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ごちそうさま

「お嬢さん、どうぞ」


 差し出されたお皿の上にはおにぎり二つ。声をかけてきたその人は初めて見る人だった。知らない人から何かを貰っちゃいけないと兄に言われてる。

 でもその兄はもういないのだ。兄だけじゃない、父も母も私を置いていってしまった。同じ病にかかったのに、私だけが運良く助かった。

 それからは家族の思い出の残ったこの食堂で毎日泣いてばかり。悲しむのに夢中でその人が入ってきたのも話しかけられるまで気付かなかった。

 病が流行る中、呑気に外食する人なんかいなくて、それにいつものお客さん達はみんな事情を知ってたから、誰も入ってこようとはしなかった。

 気遣わせて悪いと心の片隅で思いながらも応えるだけの気力が無くて。もし彼が来なければ、私は家族の元へ行こうとしていたのだろう。

 その瞬間まで家族を失った悲しみに生きる意思を無くしていた。食の細さも手伝い、糧を得る事を忘れてしまっていたぐらいなのだから。


「……食べていいんですか?」

「はい、ぜひ召し上がってください」


 嘆いてる間は食べなくても全然気にならなかったのに、泣き止んだら急にお腹が減ってきた。だから目の前のそれが凄く美味しそうに見えて。

 兄の教えは彼の笑みと食欲でどこかへ旅立っていた。いただきますと手にとって上の角を食んだら、あとは夢中で頬張っていた。最後の一口を飲み込む。

 美味しかったですか? その質問に私は何度も縦に首を振った。また泣きたくなるくらい、優しい味で。ありがとうと返した時にはまた泣いていた。

 涙を流しながら微笑む私を見て彼は目を丸くして、しばらくして目を細めた。そしてお嬢さんと私の頭を撫でながら教えてくれる。


「どんなに悲しくてもお腹は減ります、そういう時こそ美味しい物をたくさん食べたら良いんです。

 美味しい物は心も満たしてくれますから。自然と笑顔になるでしょう?」


 今まで一度たりとも私はそんな事考えなかった。けれど彼の言葉に同意する、彼が食べさせてくれたご飯にはそう思わせるだけの力があったから。

 それに涙でぐちゃぐちゃのままだけど彼の言う通り私は笑っていた。いっこうに拭わない私を見かね、彼が手ぬぐいで顔を拭いてくれる。

 可愛らしい女性には笑顔がよく似合いますからねと。そう慰めてくれた彼の方が綺麗でつい見惚れてしまう。熱は下がったはずなのに体が熱かった。

 私が元気になったからだろう。彼が荷物を持ち上げる。その動作へ私は考え無しに彼の服を掴んでしまい、それから驚く彼に名前を尋ねていた。


「名乗る程のものではありません、ただの食いしん坊の呪術師ですよ」


 結局教えてもらえぬまま、彼は次の患者の元へ向かって行ってしまった。いなくなってしまったのに彼の金色が目に灼き付いて離れない。

 胸がドキドキして自分が自分でいられなくなるような感覚に襲われる。これはいったい、なに? 漠然とした不安感を覚える。

 けれど、それを覆い尽くす心地よいぬくもりが胸を温めていた。それからはどの位その場に立ち尽くしていたのかわからない。

 我に返った時、傍には伊佐治が居た。何度も呼びかけていたらしい。何ぼーっとしているんだと怒られたけれど本当に気付かなかった。


「なんか変な男が入っていったって聞いたから来てみれば……何かされたのか?

