけどな。
だってさぁ可哀そうだって思っちゃったんだよ。
いやわかってる。俺だってわかってんだ。
人を助けたいと思うのは、隠居してスローライフを送りたいっていう理想と矛盾してるって。
ただそれを押しのけてでもエキナシアを助けたいって思っちゃったんだ。
ただやっぱり、その思いとは裏腹に誰とも干渉しないスローライフを送りたいとも考えている。
矛盾したこの気持ちは、そう、────"エゴ"だ。
これは俺の純粋なエゴ。二律背反。断言できるし自覚もある。
でもエゴを貫ける環境にあるということは、逆説的に言えば、誰からも束縛されていない自由だという何よりの証だ。
俺の理想とするスローライフは果てしなく遠い。
「けど」
けど────勇者パーティにいたら決して手にできなかった自由は手に入った。
それだけで今は満足しようや。
なぁ、俺。




