表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改訂版】『リディアの魔法学講座』~呪われたヒロインが『春風のリディア』と呼ばれた理由~  作者: 高瀬さくら
2.大学講義編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/23

8.初生徒との出会いは図書館で

 グレイスランド王立大学は、総合学科を持つ大学だ。

 ただリディアは、州都の西の森に囲まれた田舎のビチェ区にある魔法学科専門のキャンパスに配属となった。


 ここは本キャンパスよりも小さいが、図書館棟も敷地内に一建物として存在している。内部は、透明な硝子窓が天井まで広がっており、採光がよく明るい。

 

 館内は、生徒の姿がなくて閑散としていた。明日から始業で、授業は来週からだからだろう。

 

 リディアはシラバスを参考に自分の担当の教科書を探すが、最新版がない。ひどい場合は初版しかなく、借りられているわけでもない。揃えていないのだろう。


(とりあえず、古くてもそれを借りて……新しい教科書は、授業前にどこかで手に入れて確認できたら)


 だいたいさ、とぶつぶつ頭の中で呟く。

 どの教科書を使うか昨年中に教授に問い合わせていたのに、返事はなかった。 

 

 早く授業資料を準備しておきたいと思っていたのに、できなかった。


 説明を受けてから準備をすればいいと、新任だから猶予をもらえるだろうと、自分が甘い読みをしていたことにも、自分で自分に腹が立つ。


 それにしても、通常は研究費で自分の研究資料を買う。 

 ――図書館で借りる教員なんているのだろうか。

 

 こんなに教科書を借りてしまって生徒に悪いなと思いながらも、開き直る。

 持っていないのだから、仕方がない。


 十冊ほど両腕で抱えながら閲覧スペースを通りかかったリディアは、本だけを積み上げてある無人の机に目を向けた。


(あれ? あの『魔法分類六』と、『新装版 魔獣大全』、『新分類 輝石と魔力―応用編』って、うちの指定教科書?)


 ふらふらと近寄りながら、顔を傾けて覗き込む。


 確かにうちの指定教科書が揃っている、しかも新品同様。

 本を持つ片手を外して積み上げられた一番上の『魔法分類六』を裏返してみると、図書登録シールが貼付されていない。

 私物だ。


「あの……」


 背後に人が来たと気づいたのと、かけられた声は同時だった。

 すみませんっ! て、言いながら振り向いたら、十冊の本を支えていた片手に限界がきて、手にした本が凄まじい音を立てて全部落ちた。


「す、すみません!」


 まずは周囲に謝る。

 とはいえ誰もおらず、遠方の貸出カウンターで司書が立ち上がりかけていたけれど、先制で謝罪したからか、座る姿が見えた。


 そして、目の前の男性――ずいぶん背が高い栗色の髪の青年に、改めて頭を下げる。


「すみません、勝手に触って。その――探している本だったので」

「――」


 探している本だからって、普通は人のものに触らない。

 自分で突っ込んでしまう。


 真面目そうな水色の眼差しに、非常識なことをしたと反省する。彼の目線を追うと、椅子に置いた彼のデイパックの口からは、財布らしきものが覗いている。


(――盗もうとしたって疑われても、仕方ない!)


「触っていません。本以外は、何も! 本当に!」


 そう繰り返してみたが、強調することが寧ろ怪しいのではないか。

 彼が無反応で屈んでリディアが落とした本を拾い始めたので、慌ててリディアもしゃがんで拾う。


「――同じ本ですね」


 彼の発言に、見ていた理由がわかってもらえたかと、誤解を解かなくてはと口が逸る。


「はい、でも私のは初版なんです。魔法分類は指定が第二版でしょう? 図書館にはこれしかなくて」 

「うちの大学は、あまり蔵書は充実してないから。新入生?」

「え!?」


 彼を見返すと、困惑の眼差しが返ってくる。


 リディアは、大学院を出た今年は二十歳になる。


 魔法師になったのも特別措置だったから、通常のルートより早いし、大学院は「魔法師経験が五年以上あること」、という条件を満たしていたから入れた。


 けれど教員としては、異例とも言える若さであり、確かに――学生に見えるかもしれない。


 彼は大人びた雰囲気だけれど、二十歳前後だろう。

 

 けれど――年下に見られている?


「ああ基礎は終わっているのか? というか、まさか――境界型魔法専攻?」


 全く同じ指定教科書を持っているのだから、気づかれるのは当然だろう。けれど、境界型魔法の領域ということは、彼は生徒だ。 


 リディアの教え子になる。だがおそらく、リディアより年長だ。


「ええと、そうだけど――」

「外部生? 俺は内部から上がってきたキーファ・コリンズ」


 魔法学科は、外部からの編入生も多い、そう思われているのだろうか。差し出された手に困惑しながらも、手を握る。


「リディア・ハーネスト、よろしく」


 そう言って握手しながらふと思う。ここに来て、手を差し出されたのは初めてだ。


「あのね、その私は――」

「すみません、私語は慎んでください」


 鋭い声で注意してきたのは、先程カウンターに居た司書だった。

 

 いつのまにか二人の後ろに立っており、険しい顔で注意をされて、リディアも彼も慌ててすみませんと、口にした。

 そのまま司書は仁王立ちしており、それ以上口を開くことができず、リディアは「では」と彼に頭を下げて、背を向ける。


(教科書貸して……なんて言えないよね――)


 せめて初版と第二版を見比べさせてもらえたら。


 でも、「これから授業資料を作るの」、「教科書がないのよね」、そんな情けないことを言う教師に教わりたいだろうか。


(――言えない……)


 明日になれば教師だとわかるだろう。どっちみち、明日には、変な人だと思われるだろう。


(今、わざわざ言わなくてもいいか)


 それとも、騙していたって、不審に思われるかな。

 信頼を失わないといいけれど。

 

 そんな事を考えながら、リディアは図書館を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