 か、勘違いするなよ! 別にお前が心配だったとかそんなんじゃ」

「伊佐治、呪術師様はどうしてここに来てくれたの?」

「は? ……ああ、親父の治療終わった後にこの店の場所尋ねてたんだよ。

 なんか祖母におすすめされたとかで。その時に親父がお前の現状喋ったんだとよ」


 呪術師様、この店の料理を食べたかったんだ。ならさぞかしがっかりさせてしまった事だろう、なのに私を立ち直らせてくれて。

 もう一度会いたい、そしてちゃんとお礼がしたい。その為にはどうしたらいいだろう? ……そういえば呪術師様は食いしん坊だと言っていた。

 おばあさまに勧められたこの店の味を食べられる事こそ彼に対する恩返しになるのではないか。店を継ぐのはきっとお父さん達にとっても嬉しい事だ。

 だったら私はその道を行く。私はまだ成人もしてない子供だし、店の手伝いこそしてきたけど勉強や練習もたくさんしなきゃ。けどやるしかない。


「そんな事よりもこれからの事だけどよ、茜。

 おふくろがお前を引き取って良いって言ってんだ、俺もまあお前の事は、き、嫌いじゃねえし、だからよ」

「私、この店継ぐよ。一人でもやりとげてみせる」


 何を馬鹿げた事と私の決意表明を伊佐治は一蹴する。だけどそんな事で諦められる訳がない。彼の反対は切り捨て、私は料理人の道へと走り出した。


◇◇◇◇◇◇


「目が覚めましたか、アカネさん」

「え? あ、あれ、私……」

「熱下がりましたかね?」


 アカネさんが身を起こした所で声をかける、現状が把握できずアカネさんは困惑しているようだった。あの様子じゃ起きてすぐ倒れたみたいですしね。

 当てていた氷嚢をどけて掌を額で覆う。氷のおかげで一瞬冷気を感じたがすぐに熱くなった、でもさっきに比べたらだいぶマシになっている。

 祖父直伝の特製解熱剤はよく効いてくれたようだ。いやー意識無い相手に飲ませるのは大変でしたが頑張った甲斐がありましたよ。

 口移しすれば楽なんですけど、年頃の清らかなお嬢さんにそれは刺激が強すぎるかなと。後で知ってショック受けてたら気の毒じゃないですか。


「布団まで運んでくださったんですね、それに看病も……」

「はい。あと誠に勝手ながらお店休みにさせていただきました。

 やっぱりお客様も野郎の飯よりうら若いお嬢さんの料理が食べたいでしょうしね」

「何から何まですみません」

「いえいえ、いつもお世話になっていますからこの位は。

 疲労から来る風邪ですね。大病じゃ無くて良かったです……ゆっくり休んでくださいね」


 何か食べたいものはありますか、そう質問しながらアカネさんの顔を見やる。いつもならすぐに返してくれるのに今回はそれが無くて。

 アカネさんは物言いたげに私を見ていた。彼女の菫色に不安が泳いでいる、どうしたんでしょうか。でも安易に尋ねるべきでは無いと本能的に思った。

 泣きそうな顔をされ、ついつい気を惹かれるがどうにか堪え忍ぶ。長い沈黙をひたすら待ち続け、重々しくアカネさんは口を開いた。


「……ダンナさんに傍に居てほしいです」

「はい。お約束します、ずっと傍に居ますよ」


 不調の時は心細く、ついでに言えば人恋しくなるものだ。目覚めたら家族を失っていた彼女なら尚更だろう。だから私ははっきり言い切った。

 だがその次元で収まる話ではなかったらしい。俯くアカネさんの声は今にも消えてしまいそうなほど弱い。面を上げた彼女の眉は八の字を描いていた。

 じわじわとアカネさんの目尻に水が溜まっていく。懐より手ぬぐいを出す寸前、それは大粒となり掛布の上へと落ちていった。謝りながら彼女は語る。


「でも私、本当は悪い子なんです。ダンナさんに好きになってもらえるような良い子じゃないんです……。

 なのにさっきの夢を見るまで、私はダンナさんを騙してる事忘れてて、ごめんなさい、本当にごめんなさい……」


 実は昔お会いしていた事。その邂逅が料理人へのきっかけだった事。親切にしてくれたのは礼だった事。それを言い出せず後ろめたく思っていた事。

 ごめんなさい、ごめんなさいとアカネさんは全て白状した後もずっと言い続けていた。肉体的にも精神的にも彼女は弱ってる。優しくすべきだ。

 だが私は性根の腐った男だった。わかっておきながら付けいるような真似をするのだから。すみません、アカネさん。私は貴方と違って悪人なのですよ。


「どうして話せなかったんですか?」

「……怖かったんです」

「下心を知られて私に嫌われる事が、ですか?」


 核心を突けば、ひゅっと彼女が息を呑む。硬直するアカネさんに見えぬように私はほくそ笑んだ。本当に根性が悪いと自負はしている。

 でも仕方ないだろう。今にも踊り出したい位、浮かれているのだから。彼女はしばし視線を泳がした後、小さく小さく頷いた。

 そうやって一振りするだけでどれほどの勇気を振り絞ったのか。想像するだけで喜ばしい。にんまりと唇が緩み、声は勝手に歓喜を滲ませていた。


「嬉しいですよ、アカネさん。

 運命とやらはあまり信じないタチですけど、なかなか良いものですね」

「え……?」

「そりゃあ実は人妻ですとか言われたら私も悩みますよ?

