3.戦闘開始
“到着した”
ディアンの報告が届く。
魔力を使っての思念による通話だ。
“了解。十カウント後、突入”
リディアは、横で備える魔法師に合図する。
“うまくやれよ。――リディア”
これは励ましだ。
(ありがとう――先輩)
通話を切って、そっと胸中で呟く。
リディアはディアン率いるソードに在籍経験がある。
彼は団長でリディアの上司であり、学校時代の先輩だ。
彼のほうが段違いの実力者だが、今回全ての指揮を執るのは自分。
緊張するのも不安になるのも、これで最後。後は実行のみ。
「ああ、ちょっと待って」
正面扉前まで音を立てず、すばやく身を寄せたリディアは、オーク材に鉄板が打たれた頑丈な扉を前に、破壊しようとする魔法師を止める。
「あなたと、私で左右同時に壁を壊す。どうせ敵は扉の左右に待ち構えているだろうし、壁ごと吹き飛ばしちゃって。ただ、破壊した石は風化魔法、穴の周囲は強化魔法で固めて天井を落とさないように。全て同時ね」
それを指示された魔法師――ディックがマジかよ、と呟く。
けれどリディアは、彼の実力を知っている。
彼は細かい調整をする魔法が面倒で、やらないだけ。
彼も天才なのだ。
けれどヘイが、妙に訳知り顔で背後から口を出す。
「では私が、強化魔法をかけましょう。リディア殿、彼もあなたも、微細な調整を必要とする三つ同時の魔法を一人で負うのは無理です」
ディックが僅かに口角を歪めた。そして口を開く。
「俺を何だと思ってんだよ、ソードだぜ、おっさん。んなの、わけねーよ」
それから、と彼は続ける。「リディアって言うな。それはうちの――」
「――リトラ師と私で充分です。それより破壊と同時に迅速に突入することを優先して下さい」
リディアは、ディックを遮る。
ディックは、リディアが皆の前だからと“リトラ師”と名字を仰々しく呼んだことにムスッと口を閉ざし、ヘイは表情を消して引き下がり、ボウマンはぶつぶつと文句を言っていた。
***
リディアたちが壁ごと吹き飛ばした相手は、五名ほど。すぐに仲間が倒れた敵の拘束に向かう。
ボウマンは敵の首謀者――首から数珠を垂らした教主と対峙している。
ボウマンの左右を守る団員がいない。
敵が魔法銃の銃口を彼に向けるのを見て、リディアは金属性変化の魔法を広範囲にかける。
途端に十倍の重さになった魔法銃を取り落とす男たち。
リディアが攻撃魔法を使わず、補助魔法にしたのは、相手が民間人だから。
それから、この広間に何の魔法が仕掛けられているか、わからなかったからだ。
相互作用を警戒しなければいけない、そんなこと改めて注意しないでもわかるはず、そう思っていたのに、ボウマンが手を振り上げて唱えたのはお得意の火球魔法だった。
まさか、魔法の相互作用を気にせず攻撃をするとは思わなかった。
(落ち着いて。落ち着けば、対処できるから)
何かが起きたら、自分がフォローする。そう自分に言い聞かせる。
教主は焦ったように何かを投げ捨てる。ボウマンがそれに火球をぶつける。
ジュッという音をたてて、火を宿したそれは地に落ちる。教主はそのまま身を翻す。
「追え、追え!」
ボウマンは叫び、頭上でロッドを振りかざす。
指示に皆が従おうと足を踏み出した瞬間、教主が落とした何かが光を発する。
――何かの魔道具だ。魔獣が出現しようとしているのを感じる。
「召喚獣、下がって!」
どの魔獣が呼び出されたのか。
(炎か、氷か、毒か、どの攻撃をしてくる? 強化するとしたら、どの耐性をつける?)
「――リディア。援護、頼む」
横をすり抜けたのはディックで、魔法剣を構えていた。
彼は召喚された魔獣の出現と同時に攻撃をする気だ。
感覚を研ぎ澄ます。
自分は第三師団の人間だ。
シールドは、ソードに比べて、守りに特化した部隊、だから補助系魔法は自分の専門。
目を凝らし、生まれようとする魔獣に及ぶ魔力波を感じ察知する。
(火属性の魔力が多い)
「竜だ。火竜だ!!」
誰かが叫んだ。
”――水よ風よ、結べ。強靭な守りとなり、お前を焦がす火炎を防げ”
リディアは詠唱し、先鋒のディックには二重の氷の盾を、左右に広がる敵を含む全員を守るよう大気を凍らし氷の紗幕を張る。
召喚獣の吐いた豪炎が部屋中をなめ尽くすかのように広がったのは、同時だった。




