34.5I 回り始めた長州 ―伊助―
仕事がバダバタしていて、しばらく不定期なるかもです。
【伊助視点】
朝の城下は、
少しずつ暖かくなっとった。
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伊助は、
荷を背負って歩いとった。
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政変が終わってから、
もうしばらく経つ。
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でも。
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(なんか)
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(変わったな)
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そんなことを思う日が増えた。
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最初は気のせいかと思っとった。
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城下は城下じゃ。
店もある。
武士もおる。
町人もおる。
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見た目は、
そんなに変わらん。
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でも。
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歩いとると、
違和感みたいなもんがある。
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「おう、伊助」
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後ろから声。
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振り向く。
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藩士じゃった。
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名前は知らん。
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でも。
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知っとる顔じゃ。
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「西門の様子、どうじゃ?」
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「異常なしです」
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「そうか」
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それだけ言うと、
藩士は歩いて行った。
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伊助は、
しばらくその背中を見とった。
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(……慣れん)
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少し前なら、
考えられんかった。
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百姓の自分に、
武士が普通に話しかける。
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しかも。
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仕事の話を。
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(変な時代になったなあ)
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思わず笑ってしまう。
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そのまま城下へ入る。
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米屋。
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魚屋。
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油屋。
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どこも忙しそうじゃ。
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でも。
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前と少し違う。
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「役所から返事来たぞ」
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「もう決まったんか?」
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「昨日出したばっかりじゃろ?」
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「最近早いんじゃ」
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そんな声が聞こえる。
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伊助は少し足を止めた。
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(そうなんよな)
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前は、
何を聞いても時間がかかった。
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誰かが聞く。
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誰かが持っていく。
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誰かが待つ。
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そして。
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何も返ってこない。
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そんなことも珍しくなかった。
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でも今は違う。
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遅いこともある。
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間違うこともある。
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けど。
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返ってくる。
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(動いとる)
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ちゃんと。
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そのとき。
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「伊助!」
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声。
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振り向く。
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奇兵隊の仲間じゃ。
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「何しとる」
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「届け物じゃ」
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「終わったら来い」
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一拍。
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「飯じゃ」
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伊助は思わず笑った。
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「また高杉殿ですか」
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「また高杉殿じゃ」
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二人で吹き出す。
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最近、
こういう笑いが増えた。
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政変の頃は違った。
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みんな。
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怖かった。
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張り詰めとった。
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でも今は。
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少しだけ。
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前を向けとる。
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そのとき。
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城下の向こうで、
子どもたちが走っていった。
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声を上げながら。
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笑いながら。
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春の風の中を。
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伊助は、
その姿をしばらく見とった。
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(……ああ)
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理由は分からん。
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でも。
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たぶん。
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長州は、
少し良くなった。
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少なくとも。
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あの日、
功山寺へ向かった夜よりは。
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ずっと。
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伊助は小さく息を吐く。
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そして。
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仲間の待つ方へ、
ゆっくり歩き出した。
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春の空は、
高く晴れていた。