 でも慕うお方に好かれたいと思っていただけるのは僥倖です。

 なにより下心があってはじめて恋ができるんですから」


 彼女の涙を舐め取る、言わば塩水のはずだが甘く感じた。私の理性は休業中である、戸惑いの極致に居るであろう彼女には酷だろうが我慢できなかった。

 ぺろぺろ堪能しているうちに血の気が無く白かった顔が赤らんでくる。ダンナさんと弱々しく呼ばれたが嫌がってるそれではなかった。

 こう可愛い反応されるとついおかわりしたくなるんですよね。抵抗する様子を見せないアカネさん、ここぞとばかりに私は欲望に忠実になることにした。


「お慕いしてます、アカネさん」


 そう言い放った私は彼女の顎を持ち上げて口付ける。びくっと彼女が身を引こうとしたがそれはさりげなく腰へ回していた私の腕によって遮られた。

 寝ている間は刺激が云々と吐き捨てていたが両思いと知ったならばもう関係無い。かぶりついて容赦なく舌も入れる、ほら獣ですので私。

 貪るうちに口端から混じった体液が零れるがそれすら興奮材料だ。彼女の体を引き寄せ強く抱く。ぎゅっと私の服に縋る動作が愛おしかった。


◇◇◇◇◇◇


「げほっ、ごほっ」

「ダンナさん、大丈夫ですか?」


 と調子に乗ってたら今度は私が風邪をひきました。そりゃうつりますよね、あの後も調子に乗って延々とキスしてましたからね! 自重なんか忘れました!

 それにしても辛い。自業自得と言えど、年取ってからはしんどいです。こつんとアカネさんが額を当ててくる、余計に熱上がりそうですね。

 病原菌まき散らすわけにいかないので私はお休みです。獣人特有の丈夫さのおかげでさほど酷くありません、不調でも自分一人ぐらい面倒見れます。

 でも彼女は心配して営業中も合間合間に様子を見に来てくださいました。あんな事をしでかした後ですし、ほぼ自分が元凶なのに。

 あの日の無礼は怒ってないんだとか、むしろ恥ずかしかったけど嬉しかったですと。天使か。いや女神でしたね! アカネさん本当に可愛いです!


