27.報せ、多すぎても人って止まるんじゃね
昼前には、
机の上が紙だらけになっとった。
西門。
東門。
火薬。
兵糧。
見張り。
俗論派。
次々、増える。
しかも。
(……字、読みにく)
急いで書いた報せは、
殴り書きみたいになっとる。
誰が書いたかも、
分からんものまである。
⸻
「山縣さん!」
また声。
「西門、兵増えてます!」
「さっきも聞いた!」
「いや、今度は二十です!」
「えっ、さっき十五じゃなかった!?」
「いや三十って聞きました!」
(……どれ)
山縣の頭が、
一瞬止まりかける。
⸻
しかも。
「火薬届きました!」
「いや、届いてません!」
「どっち!?」
「えっ……たぶん届いて……」
(たぶん!?)
思わず、
心の中で叫ぶ。
(“たぶん”で戦するな!)
⸻
周囲も、
少しずつ苛立ち始めとった。
「誰の報せじゃ!」
「さっきと違うぞ!」
「だから確認中じゃ!」
声が大きくなる。
空気が荒れる。
(……っ)
山縣の背中に、
嫌な感覚が走る。
(これ)
(回ってるんじゃない)
(流されてる)
⸻
その瞬間。
ふっと、
昔の光景が浮かぶ。
(……あ)
修学旅行の班LINE。
集合時間。
変更。
また変更。
誰かの聞き間違い。
スクショ。
別の先生情報。
最終的に、
「で、どれが本当!?」
ってなったやつ。
(……あれだ)
情報が増えすぎると、
逆に止まる。
(同じだ)
⸻
「止めてください!」
気づけば、
山縣は叫んどった。
場が、一瞬止まる。
「全部、持ってこんでください!」
全員が、
ぽかんとする。
(……言った)
でも、
止まらん。
「確認した情報だけ!」
「あと!」
一拍。
「誰から聞いたか、書いて!」
沈黙。
でも。
みんな、聞いとる。
⸻
「山縣さん」
伊助が、小さく聞く。
「確認って、どうやって」
(……そこだよね)
山縣は、
一瞬だけ考える。
(全部は無理)
(じゃあ)
(絞る)
⸻
「見る場所、決めます」
一拍。
「西門は、西門の担当だけ」
「火薬は、火薬担当だけ」
「他の人は、混ぜないで」
周囲が、
少しずつ静かになる。
⸻
(……あ)
山縣は、
そこで気づく。
(これ)
(クラスの連絡係だ)
誰でも連絡すると、
ぐちゃぐちゃになる。
だから。
連絡係を決める。
(同じか)
⸻
「つまり」
伊助が、ぽつりと言う。
「誰が言っていいか、決めるんですね」
「そう!」
山縣は、
思わず食い気味になる。
「全部が全部、同じ重さじゃない」
一拍。
「情報にも、役割があります」
言ってから。
(……情報に役割)
自分で少し驚く。
(そんなこと考えるようになったんだ)
⸻
そのとき。
「ほう」
後ろから声。
大村益次郎。
「情報の階を作るか」
(……階?)
「誰でも声を上げられる」
一拍。
「だが、誰の声を通すかは別」
静かに続ける。
「それが、組織じゃ」
山縣は、
少しだけ息を飲む。
(……また一段上だ)
⸻
そのとき。
「おーい!」
また、でかい声。
――高杉晋作。
「飯、まだ来んのかー!」
(……この人)
周囲が、
一瞬だけ止まる。
でも。
今度は違った。
「台所担当!」
「高杉殿の飯、優先!」
「誰か持ってって!」
勝手に流れが動く。
⸻
(……っ)
山縣は、
そこで気づく。
(流れって)
(自分で回り始めるんだ)
全部を命令せんでも。
形があると。
人は、
勝手に動き始める。
⸻
山縣は、
机の上の紙を見下ろした。
まだ多い。
まだ混乱しとる。
でも。
(昨日より、見える)
少しずつ。
本当に少しずつ。
長州が、
“国”みたいになり始めとった。




