9.優等生の事情と空っぽな教育
「キーファ・コリンズでしょ? 超優秀」
サイーダは端末を叩く手を止めずに、後ろを向いたまま話す。何かの資料を作っているみたいだ。
「全系統の魔力も計測最大値までいくし、ペーパーテストも完璧。お父様も、魔法省のトップじゃない?」
「そんなに優秀なんですね……」
「けど、魔法の発現が皆無」
リディアは、借りてきた教科書から顔を上げて、首を傾げた。
「それって――」
「そう、魔力は桁外れに高いのに、魔法が使えないの。理由は不明、だからそっちに行ったんじゃない?」
くるりと回転椅子を回してこちらに向き直り、サイーダは語る。
「っていうか、あなたのところの境界型魔法領域って何?」
「――ですよね」
一、二年生は基礎魔法の技術と実践、研究の基礎を学ぶ。
四年生になれば、六系統のうち自分の系統が判明しているから、その領域を選択するのだ。
教員も、火系領域、水系領域、などのように領域別にそれぞれ教授、准教授、助教と在籍している。
けれど、リディアは、境界型領域――。
自分が着任している領域だが、正直、それは何? と、思った。
「エルガー教授が作ったんでしょ? 六系統に分類できない魔法の研究もすべき、とね。言ってることは立派だけど、結局何を教えているの?」
シラバスは空白で何も書いていない。
教授が今後のトレンドになると先読みして作った領域みたいだけど、魔法省も六系統魔法以外の魔法を定義していないのだから、指針にすべきものがない。
でも教えるのは自分だ。
「国試の範囲を押さえろって、言われたのですけれど」
「ようは、あなたのところって、能力を持て余した生徒を集めて、なんとか卒業させるんでしょ」
手厳しい。もしかしたら、他の先生方みんなに、そう思われているのかもしれない。
「……そうなのかしら」
「前の先生も、こんなんじゃやってらんないって辞めたしね」
(私も、六系統に入らない魔法師だったからな……)
その経験を生かしてほしいって、スカウトされたのだけど。
――入ってみて、この領域の構成が空っぽだと気づかされた。
落ち着いた眼差しで、休みにも関わらず勉強していたキーファは、そんな現実を知らないで、リディアの領域を選択したのだろうか。
そう思うと、なんとも言えない感情――行き場のない嫌な感じの、もやもやがこみ上げてくる。
その理由の一つは、自分も何をすべきかもわからなくて、彼等の教育の足を引っ張っている気がするからかもしれない。