「ダンナさん、はいあーん」


 彼女はお仕事を終わった今も看病してくれています。冷ましてくれたおかゆを口元まで持ってきてくれる、もちろん迷わずかぶりついた。

 アカネさんの手にかかれば、おかゆすらも美味しい。鼻水出て無くて良かったです。鼻詰まってたら味全くわからなくなりますし。

 美味しさに加え、彼女の心遣いのおかげもあって、あっという間に完食してしまった。ただ食欲が満たされた事で余計に辛い状況となってしまう。


「……ダンナさん、また熱上がってきてませんか? 何だか顔赤いですよ」

「いえ、大丈夫です。アカネさん、看病ありがとうございました。あとは一晩寝れば治るので」


 余裕がないせいか、つい普段より素っ気ない態度になってしまう。つれない私にアカネさんは目に見えてしょんぼりと落ち込んでいた。

 数少ない罪悪感か良心か、どっちでも大して変わりないか。何せよ、アカネさんを悲しませてる事実にそれらが痛むのだ。

 こんな姿を見てしまったら白状しないわけにはいかない。ふーっと息を一つ大きく吐く。何とか気持ちを落ち着けた所で説明する事に。


「私はこの通り獣人です。かなりの割合で獣の血が入ってるんですね」

「はい」

「獣というのは総じて生存本能が強いです、弱っている時は特に強まるんですね。

 どの生き物も何故生きているかと言えば……もうまどろっこいの嫌いなので単刀直入に言います」

「は、はいっ!」

「交尾したいです」


 溢れ出す性欲を押さえるのにいっぱいいっぱいで頭が働かない。お得意のオブラードを使えず、露骨に言い放たれた告白にアカネさんは固まっていた。

 人間は色々と考えるが、それ以外の生物にとって生きている理由は遺伝子を残す為だ。だから獣の血が通う私達は人よりも遙かに性欲が強い。

 それと獣人の数少ない欠点で、少しでも危機的状況に陥ると強制的に生殖機能が高まってしまうのだ。ほぼ発情期と同じ状況である。

 抑制剤は全て売り尽くしてしまったせいで手元に無い。作成するには本島特産の植物が必要だが、なかなか手に入れられずにいる。


 今の私は体調不良による傍迷惑な本能のおかげで繁殖活動に励みたくて仕方ない。なけなしの理性で押さえつけているが長くは持たないだろう。

 正式に婚約者になったとはいえ、さすがにこの状態で未通娘を襲うのは不味い事ぐらいはわかる。こうなると一度や二度では止まらないのだ。

 虎程酷くは無いと言え、狐も立派な肉食獣ですからね。しかも環境が悪い。夜行性たる狐が最も活発な時間帯、二人きり、しかも相手は想い人ときた。

 女性なら初体験に夢見たいでしょうし、私とてアカネさんに辛い思いはさせたくない。だから精一杯我慢して脂汗浮かべてでも笑みを作る。


「朝になったら収まってるので……」


 出て行ってくれと暗に伝えようとした私の口は開けっ放し。目の前にいるアカネさんの顔は恥じらいの色に溢れている、体温も上がってるらしい。

 彼女の熱に気付いたのは触れる手のせいだ。小さくやわらかなそれは私の耳に触れている。呆然としていたら指がどんどん毛に埋まっていった。

 あれ、私言いませんでしたっけ。説明しましたよね、意味。ダンナさん、そっと私を呼んだ声は少し震えている。でも彼女は確かにはにかんでいた。


「ふつつか者ですがどうかよろしくお願いします」


 この後めちゃくちゃ交尾した。


◇◇◇◇◇◇


「おいおっさん、アカ」

「男の子ですかね、女の子ですかね。名前は何にしましょうか、あ、一応色々考えてみたんですけど」

「遮った上に無視すんな!」


 愛する奥さんとの至福の時を邪魔され、不機嫌が顔に出る。相当酷い形相をしていたらしく、一瞬イサジさんは怯えを見せた。他愛ない。

 こっちは新婚なんです。それも昼間に懐妊がわかって二人で喜びを分かち合っていた所。そこへ乗り込んでくるのは無粋ではないでしょうか。

 今に始まった事じゃないですけど。これだけ私の対応が粗雑になってもめげない根性だけは認めましょう。それ以外は無に帰って頂きたい。


「イサジさんは胎教に悪いんでさっさと帰れ下さい、土に」

「さりげなく毒混ぜんな! 恥じらいなく俺の前でも堂々といちゃつきやがって!」


 恥じらうアカネさんを膝の上に乗せて、私は後ろから彼女を抱きしめていた。大事な夫婦のスキンシップにケチ付けられる筋合いは無い。

 彼女に離すようねだられたが、いっそう腕に力を込める。それでもアカネさんは抜け出そうとしていたが、しばらくして諦めた。

 その代わり、ダンナさん意地悪ですとそっぽ向かれて拗ねられる。でもそんな所も嫌いじゃ無いでしょう? 耳元で囁けば俯かれた。

 ただし耳は真っ赤である。ついでにいえば、うなじも桃色に。これこそショートカットの旨味ですよね! ロングでもお似合いでしょうけど!


「俺の存在忘れて二人の世界に入るなつってんだろうが!

 もう手短に言う、おふくろと親父からの祝いだ。

 結婚早々身ごもったのは驚いたけどおめでとうだとさ!」

「おじさん、おばさん……」

「アカネさんは皆から好かれてますね。

 ありがとうございます。今度、改めてお礼に行きますね」

「いいかげんくっつくの止めろや!」


 怒り任せにイサジさんは机を叩く。こんな夜遅くに迷惑ですよ、そんな大きな音立てたら。物に当たるのは勝手ですけど弁償はしてもらいますよ。

 内心では色々考えつつスルー。そうこうしているうちに荷物を置くと彼は逃げるように欠けていった。いつもながら騒々しい人である。

 彼が見えなくなったのを見計らってアカネさんの項に噛みつく。ひゃんっと鳴いた彼女の体が跳ねたが私の腕はそれぐらいじゃびくともしない。

 本気で暴れられたら多少は怯みますけどね。アカネさんは私の愛撫に嫌がる様子は見せません。真っ赤にはなりますけど、いつまでも初々しくて可愛い。

 個人的には休んでいてほしいのですが、まだお店で働きたいという彼女の為、鬱血も歯形も控えておく。目立つ場所には付けませんよ。


「え、えっと、あの、ダンナさん、やっぱりそういう事したいですか……」

「いえ、さすがに身重の方を襲ったりしませんよ。

 たださっきみたいに触れる位は許していただければ幸いです」

「それは大丈夫というか、その……良かったです。

 私もダンナさんに触れてもらえるの嬉しくて、けど赤ちゃんできたらやっぱりダメかなと思ってたから」

「……気が早いですけど、子だくさんな未来がありありと見えますね」

「えっ」


 うちの奥さんが愛おしすぎておかしくなりそうだ。こんな可愛らしい方が相手じゃ我慢できる自信がありません、する気すら起こりません。

 おかげで共に夜を過ごさない日など無かったですよね、そりゃ三月で孕みますよ。たぶん次の子も長子と差の無い……もしかしたら年子かもしれない。

 何にせよ、まずは目の前の一人目と奥さんを支えなければ。つわりは殆ど無いみたいですけど、薬の調合とか色々やることはたくさんあります。

 これからに思いを馳せる……どうやっても笑顔の日々しか浮かばない。嬉しくて彼女の肩へ顔を埋める、甘える私をアカネさんは受けとめてくれた。


「ダンナさん、大家族がいいんですか?」

「そうですね……もともと子供好きですし、それに血縁いなくて結構寂しかったので」

「……私もダンナさんの子供たくさん欲しいです」


 その答えに感極まった私は、彼女にもおなかの子にも負担がかからないよう、それでも強く抱きしめる。自分は世界一の幸せ者だ。

 だからこそ、かつて自分が貶めた人達よりも多くの人を幸せにしようと思える。呪術でも料理でも。難しいが彼女達がいてくれれば不可能では無い。

 本能に頼ったのは間違いでは無かった。なんせこんなにも素晴らしい女性を妻にできたのだから。ダンナさん、ダンナさん、笑みの彼女が呼ぶ。


「私、もう一つダンナさんに隠していた事があるんです」

「なんですか?」

「……私も一口惚れでした」


 おそろいですね、なんてそんな可愛い顔で言うのは反則ですよ。咄嗟に口付ける、彼女のその唇すらも優しく甘い味がした。

ダンナ

どうあがいてもロリコン。駄目だコイツ早く何とかしないと。お巡りさんこいつです。の三拍子が揃った中年狐(36)

根性がひん曲がってて色々ぶっ飛んでる。食い意地張ってて美味しいご飯が何より好物。好意も下心も隠さないセクハラ魔。

なまじ顔が良く優秀なので質が悪い。若くてかわいい愛するお嫁さんに次々子供生んでもらったリア獣である。爆発しろ。


アカネ(茜)

料理上手かつ重すぎる愛情を受け止める器量があったせいで、ケモ耳おっさんに娶られちゃった飯塚食堂の若店主兼看板娘。

しっかり者だが色恋沙汰には疎い。「伊佐治と結婚すると思ってた」と言う周囲に「え、どうして?」と場を凍らせた位には鈍感。

端から見ればHANZAIだが、本人は一途に自分の事を愛してくれる初恋相手である旦那様と可愛いきつねこども達に囲まれて幸せ。


イサジ(伊佐治)

気がついたらずっと好きだった幼なじみが怪しいおっさんの嫁になってた。意地っ張りも大概にしないと痛い目に遭うという典型的な例。

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